2009/10/31

練習とか次のこととか

明日の本番のための練習と、次の計画に向けての種まき。

練習から帰宅後、久々にメールを書きまくっている。次のことを考えられるってのは、今回の演奏会については運営などに携わっておらず、余裕があるせいかなあ。

【演奏会情報】 Espoir Saxophone Orchestra

ぎりぎりの告知になってしまった…。小編成アンサンブルステージで、アラン・ベルノーの「四重奏曲」の第1, 4楽章を吹いているほか、さりげなく(?)大編成の曲にも参加しています。いまさらだけど、大編成のステージの編曲者の面々、すごいなあ。

【Espoir Saxophone Orchestra 8th Regular Concert】
出演:Espoir Saxophone Orchestra、福井健太(指揮)
日時:2009年11月1日(日)13:30開演
会場:府中グリーンプラザけやきホール(京王線府中駅下車徒歩1分)
料金:入場無料
プログラム:
J.シュトラウス/圓田勇一 - 喜歌劇「こうもり」序曲
P.デュカス/中尾敦 - 交響詩「魔法使いの弟子」
C.サン=サーンス/佐藤尚美 - 交響詩「死の舞踏」
G.ビゼー/ミ・ベモルSE - 「アルルの女」第二組曲
小編成アンサンブルステージ
問い合わせ:espoir.sax@gmail.com

2009/10/30

ロンデックスとブロディの二重奏曲集

VMware上でUbuntuの仮想マシンを動かして遊んでいたら、いつの間にか時間が経っていた。昔に比べると、仮想マシンも快適に使えるようになったなあ。

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そういえばこんなCDもあったなと思って引っ張り出してきた。以前もブログで紹介したが、改めて聴いてみた。ジャン=マリー・ロンデックス Jean Marie Londeix氏とポール・ブロディ Paul Brodie氏の二重奏曲集。ロンデックスの名前はともかくとして、ポール・ブロディ氏の名前はあまり知られていないかもしれないが、1934年生まれ、カナダの黎明期~中期を代表するサクソフォン奏者の一人で、これまでに2500回に及ぶコンサートに出演し、「サクソフォン大使」の異名をとる。

この私が持っているCDは、LPの盤起こしをしたCD-Rなのだが、原盤出版元はなんとGolden Crest(1975年録音)で、おなじみの独特の残響を伴った音楽を楽しむことができる。ちなみにこのCD-R、なんとブロディ氏自身が復刻作業を行ったもので、以前eBayに出品されていたものを買った。たしか12ドルくらいだったかな。今は取り扱っていないようだが。

収録されているのは、テレマンのカノン風ソナタから4曲と、ルクレールのソナタから3曲。いずれもロンデックスが編曲したもので、Leducより出版されている。

テレマンは、曲によってアルト+テナー、ソプラノ+テナー、ソプラノ+アルトなどと持ち替えられており、なかなか楽しい。音色や美妙なニュアンスのコントロール、そして何より発音の美しさは、さすがにロンデックスに軍配が上がるが、ブロディもなかなか健闘していると思う。あと個人的には、ルクレールの緩叙楽章のゆったりとした雰囲気が好きだ。寄せては返す波に揺られているような心地になる。

どちらがどっち、ということをあまりあまり感じさせない(感じるけど)アンサンブルの妙に、この録音の価値があると思う。仲良いんだろうなあ。そうでもしなければ、フランス人とカナダ人がアメリカで録音セッションするなんていうインターナショナルな企画、実現しないだろう。

2009/10/29

Abato plays Façade

これも、島根県のF様に送っていただいた。ウィリアム・ウォルトン William Waltonの「Façade」は、イギリスの女流詩人エディット・シットウェル Edith Sitwellの詩に、ウォルトンが音楽をつけた作品。私にとっては「Façade」というと、どうしてもあの驚異的なシカゴ・プロ・ムジカの演奏(DONAXさんによるレビューはこちら)を思い出してしまうのだが、ここで演奏されているのは歌い手にHermione GingoldとRussell Oberlinを迎え、もとの詩をつけたバージョンである。演奏メンバーは、以下。

Thomas Dunn, conducter
Hermione Gingold, voix
Russell Oberlin, voix
John Solum, fl
Theodore Weis, trp
Charles Russo, cl&bscl
Vincent Abato, sax
Charles McCracken, vc
Harold Farberman, perc

シカゴ・プロ・ムジカ盤の演奏に慣れていると、どうも他の演奏を聴けなくなってしまうのが苦しいところだが(あの演奏の前においてはやむを得ないか笑)、雰囲気という点ではいかにも"エンターテイメント!"という趣に仕上がっており、ひとつの完成されたアルバムとして大変価値あるものだと思う。

男声パートであるRussell Oberlinの「アメリカン・エンターテイメントの一番美味しいところを持ってきました!」的な語り口は、これはもうある意味音楽や娯楽の「公理」みたいなもので、そのことについて文章として起こすのが憚られるほどの普遍的な楽しさを持っている。アバトのサクソフォンが、また良い味を出しているのだ。語りの2人と、インタープレイ的にアンサンブルを繰り広げるTango-Pasodobleなど、じっくり聴いてみると、その豊かな音楽にぞくぞくする。

完璧さを追求したシカゴ・プロ・ムジカ盤、楽しさを追求した本盤、という住み分けで聴くと、それぞれの良さが際立ってくるかもしれない。どちらが良いかは、お好みで。

2009/10/28

Abato plays Ibert, Glazounov

ヴィンセント・アバトが、イベールとグラズノフを吹いたというLPをトランスファーしていただいたもの。島根県のF様に送っていただいた。Nonesuch Rocordsというところから出版されたものであり、この録音が素晴らしいという話はたくさん聞くけれど、サクソフォン界では最高の名曲と言われるイベールにグラズノフということで、ミュール、ヌオー、デファイエ、ドゥラングルらが吹きこんだ録音と比べた時に正直どこまでの演奏であるのか予想がつかず、期待半分・不安半分で聴き始めた。が、これが期待を裏切る(?)ほどの素晴らしさで、これは紹介せねばと思った次第。

イベールは、まずオーケストラが良い!オーケストラの名前が明記されていないということは、録音のための寄せ集めのオーケストラなのだろうか。それにしては非常に統制がとれてすっきりした演奏であり、加えて爽快なスピード感も併せ持っているという、イベールのオーケストラとしては理想的な形なのではないだろうかと思った。アバトのサクソフォンは、さすがに急速楽章の技術的な難所では、やや苦労している点が見受けられるものの、これまた不思議と魅力ある演奏だ。

グラズノフは、こちらはサクソフォンの独奏が素晴らしい。今まで聴いた中でも、最高レベルに位置するものだと感じた。センスの良いヴィブラート、息の長いフレーズなど、これはもうアバトが持つ音楽的センスが最大限に生かされた独奏だろう。オーケストラは、ちょっと音程高めで明るい音だが、ためてほしい部分をスラスラと進んでしまって、そういう意味ではロシア音楽の様式として、やや不足な点があるのかなあと思う。それでも、レベルの高い演奏であることに間違いはない。

ジャケットも縮小コピーしていただいたので、演奏情報が読めるのだが、イベールはSylvan Shulmanという指揮者が、グラズノフはNorman Pickeringという指揮者が振っているようだ。録音年がわからなかったのだが、これはいつごろの演奏なのだろうか(ちなみにステレオ)。ヴィラ=ロボスの「ショーロスの形式による五重奏曲」とフルートとファゴットのための「ブラジル風バッハ第6番」が併録されている。LPの最後に進むにつれて、どんどんと編成が小さくなっていくというのも、なかなか面白い配置だ。

2009/10/27

Hans Richter - Filmstudie

Hans Richterの「Filmstudie」という1926年に制作されたサイレント映画がある。のちに、ダリウス・ミヨー「世界の創造」の序曲が付けられたということで、それだけでもちょっと驚きなのだが、しかもその付帯音楽となった録音(1932年)でサクソフォンを吹いているのが、かのマルセル・ミュールなのではないかという話がある。

フィルムは、Ubuwebというサイトから参照できるほか、YouTubeにもアップロードされている。目玉がフワフワと浮いたりしてちょっと不気味な内容だが、実験的な内容でなかなか面白い。

2009/10/26

La Escapada

なぜか、Molenaar EditionのことをMoleneer Editionと覚えていた…どこで間違えたんだろう。それはさておき、ジュリアン・プティ氏のアルバム第4弾。この記事で最後となる。

「La Escapada(Lyrinx LYR230)」という、サクソフォンとピアノで演奏されたアルバム。収録曲は、ファリャとかアルベニスとか、実にまっとうなクラシック音楽の小品たち。なのに、ジュリアン・プティという音楽家のすごさを知るには、このCD一枚だけでもこと足りてしまう。正攻法でいて、しかしそのベクトルがはるか雲の上に突き抜けてしまった、素晴らしい一枚。

普遍的なこと、普通であることを突き詰めていくのって、とても難しいと思う。北極星に向かって大砲を撃つようなもので、初速が足りなかったり、ほんの少し発射角がぶれてしまえば、最終的な狙いは目的地から外れたところになってしまうのだ。さまざまな条件が完璧である場合にのみ到達し得る境地…。

M.de Falla - La Vida Breve
M.de Falla - Suite populaire espagnole
H.Villa Lobos - Fantasia
I.Albeniz - Suite espagnole
F.Millet - La escapada

基本的にソプラノサクソフォンで演奏される。一曲目から、ファリャの「はかなき人生」のメロディがゆたかな弧を描く。上質で、耳当たりの良い澄んだワインのような音色が心地よい。技術的な難所であってもすらすらと進み、音色・音程はまったく破たんしないのは、見事というほかない。

ヴィラ=ロボスの「ファンタジア」を聴いている。隅々にまで神経が張り巡らされて、一音一音を、ここまで生き生きと演奏することが可能なのか!という驚き。音符ひとつを取り出したとしても、なんだか勝手に動き出しそうだ。高い技術は、みずみずしい音楽ただそのためだけに使われている、理想の形。

あー、自分のボキャブラリーが貧困なのが悔やまれるが、これは聴いてみてくださいとしか言えないなあ。vandorenscoresなどで買えるはずなので、お持ちでない方はぜひ。

2009/10/25

Trio Klezele "Poccha"

ジュリアン・プティ氏関連のアルバム第3弾。2記事ほど空いてしまったが、CDを実家に持って帰るのを忘れてしまっていたので、しょうがない。前々から決まっていた帰省だったのだが、やっぱり準備はしっかりしないとダメですね(笑)。

Trio Klezeleは、クレツマー音楽を演奏するために結成されたトリオ。サクソフォンのジュリアン・プティ氏が参加している。こちらのアルバムでも数曲演奏しているのだが、演奏する喜びと聴く喜びがそこかしこに溢れた素晴らしい音楽を紡ぎだし、しかも驚異的なまでの完璧な技術力(プティ氏はアドルフ・サックス国際コンクールで第2位を獲っているほど)をもってさらにその価値を高めているトリオである。

Yannick Lopes, accordéon
Julen Petit, saxophone
R$eacute;my Yulzari, contrebasse & composition

このアルバム「Poccha Freylekh from Vladivostok(Integral INT221.231)」は、2008年にこのTrio Klezeleがロシアのウラジオストクに演奏旅行した時のライヴ録音を収めたアルバムだ。ウラジオストクというとシベリア鉄道を思い出してしまうのだが…微妙に日本から近いことに不思議な感覚を覚え、まさかこんな極東?にまでTrio Klezeleが来たことがあるとは、知らなかった。せっかくだから、日本にも来てくれれば良かったのに~。収録曲は、以下。いくつかの曲は、アルバム「mosaïque」とも重複している。

たぶん前半:Khupah Tants, Glatter Bulgar, Rumanian Doina, Terk in Amerika, In Law's Dance, Fun Tashlikh, Heyser Bulgar, Oy Tate, Glik, Tumbalalaika, Avinu Malkenu, Glezele Wayn
たぶん後半:Onde de Choc, Le Souffle du Guerrier, Ot Azoy, Berdichever Khossid, Tish Nigun, Bb minor Bulgar, Zeydns Tants, Sirba, Kalinka, Hava Naguila, Freylekh from Warsaw

女性が「それでは、トリオ・クレツェールです!」と紹介する声から始まり、ライヴ盤としての雰囲気が一気に高まる。中速くらい曲を、ユーモアや各種テクニックを交えつつ最初の一曲目から観客の心をがっちりとつかんでいる様子がわかる。曲が進むにつれて、どんどんと拍手が大きくなっていき、前半の最後は、濃密なゆっくりした曲を2曲続けた後の、Glezele Wayn。それほど派手な曲でないはずなのだが、これがどうして、魅せるなあ。

後半は、最初のOnde de Chocから超絶技巧の嵐。聴きながら目を点になってしまった。掛け声を叫んだり、観客に手拍子をあおったり、はたまた歌ったり(歌わせたり)と、もうノリノリ!曲の最中に客席から拍手は出るは叫ぶわ大爆笑するわの、前半の3倍の盛り上がりだな、こりゃ(^^)CDからも雰囲気は十分すぎるほど伝わってくるが、これは会場で体感したらもっと楽しかっただとうな。

一部は、ムービーで観ることもできる(→こちら)。ぜひ一度観ていただきたい。この楽しさはなんかあまりサックスっぽくないが、強烈にオススメしたい。サクソフォンでも似たようなコンセプトに取り組んだものとしては、New Art Saxophone Quartetの「Songs and Dances(enja)」などがあったが、それと肩を並べるほどのものかもしれない。

2009/10/24

デファイエのマウスピースについて補足

I studied with Professeur Deffayet from 1979 to 1981. For Alto he did play a handmade Georges Charron metal with adjustable lay and tuning sleeve on his Buffet S1. He simply adjusted the tip opening with this mouthpiece to suit his reed strength needs. He told me that three mouthpieces were made and one of them worked. Jacques Terry who played tenor in his quartet also played a Charron mouthpiece.

わたしは1979年から1981年までデファイエ先生の下でサクソフォンを学びました。その時期、デファイエ先生はビュッフェのS1に、ジョルジュ・シャロン George Charron氏製作のマウスピースをつけて吹いていました。そのマウスピースは、ネジ一つでティップ・オープニングを変えることができ、リードの硬さによってそれを調整していました。デファイエ先生曰く「(アルト用は)3本作られたが、1本だけがうまくいった」と教えてくれました。ジャック・テリーもまた、シャロン氏のテナー用メタルマウスピースを使っていました。

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出典はSOTW。今まで知られていた事実(デファイエ氏自身によって語られた内容)に加え、なんとお弟子さんの証言で「3本作られた」という事実が明らかになった!そして、そのうち一本だけがうまくいった、とな。それは知らなかった。

ところで、この「お弟子さん」は誰だろう。1981年シーズン卒業ということは、ドゥラングルやフルモーにも近い世代だ。東京に戻ったら調べてみよう。

(追記)

SOTWに書き込みをしていたMichael Adamcik氏は、パリ音楽院の学生ではなかったとのこと。ヨーロッパで学び、最終的にノースウェスタン大学を修了したサクソフォン奏者だとのこと。雲井さん、情報ありがとうございました。

2009/10/23

実家に

有給休暇を取って、短い帰省。

高速バスから八ヶ岳のすそ野を望む。長野の山々の紅葉は、実に見事だ。

2009/10/22

Quatuor Carré Mêléのアルバム

ジュリアン・プティ氏関連のアルバム第2弾。プティ氏がソプラノサックスを吹いている、Quatuor Carré Mêléのアルバム「Saxophares et Sémaphones(CM01/1)」をご紹介。Quatuor Carré Mêléは、1998年にパリ国立高等音楽院のサクソフォン科の学生により結成されたアンサンブル。2000年にFNAPCの室内楽コンクールで入賞しているほか、2002年にはラジオ・フランス絡みで賞を受けているということ。メンバーは、以下の通り。バリトンのシャプラン氏だけが2002年卒業(ジェローム・ララン氏と同期、井上麻子さんの一個上)で、その他の3人が2001年卒業とのこと。2001年の卒業というとあれですね、鈴木純明氏の「凧」が課題曲だった年ですねえ。

Quatuor Carré Mêlé
Julien Petit, soprano saxophone
Olivier Besson, alto saxophone
Ronan Baudry, tenor saxophone
Nicolas Chapeland, baritone saxophone

この不思議なアルバムタイトルは、たぶんあれかな、saxophoneとsemaphore(信号とか合図の意)を掛けたのだと思う。その意図することころはイマイチ良くわからない(解説がフランス語なので)のだが、このアルバムを聴くのに言葉は必要ないなと感じた。プログラムは、以下。

J.Whelan - Trip to Skye
R.Becker - Le marchand de chaussures électriques
R.Gary - Saxophares et Sémaphones (text)
Y.Chauris - Graal en quête
Traditional - An awen
R.Becker - Chant d'amour pour Kermaria
B.Menut - Trop breizh
Traditional - Celte O'Carré
B.Menut - Pen enez
R.Becker - Gavotte d'hiver
D.Squiban - Porz qwenn suite
A.Hervé - Celtic Medley

全体的な響きは、民族音楽、ジャズ、ロック、クラシック音楽の融合、といった趣。しかしどれも非常に洗練された響きで、テクニックや音楽も申し分なく、完成度の高いアルバムだ。このアルバムを聴いて何が楽しいかというと、時折非常に耳を刺激する響きを持つ曲がある、ということ。単純にリズムのエッジが立っているとか、カッコイイから、ということではなく、妙に心の琴線に触れる曲があるなあと感じた。

例えば一曲目に置かれた「Trip to Skye(なぜかジャケットにはSkyと書かれているが、正確にはSkyeである)」。テナーとバリトンの導入部に続いて、アルトが何気ないメロディを奏で始めるのだけれど、そのメロディにすっと惹きこまれてしまう。何気なく部屋のステレオ(とは言わないのか?)でかけているCDに、「おっ」と反応してそのまま一曲聴きとおしてしまう、そんな不意を突かれたような幸せな感覚。そこから先も多種多様な楽曲が続くのだけれど、たぶんどの曲が誰にマッチするか、というのは、人それぞれなのだと思う。

私などは、一曲目とか、Chaurisの「Graal en quête」とか、それから伝承音楽の「Celte O'Carré」、さらに最後の二曲あたりにぐっと心をつかまれた(最後のケルティックメドレーは、賑やか!!)。…お。メロディやリズムに心をつかまれるなんて、素敵じゃないですか。あまりサクソフォンのアルバムらしくない、というところも、すっと曲に入っていける理由なのかもしれない。

2009/10/21

mosaïque

フランスのサクソフォン奏者、ジュリアン・プティ Julien Petit氏のアルバムを、昨シーズンまでカンブレ音楽院(プティ氏が教鞭を執っている)で学んでいたMさんに、まとめて持ち帰ってきていただいた。なかなか国内では流通しづらいCDも含まれており、非常にありがたい。Mさん、ありがとうございました。というわけで、ここから4記事ぶんはプティ氏のアルバム紹介縛りとなる(笑)。

「mosaïque(Loreley LY020)」は、ジュリアン・プティ氏が参加しているクレツマー音楽のトリオ、Trio Klezeleと、チェロのBéatrice Reibel(プティ氏の奥様だとのこと)、ピアノのJuliana Steinbachが参加したアルバム。どんなんかなーとプログラムをみてみると、一見なかなかにごった煮な感じの曲目。だが良く聴いて&考えてみれば、実は民族音楽的なものを基本テーマにして選曲しているのではないかなと思えてきた。

Maurice Ravel - Kaddish (vc, pf)
Klezmer Music - Opshepiel far di Mekhatonim (sax, ac, cb)
Klezmer Music - Freylechs from Warsaw (sax, ac, cb)
Klezmer Music - A Glezele Vayn (sax, ac, cb)
Ernest Bloch - 3 Chansons (vc, pf)
Klezmer Music - Der Gasn Nigun (sax, ac, cb)
Klezmer Music - Der Glater Bulgar (sax, ac, cb)
Rémy Yulzari - Onde de choc (sax, ac, cb)
Rémy Yulzari - Le souffle du guerrier (sax, ac, cb)
Serge Kaufman - Suite Yiddish (vc, pf)
George Perlman - Dance of the Rebbizen (vc, sax, pf)
Klezmer Music - Avinu malkenou (sax, ac, cb)
Klezmer Music - Khupah tanz (sax, ac, cb)
Klezmer Music - Little Galitsian dance (sax, ac, cb)
John Williams - Theme from Shindler's List (vc, pf)
Yves Chauris - Esquisses (vc, sax, ac, cb)

まず、ジュリアン・プティ氏のサクソフォン(このアルバムはすべてソプラノサクソフォンだが、ソプラノが得意なのかな?)について言えば、技術、コントロール、音楽性すべてが想像を絶するレベル。想像を絶するというか、そもそも楽器というインタフェースの存在を意識せずに、ここで奏でられているのはまさに「ジュリアン・プティ氏の音楽」そのものであるところに恐れ入る。

音程を外したり、リズムを揺らしてみたり、特殊奏法で音にアクセントを加えてみたり、そういった細工が、さらにサクソフォン音楽としての可能性を推し進めているという印象をも受けた。これは、楽しい。こういうアルバムを聴くと、まだまだサクソフォンも楽しいぞ!捨てたもんじゃないぞ!と思えてしまうのだ。

2009/10/20

アバトの演奏考

文に起こしてみると、ますます不思議になるもので…。アバトの演奏の、言葉では表しがたい魅力について、じっくり考えてみたくなった。

テクニック的には、ミュール、ラッシャー、デファイエ、ロンデックス、といったプレイヤーと比較してしまえば、なんてことはない。微妙にリズムが転んでいる部分もあるし、技術的に上のクレストンの演奏は、いくらでもあるだろう。音色が特別すばらしいかといわれると、確かに美しい音色であることは間違いないのだが、たとえばルソー、フルモーやマーフィといった、スーパーニュートラル&絶妙なレガート奏法を持つ奏者だということでもない。アナリーゼ的にも、別段変なことをやっているわけではなく、至極まっとうな演奏である。

演奏についてのひとつひとつの要素が、絶妙な比率でブレンドされたときに、人の心に共鳴するポイント、というものがあるのだろうか。なんでもない演奏が、妙に感動を呼び起こすことはあるけれど、そういうことなのだろうか。たぶん、狙ってできるものではなくて、突き詰めたり、楽しんだり、爆発したり、そういった過程で偶然に出てくるものなのかもしれない。

まったく関係ないけれど、アバトはクラリネット(オーケストラ・プレイヤーだったそうだ)と持ち替えってのも、ちょっと気になるポイントではあるな。演奏に対する考え方は、サクソフォンの専門家のそれとは違うのだろう。

2009/10/19

Vincent Abato plays Creston's Sonata

ヴィンセント・アバトという奏者の名前を知ったのは、この記事を読んだとき。ミュール、ラッシャー、デファイエ、ロンデックスという良く知られた名前に加えて、「…アバト。アバト??」と首をひねったものである。アメリカにこんなプレイヤーがいたことへの驚き、しかし音を聴くことが叶わず、ずっと聴きたいと思っていたプレイヤーの一人だった。

ジュリアード音楽院に学び、クラリネット、バスクラリネット、サクソフォンを専門とした演奏家。ロサンゼルス・フィル、ボストン・ポップス、ニューヨークフィル、メトロポリタン歌劇場オーケストラなどと共演したという経歴が見られ、セシル・リースンやラリー・ティール(アバトのほうが10歳ほど年下だが)らとともに、まさにアメリカのサクソフォン黎明期~中期を代表するサクソフォン奏者であったといえるだろう。クレストンの「サクソフォン協奏曲」を初演したのも、アルフレッド・リードが有名な「バラード」を捧げたのも、アバトである。

島根県のF様にダビングして送っていただいた録音は、そのアバトがポール・クレストンの「ソナタ」を吹いているというもの。驚いたことに、ピアノを弾いているのはポール・クレストン自身(!)である。コロンビアレーベルのディスクで、ML 4989という型番が付いている。さっそく聴いてみると、なるほど、誰の耳をも納得させる、そして誰の耳をも惹きつける演奏だ。ときどき見られる「ニュートラル」という表現とは違うような気がするし、なんだか不思議な魅力があるなあ。快速で飛ばす第3楽章は、とにかく楽しい。

2009/10/17

いろいろ

来年の6月のサクソフォニーの練習・打ち合わせとか、来年4月のアマチュアサクソフォン交流会の事務作業・声かけとか、いろいろなことが重なっている。だが、何かひとつの目標に向かって歩みを進めている感覚は、非常に楽しいものだ。

それにしても、サクソフォニーの合わせは面白いなあ(今日はあざみ野で練習でした)。お互いほぼ初めての方同士が顔を合わせる醍醐味もあるけれど、それだけでは表わしきれないなんとも不思議な魅力がある。

Pol Mule conducts...

マルセル・ミュール Marcel Mule氏は生前、奥様のポレットさんとの間に2人の子供をもうけている。その2人ともが音楽家となり、長男のPolが指揮者、次男のJacquesがフルーティストとして活躍した。Pol Muleは、フランス各地のオーケストラと共演したり、マルセイユ音楽院の講師を務めたりと、活躍したようだ。Jacques Muleのほうも、ナンシー音楽院でフラウト・トラヴェルソの講師を務めるなどしている。

そのミュールのご子息の音は残っているのかなあなどと、実は今まで考えたこともなかったのだが、島根県のF様より、Pol Muleが指揮を振ったという盤をダビングしていただいた。なんとORTF Barclayの盤(リヴィエのダブル・コンチェルトを思い出す)で、ジャック・ランスロを独奏に迎えてジャン・フランセの傑作「クラリネット協奏曲」をやってしまったというLP。オーケストラは、ニース室内管弦楽団 Orchestre de Chambre de Niceである。

恥ずかしながらフランセの「クラリネット協奏曲」というのは初めて聴いたのだが、ああもう素晴らしいですね。エスプリを空間いっぱいに振りまきながら軽やかに進むクラリネット!ランスロの独奏の、なんと美しく身軽なことか!稀代の音楽家だったんだなあと、これは誰に対しても思わせてしまう演奏だ。オーケストラも、フランスの流麗な響きをたっぷりと湛えている。ときどき調子外れな音を出すのはこの時代のフランスの地方オケならではかな?笑。指揮者のポル・ミュール氏の働きがどうであるか、というのは、さすがに判断しかねるが…。

併録は、ジャン=ミシェル・ダマーズのピアノ作品、「二台ピアノのためのソナチネ」「小組曲」「タランテラ」「カリヨン」の4曲。ピアノ独奏はMichèle Elise Quérardという方だが、二台ピアノの作品ではダマーズ自身もピアノを弾いている。こちらもまた、素敵な作品だ!「小組曲」というのがイイですね。最初の楽章で、バッハの「ゴルトベルグ変奏曲」の第一変奏ような感じで始まるかと思えば、ミステリアスな第2楽章、技巧的なスケルツォの第3楽章、跳躍が印象的な第4楽章と、それぞれに異なった音楽のスタイルが与えられており、興味深く聴いた。

2009/10/16

Northshore Saxophone Trioの録音

杉原真人さんより、Northshore Saxophone Trioの録音を送っていただいた。

Christian Lauba - Ars (2sax)
たかの舞俐 - Jungibility (pf)
William Karlins - Introduction and Passacaglia (2sax, pf)
たかの舞俐 - LigAlien I & IV (2sax, pf)

の四曲で、2月にNorthshore Saxophone Trioが来日して行われる演奏会のプログラムに近いものだ。杉原さんには、感謝申し上げる次第。

ロバのアルスは有名だが、たかの舞俐という作曲家(ウェブページはこちら、mckenさんありがとうございます→http://www.maritakano.com/)の、「Jungibility」とか「LigAlien」という作品は初耳。そして、「Music for Tenor Saxophone」で有名なウィリアム・カーリンズの「Introduction and Passacaglia」という作品は、初めて耳にした。

1990年にポール・ブロディとウィリアム・ストリート(二人ともロンデックスにゆかりが深い…)に捧げられたというカーリンズの作品は、実に渋い!全体のがっちりした構成感はさすがだが、それ以上に聴きどころも多数用意されている。最後の3分くらいの音の厚みで、耳が飽和しそうになった。アルトサクソフォンとテナーサクソフォンのための作品のようであるが、お二人の演奏の、冒頭部の心持ち怪しいユニゾンの音色が非常に印象的である。

たかの舞俐氏の両作品は、大変面白く聴いた。スタイルとしては、ロックか民族音楽あたりの鋭角的なリズムの上に、走句やさまざまなモードを重ねて音響を構築していく、といった風である。響きとしてはかなり鋭いが、とてもかっこよく、一気に聴きとおしてしまった。ときどき日本のペンタトニックっぽいモードも現れたりして楽しい。Northshore Saxophone Trioの面々は、これらの楽曲をかなりアグレッシヴにこなしていく。表現のレンジは非常に幅広く、それをガッチリと支える技術力も最高だ。圧巻は「LigAlien IV」の最終部!これはぜひライヴで聴いてみたいなあ。この怒涛の雰囲気は、Perry Goldsteinあたりの作品にも通じる雰囲気がある…かな?

2009/10/15

Gap 1978、雑記

昨日の記事のデータについて、いくつか雑感を書く。

・審査員のアントニー・テスニとは、アントワーヌ・ティスネ Antoine Tisnéのことではないかな?と思った。そして、第一次予選に取り上げられたという「難曲」は、1978年に作曲されたティスネの「Espaces Irradiés」のことではないかなあと思ったのだが、阪口氏の言葉によると「無伴奏曲」だということだったので、そもそも編成が違うし、初演は1980年とのことだし。「Espaces Irradiés」はアルト・サクソフォンとピアノのための作品なのだ。もしかしたら、コンクールの審査で聴いたドゥラングル教授の演奏に感銘を受けたティスネが、のちに作品を捧げた、とかなのかなあ。

・一次予選の選択曲は、半数以上がクレストンとボノーだった、とのこと。このあたり、クレストンの有名なエピソードについては、Thunderさんのブログに詳しい。

・二次予選の日本人参加者の描写を、石渡氏のレポートより抜粋する。
…十一番目にやっと武藤氏がデニゾフのソナタとイベールのコンチェルティーノを、見た目には非常に落ち着いて演奏した。途中でチューニングをたっぷりしたりして一見悠々とはしていたが、本人の話では無我夢中だったとのこと。二人おいて下地氏が出場した。ロベールのカダンスを、難所を乗り越えて立派に演奏したのを聴いて「これはいけるぞ!」と心の中で叫んだのだが、次のイベールで事故を起こしてしまった。楽器のせいかどうか解らぬが、右手小指を使用する部分が何かにひっかかったのか、音が出にくくなってしまった。そこで本人はあわててしまったのか、最後まで吹きはしたが私の知る彼の演奏ではなかったように思われた。最後から二番目十九番にやっと宗貞氏が出場して、デニゾフとイベールを演奏した。彼のデニゾフは東京ではなかなか巧くゆかなかったのが、二年間でこれほど巧くなるものかと思われるほどの演奏であった。イベールは少し硬くなってしまったのか、彼本来の演奏よりちぢこまってしまったように思われた。


・本選進出者のうち、ドゥラングル氏、フルモー氏、クヌーセル氏、武藤氏は、パリ音楽院の同門・同期である。フーシェクール氏も、同門の一つ下。皆驚いていたことだろうな(笑)。それだけ、当時のデファイエクラスのレベルが高かったということだろう。

・本選の指揮者は、なんとマルセル・ミュールの息子であるポール・ミュール Pol Mule氏。これは知らなかった…。

・本選の描写を、阪口氏のレポートより抜粋する。
…なお、このオーケストラのメンバーにはチェロとクラリネットに二人の日本人がいた。
 最初はアメリカの女性(注:リタ・クヌーセル)、エレガントな美しい音であったが狭いステージにオーケストラと並び、何かやりにくそうでイベールは終わりまでしっくりしていなかったが、このコンクールのための課題曲のコンスタンのコンセルタント(原文のまま)はみごとに演奏した。二番目はフランス人(注:フルモー)でブートリーのディヴェルティメントと指定曲、ノー・ミスでガッチリした演奏であった。三番目は日本の武藤賢一郎君、イベールと指定曲でイベールのに楽章のテンポが気になり、指定曲はまあまあであった。四番目は十九歳の小柄なフランス人、ブートリーと指定曲を非常に情熱的な良い演奏をしたが少しオーバー気味。五番目は金髪のフランス人(注:ドゥラングル)、デュボアのコンチェルトを暗譜ですばらしい演奏をしたが、終りのほうでミス、オーケストラとしばしのあいだ合わず、ハラハラさせたが、私は彼が当然一位と考えた。


・本選の描写を、石渡氏のレポートより抜粋する。
…決勝ではさすが全員打ち合わせたようにタキシードの正装で演奏していた。唯一の女性、アメリカのリタ・クヌーセル嬢の黒いパンタロン姿はとりわけ目立っていた。
 五人の演奏曲目は、指定曲のほかはデュボアのコンチェルトが二人、イベールのコンチェルティーノが二人、ブートリーのディヴェルティメントが一人であった(注:あれ?阪口氏のレポートと矛盾があるぞ…)。わが武藤氏は三番目に指定曲とイベールを演奏し非常に好演であった。しかし一番目のリタ・クヌーセルは技術抜群、二番目のフォルモー氏は非常に表現力豊かで大きな音楽的才能を私たちに示してくれた、私と加藤氏の採点では巧くゆくと武藤氏が三位入賞だと二人で喜んでいた。何故なら、最終的に三位になったフーシェクール氏はまずまずの演奏で、また最高位と思われるドゥラングル氏はデュボアの曲を暗譜で演奏したが、三楽章の途中で大きなミスを重ね、オーケストラと合わなくなり危や止まるかとさえ思われた。このようなミスは他の楽器のコンクールでは大失点になるのではないかと思われた。しかし指定曲は非常に良い演奏であった。技術ともども豊かな音楽性を感じさせた。

2009/10/14

1978年ギャップ国際サクソフォンコンクール・データ

1978年のギャップ国際サクソフォンコンクールは、現パリ国立高等音楽院教授であるクロード・ドゥラングル Claude Delangle氏が最高位(一位なし二位)を受賞したサクソフォンのコンクールということで有名であるが、これまでまとまった資料を見ることがなかった。

しかし今回、島根県のF様より、当時のバンドジャーナルに掲載された石渡悠史氏と阪口新氏のレポートのコピーを送っていただき、その全容を知ることとなった。これはとどめておくのがもったいない!ということで、本ブログ上でご紹介したい。そうそう、記事を読んでいて知ったのだが、サクソフォンのみを取り上げた国際コンクールとしては、これが世界初のものだったそうだ。

まずは、基本的なデータを読み取れる限り掲載する。考察はまた今度。

主催:ギャップ市
後援:フランス文化庁
組織委員長:マルフェ(ギャップ音楽院院長)
顧問:セルジュ・ビション(リヨン音楽院教授、当時のフランスサクソフォーン協会理事)
期間:1978/7/15~1978/7/22
会場:フランス、ギャップ市
審査員(所属は当時のもの):
マルセル・ミュール(前パリ音楽院サクソフォン科教授、審査委員長)
マリウス・コンスタン(パリ音楽院作曲科教授)
アントニー・テスニ(アントワーヌ・ティスネのことか?パリ音楽院管弦楽法教授)
ギィ・ラクール(サクソフォン奏者、作曲家)
ポール・クレストン(作曲家、アメリカ)
フレデリック・ヘムケ(サクソフォン奏者、アメリカ)
イワン・ロト(サクソフォン奏者、スイス)
グライッチェル(ニュルンベルク音楽院学部長、ドイツ)
阪口新(東京芸術大学教授、日本)

【一次予選】
期間:1978/7/16~1978/7/18
参加者:69名(フランス30名弱、アメリカ20名弱、日本、カナダ各7名、スイス、ベルギー各3名、イタリア、セネガル、アルジェ、アイルランド各1名)
二次予選への進出者:20名
日本からの参加者:佐藤典夫、服部吉之、武藤賢一郎、宗貞啓二、下地啓二、佐々木雄二、野田燎、前沢文敬(敬称略・野田氏は棄権)
課題曲:委嘱新作と、選択曲のなかから1曲(計2曲)
指定曲:コンクールのために書かれた新作(「特殊な現代奏法がたくさん使われている非常な難曲」とのこと)
選択曲:クレストン「ソナタ」、ボノー「ワルツ形式のカプリス」、パスカル「ソナチネ」他計6曲
制限時間:約10分

【二次予選】
期間:1978/7/20
二次予選進出者:20名
うち日本からの参加者:武藤賢一郎、宗貞啓二、下地啓二(敬称略)
本選への進出者:5名
課題曲:選択曲A群とB群から1曲ずつ(計2曲)
選択曲A群:デニゾフ「ソナタ」、ロベール「カデンツァ」、バセット「ミュージック?」他計4曲
選択曲B群:イベール「コンチェルティーノ」、ブートリー「セレナーデ」他計4曲

【本選】
期間:1978/7/22
本選進出者:リタ・クヌーセル、ジャン=イヴ・フルモー、ジャン=パウル・フーシェクール、クロード・ドゥラングル、武藤賢一郎(全員がパリ音楽院の卒業生)
課題曲:指定曲と選択曲1曲ずつ(計2曲)
指定曲:マリウス・コンスタン「コンチェルタンテ」
選択曲:デュボワ「コンチェルト」、イベール「コンチェルティーノ」、ブートリー「ディヴェルティメント」他
共演:ポル・ミュール指揮プロヴァンス・コートダジュール・オーケストラ
結果:
第1位:該当者なし
第2位:クロード・ドゥラングル(フランス)、ジャン=イヴ・フルモー(フランス)
第3位:ジャン=パウル・フーシェクール(フランス)
第4位:リタ・クヌーセル(アメリカ)
第5位:武藤賢一郎(日本)

マルタンのバラード

といっても、アルトサクソフォンの「バラード」ではなく、テナーサクソフォンのための「バラード」の話。

スイスの作曲家、フランク・マルタン Frank Martinは、ジュネーヴ音楽院にゆかりの深い作曲家。バロック~古典のジャンルに傾倒したのち、指揮者エルネスト・アンセルメに影響を受け、近代の印象主義へと自らの音楽創作をシフトしていった。「近代の印象主義」といっても、たとえばドビュッシーの全体を通した浮遊感とか、ラヴェルの古典+オーケストレーションとか、そういう音楽ではなくて、どこか厳格な雰囲気を漂わせるなかに12音音楽をはじめとする新しい響きを織り込んだ、そんな作品が多いと思う。そんなにたくさんの作品を聴いたわけではないけれど…。

サクソフォンのための作品は、シガード・ラッシャー Sigurd Manfred Rascherに捧げられたアルトサクソフォンとオーケストラのための「バラード(1938)」と、テナーサクソフォンとオーケストラのためのバラードを作曲している。特に、アルトサックスの作品はメジャーですね。しょっちゅう国際コンクールの課題曲にもなるし…。

テナーサクソフォンのための「バラード」は、もともとはトロンボーンのために書かれた作品であるが、作曲者自身の意向により、テナーサクソフォンのためのヴァージョンも同時に出版されているというもの。アルトサックスの「バラード」と比べると、さすがに飛び道具的な派手さには欠けるものの、実に渋く厳格な"いぶし銀"的な作品であり、間違いなくテナーサックスにとって重要なレパートリーであると思う。高テンションのまま、たった8分で最後まで駆け抜けるというのもいいですね。コンパクトにまとまっていることも、この作品を佳作たらしめている理由だと思う。

大阪市音楽団の青木健氏のCDで、ピアノとの共演ながらなかなか気合いの入った演奏を聴くことができる。値段的にもお求め安く、他の収録曲も楽しく(スパークの「パントマイム」とか)て、テナー吹いている方には積極的にお勧めしたい。たしか、オーケストラと共演したLPもあったっけな(演奏者の名前失念)。CD化されているはず…。

2009/10/12

三連休

日曜日に、天久保オールスターズバンドに参加すべく、テナーサックスを担いで大学の学園祭にお邪魔してきた。もうあまりつくばに行くことはなくなってしまったのだけど、(上のリンク先からも一部観ることができるが)すごい演奏・パフォーマンスだったなあ。れっど氏をはじめとする企画・運営の面々に拍手だなあ。打ち上げは、いかにもつくばという感じで、激しかった(笑)。

月曜日は、練習→飲み会。久方ぶりの四重奏合わせだったので、感覚を戻しているうちにタイムアップ。クリアすべきポイントは、少しずつ少しずつ少なくなっている感じはするが…。やっぱ完成度って、ログスケールなのかなあと思ったり。20時過ぎには抜けて大学時代の同期と飲み。たまたま友人が仙台から東京に来ているということで、久々の、楽しい邂逅だった。そして、もうひとつの飲み会を忘れていたことに気づき、青ざめたのがついさっき…(-_-;

2009/10/11

「Tread on the Trail」旧版と新版の違い

久々につくばに遊びに行っているので、自動更新。

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Terry Rileyの「Tread on the Trail」は、1965年に作曲された(ソニー・ロリンズに捧げられている)が、2000年に改訂されている。1965年版の本来の楽譜は、

A. ================
B. ================
C. ================
D. ================
E. ================

となっており、それぞれのラインを平行に繰り返して演奏する、という手法で曲が進んでいく。この楽譜に関して、2000年版では2つの変更が加えられている。

まず、各ラインにドローン用の音が書き加えらている。このドローンは、同時に1つのラインを演奏しているときにのみ有効となっている。次に、Eラインの下にDラインのハモリパートが追加され、Dパートを演奏している最中にそのハモリパートを演奏することで、Dラインを増強することが可能となった。

旧版の演奏は、Delta Saxophone Quartetの「Minimal Tendencies」や、平野公崇氏の「ミレニアム」で聴くことができる。一方、新版の演奏は、Arte Quartettの「Assassin Reverie」などで耳にすることができる。

2009/10/10

【演奏会情報】Northshore Saxophone Trio

この記事がらみで、なんと杉原真人さんご本人より演奏会情報を教えていただいた。ノースショア・サクソフォン・トリオという、サクソフォン2本とピアノのトリオが、アメリカより来日するそうだ。

【Northshore Saxophone Trio Concert 2010 in Japan】
出演:杉原真人、Nathan Nabb(以上sax)、Winston Choi、たかの舞俐(以上pf)
日時:2010年2月18日 19:00~
会場:杉並公会堂小ホール
料金:2000円
プログラム:
Christian Lauba - Ars (2sax)
Christian Lauba - Steady Study on a Boogie (asax)
Barry Cockcroft - Beat Me (tsax)
Christian Lauba - Hard (tsax)
たかの舞俐 - Jungibility (pf)
Gyorgy Ligeti - Loop (2sax)
たかの舞俐 - LigAlien I (2sax, pf)
William Karlins - Introduction and Passacaglia (2sax, pf)
Francois Rossé - Ximix (2sax)
たかの舞俐 - LigAlien IV (2sax, pf)

なんと驚異的なプログラム!私も、ロバの作品しか聴いたことがない。リゲティの「Loop」って、あの「ヴィオラ・ソナタ」の?そして、ウィリアム・カーリンズとかフランソワ・ロセが、そういったサクソフォン2本(とピアノ)のための作品を書いているとは知らなかった。世の中にはいろんな曲があるんだなあ。カーリンズなんて、ヘムケ氏のLP「Music for Tenor Saxophone(Brewster Records)」で名前を聞いたことがあるくらいの認識だったし…。

サクソフォン2本の編成や、サクソフォン2本+ピアノ、というトリオ編成は、最近急激に様々な団体の存在を聞くようになった。レパートリーなんて大抵ヒンデミットだけだろうと思っていたら、意外にもそれぞれの団体が独自性あるレパートリーに取り組んでおり、そういった「プログラムを聴く楽しみ」という意味では、一番面白い編成かもしれない。

行けるかな?木曜日ということなら、上手く業務調整しないとなー。

2009/10/09

NSF Vol.29

ノナカサクソフォンフレンズの会報誌がアップロードされていた。いつものことながら、忘れていたころにアップされるんだよなあ(実際忘れるところだった。あぶないあぶない)。

平賀美樹氏と江川良子氏、冨岡祐子氏の対談が、けっこうおもしろかった。「女性プレーヤーであるということ」なんて、あんまり良いタイトルではないと思ってしまうのだが、たぶん後付けなんだろうな。以下のリンクからどうぞ。

http://www.nonaka-boeki.com/nsf/magazine.html

ノナカサクソフォンフレンズは、2010年3月をもって休刊することが決定しているので、あと2号か3号くらいしか出ないということか。なんだかんだいって、もったいない気はしている。

2009/10/08

David Maslanka "Song Book"

ディヴィッド・マスランカ David Maslanka氏が、アルトサクソフォンとマリンバのために作品を書いているのって、比較的知られていないのではないかな?知っていたとしても、実際聴いたことのある人は、もっと少数だろう。

私がこの作品の存在を初めて知ったのは、6年前のサクソフォンフェスティバルのとき。メインとなるフェスティバルコンサートが、雲井雅人氏、平野公崇氏、原博巳氏が出演し、それぞれが30分の持ち時間を使って得意のレパートリーを披露してもらうという形式のガラコンサートだったのだが、その中で雲井氏がこの「ソング・ブック」という作品を吹いていたのだ。といっても、私は「ソング・ブック」をホール内で聴けたわけではなく、(直前に会場に到着したため)ホールの扉と扉の間に滑り込み、その暗い空間から演奏にじっと耳を傾けていたのだった。

曲としての第一印象は、四重奏作品である「マウンテン・ロード」「レシテーション・ブック」や、おなじみ「ソナタ」に及ばないかもしれないが、しかし聴きこんでいくほどに良さがわかるというか、全体を通して詩的で、マスランカ氏のモノローグを聴いているような趣さえある。実際、楽章によっては、何らかの(マスランカ氏の身の回りについて)テーマが与えられているというものさえある。

Song for Davy(マスランカ氏の子供時代について)
Lost
Hymn Tune with Four Variations
Serious Music - In Memoriam Arthur Cohn(Carl Fischerの担当だったアーサー・コーンについて)
Summer Song
Song for Alison(マスランカ氏の妻、アリソンについて)
Evening Song

楽章によっては変奏曲の形式だったり、「ソナタ」の残照も聴こえてくるなど、マスランカ氏の作品らしさにあふれている。氏の諸作品が好きな方ならば聴いてみて損はないかもしれない。おそらく唯一出ているCDが、Steven Jordheim氏のアルバム「The Music of David Maslanka(Albany Records TROY 392)」。「ソング・ブック」のほかに、「ソナタ」もちゃんと入っている。amazonからの注文は、こちら(→Music of David Maslanka)。

2009/10/06

サイバーバード・コンチェルト

言わずと知れた吉松隆氏のサクソフォン協奏曲で、3つの楽章から成る作品。1994年(もう15年も前なのか)に作曲され、須川展也氏に献呈されている。サクソフォンとともに、ピアノ、パーカッションを副ソリストに立てたトリプル・コンチェルトで、各楽器に比較的自由なフレーズ・解釈を歌い上げるセクションが多く含まれている。そのためか、一般的なクラシックの協奏曲と比較して、とても「柔らかい」印象を受ける。

さまざまな音楽のエッセンス…プログレッシヴ・ロック、ジャズ、クラシック…などが融合し、第1楽章の疾走や第2楽章の悲哀感と天上世界のような美しさ、そして最終楽章での大爆発に至るまでを、見事に描き出す。日本初のサクソフォン作品としては、間違いなく最高の作品の一つに数えられるだろう。

初めてEMIの録音を聴いたときは、衝撃だったなあ。それまでクラシックのサクソフォン作品というと、クレストンやモーリスのような、フランスのサクソフォン+ピアノの作品や、同系統の四重奏作品しか聴いたことがなかったものだから、こういう他ジャンルの音楽を積極的に取り込み、しかも完成された作品ということで、並大抵のインスピレーションではなかった。本当に、大音量で何度も聴いていたっけな。

初めてライヴで聴いたとき(@東京オペラシティ)も、本当に感動した。やはりこの曲の真価は、ライヴで聴くときにあると思う。最終部に向かってオーケストラの音がどこまでも拡がりながら、その上でソリストが自由に歌い上げてゆくあの感覚は、一度経験したら忘れられるものではない。

2009/10/05

KOREA-SAX

なんと珍しや、韓国のサクソフォン作品集。しかも普通の作品集ではなくて、サクソフォンとライヴエレクトロニクスのために書かれた曲を集めたものだというから驚きで、さらにさらに、演奏はダニエル・ケンジー Daniel Kientzy氏とレイナ・ポーテュオンド Reina Portuondo氏の"Meta Duo"だというから、これは面白そうだ。

タイトルは特にひねりもなく「KOREA-SAX」で、出版元はKEAMS(Korean Electro Acoustic Music Society)、型番ナシ。実はけっこう前から存在だけは知っていて、KEAMSにコンタクトをとって送ってもらおうとしていたのだが、2回か3回「探してみます」の返事があったきりほったらかしにされ、結局手に入れられずじまいだったのだった。ところがひと月ほど前に、たまたまVandoren Franceで見つけて、購入に至ったものだ。2001年から2002年にかけて作曲された、以下の6作品が収録されている。

Jiyoun Choi - Polylogos
Young Mee Lymn - Metamorphosis
Seong Joon Moon - Klangschatten IV
Doojin Ahn - Mu Ryung Zi Gok
Donoung Lee - Strange Dream
Jongwoo Yim - Flux I

韓国の作曲家、と一口に言っても、たとえばフランスで学んだ経験があったり、ドイツで学んだ経験があったり、まったくの純国産作曲家だったりと、その顔触れは様々。たとえば、一曲目なんて、普通にフランスのパリかボルドーかあたりの作曲家が作ってもおかしくない響きだよなあと思っていたら、Jiyoun Choi氏の経歴を読むとリヨン音楽院とIRCAM(フランスの音響研究所)で学んだ経験があったりと、単純に「韓国のサックス」という枠でくくるのは難しい。

そういうわけで、スピーカーから響いてくるのは、非常に多彩な響き。しかし、比較的どれも洗練されていて、韓国の作曲界の元気さを物語っているようだ(実際どうだかはよく知らないけど…)。いくつか興味深い作品があって、たとえば4曲目の「Mu Ryung Zi Gok」などは、伝統的な韓国の行進曲の素材を使用し、モードやフレーズにとどまらず、音素材としても人声を変調させて鳴らしてみたりと、かなり自国の音楽に根をはった音楽であることがわかる。日本の現代作品で、こういうものって意外と少ないのではないかな?中国や韓国の現代作品は、より自国の音楽に近い部分にある、ということを聞いたことがある。

1曲目の「Polylogos」は、とてもスピード感あふれる作品で、上でも述べたように、これはフランスの最新の作品と言われても違和感がない。個人的にも、かなり好きな響きだ。「Flux I」もなかなかかっこいいなあ、と思ったら、あれ、これもリヨン音楽院出身の作曲家の作品だ。

それにしても、ケンジー氏のサックスの驚異的に上手いこと!なんだか、どんどん上手くなっているんじゃないか?と錯覚するほど。このレコーディングを行った当時は、おそらく51歳か52歳くらいのはずで、まさかそのくらいの年齢の方が吹いているとは思えないほどの演奏だ。特殊奏法が連続するアグレッシヴさのなかにも、曲に対する深い共感を交えて、絶妙なバランスの演奏を繰り広げている。なるほど、ただ若いだけではできない演奏かもしれない。

興味がある方は、Vandoren Franceの通販サイトからどうぞ。

2009/10/04

求められる技術

大きい編成の中で吹くときは、求められる技術、音色などは、小編成や独奏で吹くときとはまったく違っていることを再確認したい。ある意味では、大編成の中で吹くほうが、四重奏の曲を吹くよりもずっとずっと難しいのではないかなと、最近切に感じている。バロックや古典モノに対してサクソフォンで取り組む時のような、たった一音に対して神経を張り巡らせる感覚と、共通するものがどこかにあるような気がする。

まあとにもかくにも、難しいってことです。表面的な楽譜の易しさに惑わされると、意外なところで足を取られること多数。その落とし穴を見抜けるようになるのも、ひとつのスキルなのだろうな、と思う。

大石将紀:Osmos Saxophone

金曜日&土曜日と、二日間にわたって開催された大石将紀氏のリサイタル。二日目となった土曜日のほうを、友人とともに聴きに行ってきた。

会場はアサヒ・アアートスクエア。アサヒビール本社?のお隣にある、金色の有機的な形…?のオブジェを頭に乗っけた、真っ黒な四角い建物。東京駅から高速道路で常磐道に行く方や、浅草に行ったことにある方にとっては、おなじみではないだろうか。私も今まで何度となく目にしていたのだが、実際に中に入るのは初めてだった。小さな入り口が東と西に一つずつついていて、そこから4階までエレベーターであがるような形。

会場は、ぱっと見150人くらいのキャパシティで、横に広く広がっている。門前仲町天井ホールのような小さい空間を想像していただけに、意外なほどに大きな空間に驚いた。客層は、もちろんサックス関係者のような方もいるが、それよりも初老の方々なんかが多くて、けっこう不思議な感じ。どのようにチケットを売っているのだろう?

で、演奏の詳細を書く前に感想を単刀直入に申し上げると、「素晴らしい体験だった!!」の一言につきる。なんというか、最近はサックス関係の催しを聴きに行っても理屈抜きの感動というのを味わうことが少なくなってしまっているような気がする―というのも、やはり耳が慣れてくるのであって、それはどんな体験においても仕方がないことなのである―が、そういった憂鬱を一気に吹き飛ばしてしまうような、そういった演奏会だった。「演奏会」…いや、この場合は、「ライヴ」とか、はたまた「現代の総合芸術」とか言ってもおかしくないかもしれない。

出演者は、以下。そのほか、プログラムデザインが田中秀彦氏、チラシデザインがKoS氏だったそうだ。

大石将棋(サクソフォン)
菊池マリ(パフォーマンス)
有馬純寿(サウンドデザイン)
マルゴ・オリボー(照明)
森田歩(映像)
ステファン・ケベ(演出)

(もしかしたらただの音響&エフェクトチェックだったのかもしれないが、)パフォーマンスは、すでに開場した時から始まっていたようだ。菊池氏はなぜかスタッフとしてお客さんをごく普通に案内しており、その案内の声がマイクとエフェクタを通して、会場に響き渡っていた。一曲目は、ブリテンの「6つのメタモルフォーゼ」から「パン」。菊池氏の自在なパフォーマンスに、大石氏がソプラノサックスの即興で絡み、PANの冒頭のメロディを導いた。静寂に響き渡る、ソプラノサクソフォンの丸い音は、なかなか他では聴けない音楽。

「ガーデン・オブ・ラブ」へは、そのまま自然な流れで移行。ステージバックに大写しにされた映像は、ひとつひとつの素材は一見普通に見えるのだが、編集やミックス、エフェクトによってこれはなかなかものすごい映像に変化していて、演奏の素晴らしさも相まって、鳥肌立ちっぱなしだった。

酒井健治「リフレクティング・スペースII」は、昨年のBtoCからの改訂バージョン。「バッハからケージへ」とされたサブタイトルが「幻想曲と子守唄」になっており、これは静かな感じになるのかなあと思いきや、まったくそんなことはなくて、異常なまでのテクニックを要求する高度なフレーズと華やかなエレクトロニクスの音が、会場を埋め尽くしていた。

再びブリテンの「6つのメタモルフォーゼ」から、今度は「ナルシス」。不気味なパフォーマンス、しかし最後にはほんのりと暖かくなるような演出が添えられる。こういうストーリーを、どのように着想するのだろうか。非常に興味あるところだがしかし、ごく自然に音楽と溶け合っているあたりがまたすごい。

スティーヴ・ライヒの「ニューヨーク・カウンターポイント」。11パートをあらかじめ大石氏がレコーディングし、その音に合わせてソプラノサックスが使われるという風だった。この曲は、やっぱり凄い!パート3でリズムがスウィングするのだが、なんとなく雰囲気を感じ取るに、客席のほうもけっこうノッて聴いていた感じ。いくつかCDも持っているのだが、それらとは音の処理の仕方の違いを興味深く聴いた。

ここでプログラムはひっくり返されて、ブーレーズの「二重の影の対話」。アルトサクソフォンとソプラノサクソフォン持ち替え、サクソフォンの世界でもっとも難しい曲のひとつとされるが、四方八方に音をばらまきながら、ものすごい勢いで疾走する大石氏の演奏に、非常に引き込まれた。なんとなくの印象だが、今まで聴いた演奏の中でクラリネット版、サクソフォン版問わず最速だったかもしれない。

最後は、新進気鋭の作曲家、アレクサンドロス・マルケアスの委嘱作品初演。なんと、ビデオのなかの奏者と舞台上の奏者が共演するというもので、しかもその共演の"仕方"が、ちょっと凡人には思いつかない発想というか。ビデオはアグレッシヴにコラージュされ、ソロパートも存分に歌い、時に暴れまわり、そして最後は波が引くように舞台袖消えていった。

ブラボー!演奏会全体を、有機的な流れの中に押し込めて、ひとつのパフォーマンスとして聴かせてしまうその演奏、演出、映像、パフォーマンス、音響、照明etc.これはまぎれもなく総合芸術であり、現代におけるある種のオペラと呼んでも良いかもしれない。CDやビデオで体感できるものではなく、その場に行った者だけが存分に味わえる、情熱的で、不思議で、知的なパフォーマンスを存分に楽しんだ。行って良かったなあ(^^)

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追記:金曜日に観に行った人から、ちらっと話を聞いた。金曜日は、プログラムの最後の二つは、マルケアス→ブーレーズという順番だったが、土曜日は逆になっていたようだ。プログラム冊子には、マルケアス→ブーレーズという順番で記載してあったので、演出を変えたのだろうなー。

2009/10/02

ポータブルCDプレーヤー

わけあってポータブルCDプレーヤーを探していたのだが、本当に種類が少ないのだな!と驚いてしまった。フラッシュメモリを使用し、ポータブルプレーヤーに、知らぬ間に駆逐されてしまったということなのかなあ。新しいものが出てくる方向にはアンテナを向けているけれど、ふと後ろを振り向くと知らぬ間にいろいろなことが起こっているんだなあと思った。

…そしてポータブルCDプレーヤーどころか、ポータブルMDプレーヤーなんてのも、もうほとんどないんだな(^^;

2009/10/01

Sax, Mule & Co

Jean Pierre Thiollet著「Sax, Mule & Co」という本を購入した。A5版、全242ページ。マルセル・ミュールに関する重要な書籍のひとつであり、多くの資料でこの書籍が参照されていることで以前から存在を知っていたが、国内はもちろんのこと、海外の通販サイトでも取り扱っておらず、ずっと買えないでいたものだ。今回、Vandorenのサイトで発見し、購入に至った。

内容としては、マルセル・ミュールに関連した資料がメイン。特に、約40ページに及ぶインタビューと、サクソフォンに関連した作曲家に関する説明(およそ100ページ)が圧巻である。そのほかは、ディスコグラフィやパリ音楽院の卒業生リストなどで、「Marcel Mule: sa vie et le saxophone」と内容を同じくする部分であった。

フランス語で書かれているので、まだほとんど読めていないのだが(もったいない!)、この40ページのミュールのインタビューは、非常に価値のあるものではないかと思った。インタビュー日時は、1986年7月17日とある。ヴァンドレンのあのビデオのインタビューなどよりもずっと長く、おそらくこれまでに私が知っていたどのインタビューよりも充実したものではないかなと思った。

作曲家のリストも、一人ひとりの紹介にかなりの分量が割かれており、また、フランスの作曲家のみならず、その他の国の作曲家についても十分すぎるほど詳しく述べられており、素晴らしいリファレンスになるものだと感じる。こちらも、願わくば日本語、いや、せめて英語で書かれていれば…(;_;)

この本、読むのにはかなり骨が折れそうだ。