2009/09/30

ドワジー&スピリタス on TV

NHKのハイビジョン放送を録画してもらったDVDを、少しずつ観ている(送ってくださったAさんには、感謝!)。サクソフォン系の映像もいくつかあって、今年7月に行われたアレクサンドル・ドワジー氏と、カルテット・スピリタスの演奏会などを楽しんでいる。

当日のプログラムはこの記事に書いた通りだが、放送されたのは以下の4曲である。

A.デザンクロ - サクソフォン四重奏曲
F.シュミット - 伝説,op.66
D.ミヨー - スカラムーシュ
A.ヴィヴァルディ/内田祥子 - 「四季」より"夏"

確かに、すべてのプログラムの中でも、上記の4つは特に際立った印象が残っている。スピリタスの、一旦楽曲を解体し、現代に再構築したデザンクロのモダンな演奏(モダン、なんて言葉を使うと、ちょっと誤解を招くか?)や、ドワジー氏が、圧倒的な空気感と貫録のもとに演奏した、シュミット。そして、全身がから音楽が溢れ出るようなミヨーなど、やはり聴きどころは多い。

加えて、複数台のカメラによるアングル+ハイビジョンによる高画質は、NHKの独壇場ですな(笑)。鑑賞や保存に耐えうる画質&音質で、なんというか時代は変わったなあと思ってしまった。

2009/09/29

モルゴーア!!@ドルチェ

楽しみにしていたモルゴーアQを聴いてきた。弦楽四重奏の演奏会なんて、いつもは非常にアウェイな感じなのだが、今日はなぜか見知った顔がたくさん…福井健太さん、田村真寛さん、等々。珍しいことだ。

【モルゴーア・クァルテット Dolce Live Vol.2】
出演:モルゴーア・クァルテット、十亀正司(いろいろ)
日時:2009年9月29日 19:00~
会場:ドルチェ楽器管楽器アベニュー東京
プログラム:
Karl Jenkins - String Quartet No.2 Mov1, 5
Miles Davis - All Blues
Nikolai Kapustin - String Quartet No.1 Mov1, 4
Theronious Monk/Eiji Arai - Theronious Monk Medley
Joseph Kosma, Jacques Prevert/Saito "Neko" - Autumn Leaves á la Eric Dolphy
- Intermission -
David Hellewell - Quartissimo No.1, Op.108
Jun Nagao - Led by Led Zeppelin Mov.1
John Lennon, Paul McCartney/Eiji Arai - Here There and Everywhere
Metallica/Eiji Arai - Master of Puppets
Eric Riegler/Saito "Neko" - The B-52
- Encore -
Chick Corea - Crystal Silence

いやあ、もう最高だった!モルゴーアを聴くのは、これで2回目か3回目くらいなのだが、クラシックだろうが、こういった紙一重な(?)プログラムだろうが、毎回とても感動する。普段私自身が触れているのが管楽器なのだか、なおさらのことだ。

変拍子ミニマル色に彩られたジェンキンスの弦楽四重奏曲からの抜粋は、今まで経験したことのない新しい響きだった。ここで一気に会場の熱気が高まって、まさにライヴ会場といった雰囲気に変化。マイルス・ディヴィスの「オール・ブルース」では、弦楽器の特性を発揮した、終結部の繊細な表現に涙した。ちょっと驚いたのがカプースチンの「弦楽四重奏曲」からの抜粋で、てっきりルイ・アンドリエセンの「Facing Death」あたりのような、ばりばりのビ・バップ系を予想していたら、以外にもクラシックとしての堅牢な構成感をもった作品で、良い意味で裏切られた。どこまでも続くテンションの高い演奏に、ぐいぐいと引き込まれてしまった。

セロニアス・モンクのメドレーは、1st Violinの荒井英治さんの編曲。モンクのメロディの美しさを、そのまま弦楽四重奏で表現した(とご本人がコメントしていた)アレンジで、美しくもどこか不安定な、モンクのメロディを堪能した。所収されていたのは、ラウンド・ミッドナイト、ルビー・マイ・ディア、ウェル・ユー・ニードント、ブリリアント・コーナー、セロニアスである。そしていよいよ十亀氏を迎えての演奏!十亀氏は、バスクラリネットを携えて現れ、「枯葉」のコードに乗って自由闊達に叫び、唄い、すすり泣く。「エリック・ドルフィ風」のタイトルは伊達ではなく、アレンジ、演奏共にまさに圧巻だった。

後半は、よりロック色の強い作品。ヘリウェルの「クァルティッシッモ」は、様々な音楽のジャンルをロンド形式で横断する、これまた面白い作品。さらにパワーアップしての「レッド・ツェッペリンに導かれて」は、なんと演奏会で披露されるのは初めてなのだそうだ、今日は第1楽章だけだったが、第3楽章こそ聴いてみたいなあ。「ヒア・ゼア・アンド・エブリウェア」でしっとりしたあと、メタリカ「マスター・オブ・パペッツ」!!かっくいー!内部へ内部へと掘り進みながら、中心で一気にエネルギーが爆発する様を見るようだった。

さらに続いて、ケルト・ロックのBad Haggisのナンバーから、「The B-52」!おなじみのバグパイプを携え、さらに民族衣装に身を包んで現れた十亀氏のソロが冴えわたる。大喝采。アンコールに、なんと「クリスタル・サイレンス」!十亀氏のソプラノサックスは、まさにあのジョー・ファレルの音そのものだった。

というわけで、久々のモルゴーア体験もまた、素敵だった。たまにはこういうのも聴かないとね。

2009/09/28

デニゾフ「サクソフォン協奏曲」

「アルトサクソフォンとピアノのためのソナタ」「アルトサクソフォンとチェロのためのソナタ」「五重奏曲」などと並んで、非常に有名な曲だ。もともとはヴィオラのために書かれた協奏曲が、クロード・ドゥラングル教授のためにアルト・サクソフォン用に書き換えられたもので、つまり完全なオリジナルというわけではないのだが、それにしてもサクソフォンのためのレパートリーとして重要な曲の一つだと思っている。

「ソナタ」が、どちらかというと非常に多面的=ヴァリエーション豊かな性格を持っている(数学、モノローグ、ジャズ…)のに対して、サクソフォン協奏曲は作品全体に響きやベクトルの一貫性を感じることができる。そもそもは、デニゾフがシューベルトへのオマージュとして作曲したのであって、あまり突飛な響きは現れずに、隅々にわたって音楽の大きなうねりを楽しむことができる。

I. Lento - Agitato - Lento
II. Tranquillo
III. Inquieto
IV. Moderato (Variations on a Theme by Schubert)

「第1楽章から第3楽章は、第4楽章を導くために存在する」とデニゾフ自身が語っている。その言葉通り、楽章間の印象は毛筆で一筆書きで描かれたような緩やかなつながりを持ち、第4楽章にすべてが結実する。同じ主題が出現する、とかではないのだが、不思議なものだ。

曲の中核をなす第4楽章、これは、シューベルトの「即興曲変イ長調」の変奏曲形式となっており、それまでの不安定な響きから一転、耳に甘い響きが空間を満たす。最初の主題は、なんとチェレスタによって演奏され、とてもかわいらしい響き。

(おそらく)唯一の録音が、ドゥラングル教授が独奏、尾高忠明指揮BBCウェールズ交響楽団の演奏(BIS CD-6645)。いちおうデニゾフ作品集という位置づけなのだが、なんだか怪しいCDで、「ソナタ」は良いにしても、「ペインチュア(絵画)」という不思議な作品が収録されていたりと、正直最初は買うのをためらった。「ソナタ」は、「The Russian Saxophone」と同じ演奏だし…。

買ってからも、それほど数多く聴いたわけではないのだが、最近必要があってこのアルバムを聴き返したところ、とにかく「サクソフォン協奏曲」のクオリティの高さにびっくり!前述したように作品としてもいぶし銀のような渋さを持っているし、それに輪をかけて演奏が最高なのだ!このCDでのドゥラングル教授は、そこらへんのサクソフォン奏者の演奏を、鼻先で吹き飛ばすがごとく、鮮やかで洗練されている。もしかしたら「The Solitary Saxophone」よりも、さらに演奏の質は上なのではないか?シンガポール交響楽団との共演による協奏曲集よりも、もしかしたらこっちがオススメできるかも…。Amazonへのリンクは、こちら(→デニゾフ作品集

2009/09/27

叶わぬ願い

ウィンナ・ワルツなど聴いて、ヨハン・シュトラウス父子がサックスの曲を書いていてくれたらなあ、などと夢想してしまった。サクソフォンの響きが、発明当時からもっと羽根のついたような軽やかさを持っていたとしたら、その響きに感化された作曲者は、また違ってきていたのかもしれない。

そんな「もしも」を考え始めると、キリがないですなあ(^^;

Nathan Nabb来日

LANカードを買って取り付けたら、復活しました。やっぱりオンボードのLANチップって、イマイチですな。

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アメリカのサクソフォン奏者、ネイサン・ナブ Nathan Nabb氏が来日する予定があるそうだ。まだ若いプレイヤーなのだが、ノースウェスタン大学においてフレデリック・ヘムケ教授の下で学び、博士号を取得、現在ではMorehead州立大学のAssistant Professorの職に就いている、とのこと。日本出身で、現在はアメリカで活躍している杉原真人氏と親交が深いようで、そういった経緯から来日が実現したのだろうか。

【JMLレクチャー「サクソフォーンの現代奏法について」】
出演:ネイサン・ナブ、杉原真人(以上sax)、たかの舞俐(司会)
日時:2010年2月15日 19:00~
会場:JML入野義朗音楽研究所
料金:1000円
問い合わせ:03-3323-0646(JML)

おお、入野義朗音楽研究所の主催なのか。故入野義朗氏の名を冠したこの研究所は、時々面白い企画をするので、驚く。以前、室内オーケストラ作品に授与される入野賞の関連で、ディアナ・ロタル女史とダニエル・ケンジー氏(ケンジー氏の来日は、ロタル氏の提案によるところが大きかったということだが)を招くというという話を聞いた時は、驚いたものだ。聴きには行けなかったのだが…。

さて、話をもどそう。ネイサン・ナブ氏、何か演奏はないかなー、とさがしてみたところ、こんな動画がYouTubeにアップされていた。ティエリー・アラの「デジタル」!楽譜は見たことがあるが、演奏を聴いたのは初めてだった。重音を含む細かいパルスと、リゲティばりのクラスターによって構成される、無伴奏曲である。

・Thierry Alla - Digital


他にないかなあと探してみたら、なんとクセナキスの「XAS」が!Amethyst Quartetという団体は、「レシテーション・ブック」を演奏したということでも良く知っているが、いつの間にメンバーが変わったのだろうか。今までソプラノだった方がバリトンに移動し、ネイサン・ナブ氏がソプラノ、テナーに杉原真人氏が加入している。テンションも高く、技術的にも安定した演奏で、興味深く聴いた。

2009/09/26

ラーションの協奏曲って

(携帯から更新)

ラーションの「サクソフォン協奏曲」って、独奏パートの難しさもさることながら、オーケストラも相当に難しいと思う。何枚かCDを持っているが、特に第一楽章の旋律線の、音程の捉えづらいこと!ほとんどのオーケストラが調子っ外れな音を出しているのを聴くに、プロオーケストラでも難しいものは難しいのかなあと思ってしまう。モーツァルトあたりの音楽にありそうな、表面的な古典さに騙されてしまうというところが、落とし穴なのかもしれない。

個人的には、セーゲルスタム指揮スウェーデン放送交響楽団の演奏が決定盤である。独奏のクリステル・ヨンソンも、数ある盤の中で最高クラス。よもや、アナログ録音かつワンポイント録音とは思えないクリアな音も、さらにこの盤の価値を高めていると思う。

またまた

(携帯から更新)

PCの、ネットワークまわりの調子がおかしくなった。昨日は、Nathan Nabbに関する記事を途中まで書いたのに…。

やっぱオンボードはダメかなあ…と思い、観念してLANカードを買うことにした。携帯を使って、Amazonでサクッと注文。便利だなあ。

2009/09/24

300文字曲紹介

む、難しい…。ジョルジュ・ビゼーの「アルルの女」第2組曲を、300文字で紹介しなければいけないなんて…。差し当たって、案を二つほど考えてみた。

・その1
フランスに生まれ、素晴らしいピアノの才能を発揮したジョルジュ・ビゼー。あのリストですら、ビゼーのピアノのテクニックに恐れをなしたとも言われています。しかしビゼーはオペラの作曲家になる道をあえて選び、生前にはほとんど評価されないまま36歳の若さで亡くなってしまいます。しかし現在、彼の作曲したオペラは、「カルメン」を始めとして世界中で愛奏されています。本日演奏する組曲「アルルの女」は、ビゼー自身が同名の劇に付けられた音楽を編纂し、演奏会形式にまとめたものです。重厚さと素朴さが同居する"パストラル"から、熱狂と騒乱のうちに幕を閉じる"ファランドール"まで、様々な色彩に彩られた全四曲をお楽しみください。

・その2
フランスに生まれたオペラ作曲家のジョルジュ・ビゼー。生前にはほとんど評価されることはありませんでしたが、現在では「カルメン」を始めとする多くの作品が、世界中で愛奏されています。本日演奏する「アルルの女」は、とある若い男の一目惚れの姿を描いた"劇"に付けられた劇版音楽のひとつです。フランス民謡を題材にしたであろう明るい楽想に彩られ、華麗な旋律が次から次へと現れながら、場面を変えてゆきます。重厚さと素朴さが同居する"パストラル"、管弦楽の中にサクソフォンが使われた用例としても有名な"間奏曲"、原曲ではフルートの旋律が印象的な"メヌエット"、そして熱狂の"ファランドール"…個性豊かな4曲をお楽しみください。

うーむ、あちらを立てればこちらが立たず。名案求ム。

2009/09/23

Stellar Saxes

このアルバムがレコーディングされるという話を聴いた時は、驚いたものだ。たしかにありえない取り合わせではないが、国境を越えた共演というのは、夢想することはあれど実現することは珍しいのではないか。日本を代表するサクソフォニストの一人である須川展也氏と、アメリカ屈指のソリスト・教育者であるケネス・チェ Kenneth Tse氏のアルバム、「Stellar Saxes(Crystal Records CD359)」である。内容としては、サクソフォン2本、もしくはサクソフォン2本とピアノの三重奏を取り上げたアルバムとなっている。

長生淳 - Paganini Lost
Paul Hindemith - Konsertstuck
加藤正則 - Oriental
Guy Lacour - Suite en duo
長生淳 - 天頂の恋
Victor Morosco - Contemporary Etudes in Duet Form

プログラムを眺めながら、たぶん長生氏の曲と加藤氏の曲は須川さんが提案したのかなあとか、ラクールとモロスコはたぶんチェ氏が持ってきたんじゃないかなあとか、ヒンデミットはどちらかなあとか、いろいろと想像を巡らせた。佳曲が多くて、さすがにヒンデミットは有名だが、たとえば長生氏の「パガニーニ・ロスト」や加藤氏の「オリエンタル」、ラクールの「組曲」などは、それぞれ性格は違うものの、どれも興味深く聴いた。

2人それぞれの美音やテクニック、説得力のある歌い回しは、数あるソロアルバムで実証済み。このデュエットでも、お互いの良さが化学反応を起こしたような、素晴らしいプレイを聴くことができる。相手が触媒となり、自身の化学反応がさらに進んでいく…なんて、すばらしいアンサンブルの形ではないか?

ソプラノが須川氏、アルトがチェ氏で演奏された、加藤氏の「オリエンタル」を取り上げて聴いてみよう。ピアノを交えた三重奏だが、冒頭のキャッチーな主題がアルトサックスで演奏されると、とたんに耳が鷲づかみにされてそのまま曲の世界に引き込まれる。速いテンポで疾走しながら、夢のように美しいメロディが畳みかけるように現れる。中間部での短いブリッジを経て、曲はさらに加速。超絶技巧を交えながら、クールに走り抜ける様が爽快そのものだ。

続くラクールのデュエットもかっこいいなあ。「オリエンタル」を聴いた後だけに、実に硬派な曲だなあと思ってしまうのだが、実は興味深い仕掛けがたくさん。ヒンデミットの「デュエット」みたいな響きが出てきたり(第1楽章の最後)、明らかにバッハの旋律線に影響を受けたフーガを聴くことができたり、いかにもラクールらしい散らばった音が聴かれる第4楽章、などなど。この難曲を、見事に切り抜ける二人のアンサンブルにも脱帽する。

いいアルバムに出会ったなあという印象を受けた。こういう風に思うことって、一年に何回かしかないのだけれど、だからこそ嬉しいですね。amazonで非常に安く(2000円以下!)注文できるのも素晴らしい。(こちら→Stellar Saxes

2009/09/22

デザンクロの(若き日の)経歴・作品リスト

我々サクソフォン吹きにとってAlfred Desenclosという名前は重要な位置を占めているが、詳しい経歴については良く知られていない。そこで、おそらく世界唯一のデザンクロ作品集であるCD「Desenclos - Requiem(Hortus 009)」のライナーノートから、彼の若いころの経歴について詳しく述べられている部分について、翻訳した。

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(…省略)1921年、Pas-de-Calais県のPortelに10人兄弟のうちの7番目として生まれた。彼は、家族の生活を支えるために20歳まで工業デザイナーとして働かなければならなかった。
経済的な理由から一般の勉強を続けられなくなったが、彼は1929年にルーベー音楽院のピアノ科に入学した。このときまでにデザンクロは、ピアノをアマチュアで弾いていた程度だった。
音楽院では粘り強い生徒として知られ、工業デザイナーとして働く傍ら、猛勉強の末に、ピアノ、オルガン、和声、音楽史などでいくつかの賞を獲得する。たった三年間のうちに習得した知識・技術でもって、彼は1932年に名門パリ音楽院に入学する。
デザンクロはパリ音楽院においても才能を発揮し、和声、フーガ、作曲、伴奏で賞を獲得した。そして1942年には作曲界の最も栄誉ある賞の一つ、ローマ大賞を受賞している。
この頃は戦争中とはいえ、パリにおける音楽家たちの活動はとどまるところを知らなかった。
デザンクロはパリ音楽院での勉強を続けるうち、自らの個性をネオ・ロマンティックの分野に見出していった(この時期、音楽誌の煽りによって、音楽の分野間の派閥争いは激化していた)。

しかしデザンクロは、争いや過剰な成功を好まなかった。自身が持つ才能とアイロニーでもって、自由闊達に筆を進めていくのである。学業においての努力を弛ませぬまま(この頃は既に、経済的な理由で学業を放棄することはなかった)、ローマ大賞受賞など様々なキャリアを積み重ねていくのであった。(…後略)

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以上。さて、デザンクロに関してもうひとつ資料を掲載したい。彼の作品リストである。寡作家であるため、すべてを挙げてもこんな程度なのだ。

L'Offrande Lyrique : 4 mélodies (soprano, orch)
Incantation, Thrène et Danse (tp, orch)
Concerto pour violon (vn, orch)
Symphonie (orch)
Messe de Requiem (soli, choir, orch)
Vitrail : suite d'orchestre en 3mvt (orch)
Fantaisie (hrp)
Trois pièces (pf)
Suite brève pour de jeunes pianistes (pf)
L'Offrande Lyrique (soprano, pf)
D'un troubadour (cl, pf)
Aria et Rondo (cb, pf)
Cantilène et Divertissement (hrn, pf)
Préambule, Complainte et Finale (hrn, pf)
Bucoliques (fl, pf)
Psylle (fl, pf)
Pélude, Cadence et Finale (asax, pf)
Plain-Chant et Allegretto (tbn, pf)
Incantation, Thrène et Danse (tp, pf)
Trois pièces dans le goût classique (tuba, pf)
Trois pièces (vn, pf)
Prélude, Cantilène et Finale (vc, pf)
Trois vœux à un nouveau-nè (vn, va, vc)
Quatuor de saxophones (saxq)
Quinttette pour cordes et piano (strq, pf)

2009/09/21

帰りました

二、三日間ほど、楽器を担いで千葉のほうに行ってました(一昨日と昨日のブログ記事は、自動更新)。吹きすぎたので、口を少し回復させないとなー。

2009/09/20

Margarita Shaposhnikovaのラージレッスンの様子

ジョルジュ・ビゼーの「カルメン」から、Yuri Markin編曲"ハバネラ"のレッスン風景。マルガリータ・シャポシュニコワ氏と、断定はできないのだがおそらくグネーシン音楽学校の生徒たちの練習風景。いろいろツッコミどころは多いのだが、とりあえずは観ていただきたい。

動画に映る風船が気になる。ブレストレーニングでもしているのだろうか…。音程はお世辞にも合っているとは言えないのだが、むしろそれよりも驚異的なダイナミクスとか、楽器を鳴らしきる奏法とか、旋律の歌い方(いかにもロシア的な!)とか…そういったところが興味深い。これらの動画もまた、セルゲイ・コレゾフ氏やニキータ・ツィミン氏の演奏の原点を垣間見せてくれるものだ。



2009/09/19

New Art SQのYouTubeチャンネル

http://www.youtube.com/user/newartsax

ドイツのサクソフォン界を代表する四重奏団、New Art Saxophone Quartetのアルバムのうち、「Songs & Dances」と「Guarda!」を全て聴くことができる!NASQ自身が投稿しているようで、著作権的にも問題はないだろう。特にenjaレーベルから発売されていた名盤「Songs & Dances」は、超オススメです。

民俗音楽をテーマにしたアルバムで、いくつかの曲にはパーカッションも交えて良い雰囲気。サックスのアルバムを10枚挙げろを言われたら、間違いなくその中に入ると思っているほどだ。

2009/09/18

Equivox Trio "the time is now"

アポロ・サクソフォン・カルテット Apollo Saxophone Quartetのアルトサクソフォン奏者としてもお馴染みの、ロブ・バックランド Rob Buckland氏のアルバム「the time is now(E301)」。サクソフォンと、ピアノのピーター・ローソン Peter Lawson、パーカッションのシモーネ・レベロ Simone Rebelloによるトリオ、Equivox Trioという団体の演奏で、オリジナル曲の響きを楽しむことができる。けっこう昔から持っていたのだが、そういえばブログでご紹介するのはまだだった。

最近はイギリスのプレイヤーを集中して聴くこともなくなってしまったが、好きかと訊かれれば、今でもまちがいなく好きと答えられるくらい、イギリスのクラシックサックスが好きだ。魅力的でオリジナリティあふれるプログラミング、感情に揺さぶりをかけてくるような音色とパワー、他分野の音楽とのコラボレーション、等々。

Jason Rebello - Integration (sax, pf, perc)
Barry Cockcroft - Ku Ku (sax)
佐藤聡明 - Incarnation II (pf)
Sheila Chandra & Steve Coe - Sparking in Tongues I (tongue)
Barbara Thompson - Rhythm of the Gods (sax, pf, perc)
Bill Connor - Skaladur
Pat Metheny - Letter from Home
Rob Buckland - Lost (& Found)
Bob Mintzer - All is Quiet

なかなかにコンセプチュアルなアルバムだ。だが、イギリスのサックス関係のアルバムだと思えば、別段不思議でもない。

明らかにプログレッシヴ・ロックの影響を受けた、ジェイソン・レベロの傑作「インテグレーション」をガツンと響かせ、続いて各プレイヤーの個性が垣間見える独奏曲。邦人作曲家である佐藤聡明氏の作品が目を引くが、イギリスでは有名なのだろうか。続くバーバラ・トンプソンの「Rhythm in Gods」は、6楽章から成る大作。「神のリズム」と題されているだけあって、荘厳な雰囲気から、自然の音をそのまま表現したようなサウンドの楽章まで、そして最後は民族音楽を模したペンタトニックのモードと舞曲のリズム!

このアルバムの神髄は、あるいはその後の4曲にあるかもしれない。「the quiet zone...」と題されたセクションで、パット・メセニーやボブ・ミンツァー、そして自作に至るまでを、美しいサウンドとフレージングで奏でている。音数は多くないのに、不思議と耳が惹きこまれてしまう。

2009/09/17

クローバーSQリサイタル@浜離宮

【クローバーSQリサイタル~奇跡からの進化~】
日時:2009年9月16日(水)19:00~
会場:浜離宮朝日ホール
プログラム:
~第一部~
J.B.サンジュレ - 四重奏曲第一番
C.ドビュッシー/石毛里佳 - ベルガマスク組曲
松岡大祐 - グリーンピース(委嘱初演)
~第二部~
J.アブシル - ルーマニア民謡の主題による組曲, op.90
J.リュエフ - 四重奏のためのコンセール
~アンコール~
J.S.バッハ - G線上のアリア
P.M.デュボワ - 四重奏曲より第4楽章

実は、4年か5年ぶりくらいにお会いする高校の吹奏楽部の先輩と一緒に聴きに伺った。その先輩というのは、高校2年生のころにマルセル・ミュールのCDを私に勧めてくれた先輩で、つまり私がサックスにハマるきっかけを作ってくれた人物なのだ(そのあと飲みをご一緒して、近況報告などしてとても楽しかった)。

浜離宮朝日ホールは、2009年4月から数えて、雲井雅人SQ、ドワジー&スピリタス、クローバーSQと、これで3回目となる。別に浜離宮に行くことを意識しているわけではないのだが、偶然そうなってしまう不思議。ここで何度も演奏会を聴いているが、ホールが持つ響きの美しさは天下一品だろう。しかも、クローバーSQのように、もともと素晴らしい音を持つグループの演奏が、マッチしないわけがない。

プログラムは、古典的名曲のサンジュレから始まった。こういう曲を、抑制されたヴィブラートで「きちんと聴かせて」しまうあたりが、新世代のカルテットだなあということを再確認した。冒頭の極小の和音から始まり、第一楽章の中に起承転結を感じさせ、つい楽章の終わりに拍手しそうになってしまった。メンバーそれぞれの中に、曲に対する共通認識があり、細かい部分は勝手に合ってくる感じ。山奥に湧き出るすきとおった水のような、極上の音色。続くベルガマスクは、石毛里佳さんの編曲。良く演奏される中村均一氏のアルモ版アレンジとは違う世界だったが、「アレンジ」というよりも「トランスクリプション」に近いもので、「アレンジ」としての完成度はアルモ版に一歩譲っているかな、と思った。

委嘱作品の「グリーンピース」は、これはもうクローバーSQの独壇場だなあ!ルーシー・ロベールの「テトラフォーン」を聴いた時の興奮をまざまざと思い出した。この感覚を言葉で表現するのは少し難しいのだが、凝縮された勢い、とでも言えるのだろうか。良く揃ったベクトルの中で、ゴール地点に向かって真っすぐ進み続ける、そんな演奏。曲自体も面白いもので、第1楽章のアレグロから、「トリツカレ男」を思い起こさせるような、カッコいいフレーズがそこかしこに散りばめられている。

第二部は、2つの性格が異なる舞曲。ルーマニアの民謡に題材をとったアブシルに、バロック時代の舞曲を現代風にアレンジしたリェエフの傑作。この第2部が第1部以上に素晴らしかった。楽章ごとにスタイルや音色を極端に吹き分けていて、変幻自在なサウンドを堪能した。特に、リュエフの最終楽章、各楽章を回顧し、めまぐるしくスタイルを変えながら駆け抜けていくロンドの素晴らしかったこと!どちらも長い曲だったが、本当にあっという間だったなあ。

アンコールに、「G線上のアリア」とデュボワ「四重奏曲」の第4楽章。フランセにしろデュボワにしろ、こういった遊び心たっぷりの曲をクローバーSQの演奏で聴くと、本当に幸せになる。同じ系統で、プラネルの「バーレスク」とかフランセの「組曲」とか聴いてみたいなあ…。

2009/09/15

視覚アートで学ぶ蟹カノン

有名な「音楽の捧げもの」の楽譜を、ああして、こうして…。

http://www.josleys.com/Canon/Canon.html

うーん、面白いなあ(メビウス展開だけは、どうも頭をひねったが笑)。王の主題に基づく、いわゆる「蟹カノン」と呼ばれるカノンである。元の楽譜は、こちら。こういうときに、IMSLPは役に立つ。






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クローバーSQのリサイタルは、行くことにしました(^^)楽しみだなー。

こういうものこそ

そう、こういう催しが「日本で」開かれたらなあ
と思うわけ。どうも指をくわえているだけではダメなようで、やはり自分から動かなけらばだめだ。

どうもやはり、学術的な意味でのサクソフォンの研究については、音楽教育の専門機関にはあまり期待せず、日本ではアマチュア主導でいかなければだめみたい。少し長いスパンで、何か行動を起こしてみようかな。考えてみよう。

2009/09/14

The Solitary Saxophone

クロード・ドゥラングル教授の、BISレーベルへのデビューアルバム「The Solitary Saxophone(BIS CD-640)」。私にとってのドゥラングル教授の演奏は、このCDと、あと「The Japanese Saxophone(BIS CD-890)」がスタンダードだ。BISから数多くリリースされたアルバムの中でも、Robert Suffがプロデューサーを務めているものに関しては、ハズレがないような気がする(Japanese Saxは例外だが)。タイトル通り、すべてサクソフォンの無伴奏曲。

Karlheintz Stockhausen - In Freundschaft
Luciano Berio - Sequenza VIIb
Giacinto Scelsi - Maknogan
Giacinto Scelsi - Ixor
Betsy Jolas - Episode Quatrième
Giacinto Scelsi - Tre Pezzi
Luciano Berio - Sequenza IXb
Toru Takemitsu - Distance

この選曲!録音は1993年とのことで、もう16年も前になるのか。久しぶりに聴いてみたが、やはり素晴らしさは変わらなかった。今でこそスタンダードなべリオの両作品や、シュトックハウゼンだが、当時は世界を見渡しても演奏可能な奏者もかなり限られていたはずだ。そういった状況のなかで、こういった完成度の演奏をしてしまうところが驚異的である。

ふと、マルセル・ミュールやダニエル・デファイエのことを思い出した。ミュールは、イベールの「コンチェルティーノ・ダ・カメラ」が作曲されてすぐに、後世の誰も越えられないような名録音を残しているし、デファイエも、ブートリーやリュエフの作品に対して世界最高の録音を残している。「パリ国立高等音楽院の教授になる」ということは、ひとつはそういうことなのだ。

録音会場は、スウェーデンの教会。良く響く環境を最大限に活用して、例えばシュトックハウゼンやべリオ「セクエンツァVIIb」、シェルシでは、ポリフォニックな効果を聴かせることに成功している。「響く」とはいってもお風呂のような環境であるというわけではなく、音の芯はしっかり捉えられているから聴きやすい。これは録音エンジニアの技量に依る部分も大きいのだろう。

ライナーノートには、ドゥラングル教授自身の言葉で、いくつかの作品についてコメントが書かれている。内容がちょっとおもしろかったので、以下にそのコメントを翻訳したものを掲載する。

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Betsy Jolas - Episode Quatrième
私がこの作品を始めて演奏したのは、1982年7月のパリ音楽祭(Paris Festival Estival de Musique)でのことだ。それ以来、私は数多くのジョラスの作品を演奏してきた。アンサンブル・アンテルコンタンポランとともに演奏したサクソフォンと15人の奏者のための「Points d'Or」、テナーサクソフォンとテナー(男声)とチェロのための「Plupart du Temps II」、ヴァイオリンとクラリネットそしてテナーサクソフォンのための「Pour Xzvier」などである。

Karlheintz Stockhausen - In Freundschaft
私が初めてシュトックハウゼンとの密なコラボレーションを行ったのは、1991年のことである。その年、サクソフォンアンサンブル、パーカッション、シンセサイザーのための「Linker Augentanz」を2度にわたって演奏したのだ。この作品は、「シュトックハウゼンへ作品を何か委嘱するように」とヴァンドレンに対して進言した結果、出来上がったものである。

Luciano Berio - Sequenza VIIb
1991年にシャトレで開かれたアンサンブル・アンテルコンタンポランの演奏会において、オーボエとオーケストラのための「シュマンIV」が演奏された。その演奏を聴いたべリオが私に「セクエンツァVIIb」のオーボエ版を作ることを示唆した。

Luciano Berio - Seuquenza IXb
もともとはクラリネットのために書かれた作品である。べリオのオペラ「La Vera Storia」が、パリのオペラ座においてフランス初演された際、私はオーケストラの一員としてその演奏に参加していた。第2幕の最初、この「セクエンツァ」のモチーフを、サクソフォンとクラリネットがデュエットで奏でる部分がある。このことから、ベリオの頭の中に「セクエンツァ」における明瞭なコネクションが生まれた。ベリオの最近の作品における同様の例は、声楽アンサンブルと4つのサクソフォン、4つのクラリネットのために書かれた室内楽曲である。

2009/09/13

ベルノー練習

伊藤あさぎさんから、パリ国立高等音楽院 CNSMの修士課程(2ème cycle supérieur)の入学試験に受かったという報せを頂戴した!すごい!今後ますますのご活躍を期待したい。いやあ、本当にすごいなあ…。

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第1楽章:メトロノームを外しての練習、第4楽章:付点四分音符=176での練習。第1楽章は、今までメトロノームに依っていた部分が多かったため、最初はガタガタになってしまい、どうなることかと思ったが、何度か合せるうちに落ち着いてきた。第4楽章は、そろそろ限界速度が…笑。最終目標を184とすることに決定したが、184を最高速とするのではなく、理想を言えば184が巡航速度というくらいには仕上げたい。

個人的な問題もいくつかあって、最初さらった時の指でそのまま覚えてしまったため、クロス・フィンガリングが多いこと(これは、少しずつ折を見て矯正していくしかない)。他の3人に比べて圧倒的に音が痩せているので、それなりのリードを使わないとバランスが取れないこと。走句におけるタンギングやリズムの問題。…等々。

できる限り改善しながら、さらにプラスアルファを目指していきたい。

Shaposhnikova plays Gershwin on YouTube

セルゲイ・コレゾフ Sergei Kolesov氏や、ニキータ・ツィミン Nikita Zimin氏といった優秀な若手サクソフォン奏者を輩出している、ロシア・サクソフォン界の偉大な教育者、マルガリータ・シャポシュニコワ Margarita Shaposhnikova氏の演奏が、YouTubeにアップされていた。おそらく生徒であるグネーシン音楽学校の学生のラージアンサンブルとの共演で、Yuri Markin編の「ガーシュウィン・ファンタジー」。

一度通して見てもらえば解るが、なかなかに興味深い&ツッコミどころの多い演奏だ。シャポシュニコワ氏の使用楽器は、おそらくセルマーのブラックラッカー。かなりにオーヴァーブロウ気味な演奏で、最初はびっくりするが、そのうちにその流れに聴き手を巻き込んでしまう。途中では指揮者に先行して指揮も振り出すし…笑。指揮はともかく、この音楽のスケールの大きさは、やはりコレゾフ氏やツィミン氏に通じるものがあるな。

プライヴェート盤でCDも出ているみたいなので、買ってみようかなあ。ロシアのサックスに興味が湧いてきた。

前半


後半

2009/09/12

アンドレが吹くジョリヴェ「トランペット協奏曲第2番」

アンドレ・ジョリヴェ André Jolivet氏はサクソフォンのためにただの一曲しかオリジナル作品を残しておらず、しかもそれは出版社のAlphonse Leducによって依頼されて書いた小品である。フルートやトランペットといった管楽器のために充実した作品の数々を手掛けたことを考えると、それは少し不思議にも思える。

その独奏曲「幻想即興曲 Fantaisie impromptu」よりもむしろ、ジョリヴェ作品におけるサクソフォン使いの真骨頂は、協奏曲のバック・オーケストラで使用されているといった状況にあると思う。特に、1954年にトランペットのための協奏曲の傑作として名高い「トランペット協奏曲第2番」では、アルトとテナー、日本のサクソフォンが大暴れするのだ。

この曲の私にとってのスタンダード演奏は、Eratoに吹き込まれているモーリス・アンドレ氏の演奏。高校の吹奏楽部のCD棚にポンと置かれていて、そのCDを自宅に持ち帰って聴いたのが始まり。サクソフォンではなくて、トランペットの協奏曲集なんて聴いてたのかと思われるかもしれないが、当時はまだ周辺に"ある"ものを聴くことしかできなかったのである。所持CDも10枚いかないくらいだったしな。「20世紀を吹きまくる!」というアルバムタイトルもなつかしいな。そう、こんなCDが国内盤として発売されていたのである。

当時流行りだして数年経ったばかりのMP3エンコードによるPC録音なんてことを試して、その後もたびたび取り出しては聴いていたが、聴くうちにサクソフォンが含まれていることに気づいた。さらにそのずっとあと、Donaxさんの示唆によって、そのサクソフォン奏者がダニエル・デファイエ氏だということを知ったときは、大変驚いたものだ。ピアノもアニー・ダルコ Annie d'Arcoだし。確かに、この時代にこういう音色や存在感、フレージング能力を持っているサクソフォン奏者って、ほとんどいなかったのではないかな?

指揮にジョリヴェ、コンセール・ラムルー、独奏にアンドレというフランス管楽器界最高の面々。最後まで炎に包まれながら走りきるスーパーカーのような演奏で、一聴の価値あり。

2009/09/11

【ご案内】CloverSQリサイタル@浜離宮

バリトンの坂口さんからご案内いただいた。クローバーSQのリサイタル。一番最初に東京文化会館で聴いたのが2007年のことだから、もうそれから2年以上も経つのか。その後も、各所で活躍されているようで、これからますます日本を代表する四重奏団として進化していくのだろう。

最初のリサイタルが、グラズノフをメインに据えた意欲的なプログラム。その後は、フェスティバルでルシー・ロベールのテトラフォーンと、ロッシーニの編曲物を聴いた。また、今年の3月には現代音楽フェスティバルで「タンチョウヅル」を聴いたな。どれも洗練されて素敵な演奏ばかりで、変な例えだが、ちょっと日本の演奏グループらしからぬ響きに、いつも感動を覚える。

【クローバーSQリサイタル~奇跡からの進化~】
日時:2009年9月16日(水)19:00~
会場:浜離宮朝日ホール
料金:一般4000円、学生3000円
プログラム:
J.B.サンジュレ - 四重奏曲第一番
C.ドビュッシー/石毛里佳 - ベルガマスク組曲
松岡大祐 - グリーンピース(委嘱初演)
J.アブシル - ルーマニア民謡の主題による組曲, op.90
J.リュエフ - 四重奏のためのコンセール
問い合わせ:
03-3475-6870(インターミューズ・トーキョウ)
0570-02-9999(チケットぴあ)
03-3267-9990(朝日ホールチケットセンター)

サンジュレ、どんな解釈を魅せてくれるのか。最近特に名前を聴くようになったおなじみ「トリツカレ男」の作曲家、松岡大祐氏の新作に、石毛氏編曲の「ベルガマスク」か!相変わらずの意欲的なプログラム。この日はちょうど、新橋の知人のお店に飲みに行く約束が…おぉ、行けるかな?ちょっと相談してみようっと。

2009/09/10

後輩の演奏会をご案内

大学のころの吹奏楽団の後輩が、自主企画の演奏会をやるそうだ。といっても、サクソフォンの演奏会ではなくて、ユーフォニアムとテューバのアンサンブル。その名もLow Brass Sounds Lab.だそうだ(名前がかっこいいな!!)。日本語に直すと「金管低音域研究所!」ですよ(笑)。

こういった自主企画の演奏会の難しさや、運営の大変さ、宣伝などは重々承知しているところであり、ぜひたくさんのお客さんに入ってほしいな、と思う次第。…と言いながら、私は別件で用事があって、行くことができないのだが。ご盛会をお祈りします。

【Low Brass Sounds Lab.】
出演:筑波大学吹奏楽団現役、OB/OG
日時:2009年9月22日(火)15:00
会場:アルスホール(つくば市中央図書館2階)
料金:無料
プログラム:
高橋宏樹 - 北欧の歌~3つのフィンランド民謡による
P.Smalley - A Cool Suite
問い合わせ:
http://lbsl.web.fc2.com/

シェルシ「3つの小品」

ジャチント・シェルシ Giacinto Scelsi(1905 - 1988)。面白い経歴を持つ作曲家だ。イタリア貴族の末裔として生まれ、経済的には全く不自由なく過ごしながら、もっぱら作曲を趣味的活動で行っていたという。詩人としても活躍したという記録が残っている。公には一切姿を表わさず、イタリアの自宅に籠りながら作曲活動を行っていたらしい。

実はシェルシはイタリアの現代作曲家を多数雇ってお金を支払っていただけとか、12音の作品を書いたために精神を病み、楽譜が書けなくなってしまってしまったとか、エピソードには事欠かないのだが(興味ある方はこちらのページを参照)、今回はそのことは置いておいて、シェルシはサクソフォンのために重要な作品を残してくれている。それが、「3つの小品」である。

シェルシの作風として、同一音を繰り返し提示しながら、その音色変化や倍音効果を聴衆に対して提示する、というものがある。その通り、たとえば第1楽章を例にとると、実音C、Bb、Ab、G、F#、Eの長音の微妙な音量変化の中に、細かい動きが時折に織り込まれるといった風。結果として印象に残るのは、長く引き伸ばされた音で、執拗に鳴らされる同一音が、曲が終わってしばらくしてもずっと耳の中に鳴り続けるのだ。第3楽章は、テンポが速いせいか、その印象がさらに顕著。曲が終わっても、もはやGとEしか聴こえなくなっている自分に気づく。

楽譜を見てみると、それほど長音が多いようにも感じず、むしろ細かい動きがやっかいな風にも見えるのだが、これは書き方の問題かもしれないな。ちょっとしただまし絵でも観ている気分。実演で聴いたこともあるが、同一音が耳に飽和してくる状態は、やはりライヴでしか味わえない感覚なのだと思う。CDやYouTubeでも聴けるが、ぜひ広く演奏されてほしいものだ。別に12音音階を使っているというわけではなく、出現する旋律は非常にメロディアスかつフラジャイルなもので、耳当たりも良い。

最後に、シェルシの自叙伝を可能な限り忠実に(?)再現した日本語テキストを貼り付けておく。神秘主義者でもあったシェルシのこと、その自叙伝もかなりに紙一重というか、一筋縄ではいかないというか。

シェルシの自叙伝(クリックして拡大)

2009/09/09

「古城」の録音

1988年5月の、カラヤン指揮のベルリン・フィル来日公演で演奏された、ムソルグスキー「展覧会の絵」の録音の一部。そう、このときがカラヤンの最後の来日公演となったわけなのだが、ラジオで放送されているとは知らなかった。このページの情報によると、何気にCDリリースもされていたみたいである。

この音源を送ってくださったF様の話によると、この時もオーケストラの中ではジョルジュ・シャロン氏の「ねじ一つで開きが変えられるマウスピース」を使用していたとのこと。ソロリサイタルなどではラバー製のマウスピースだったのでは(少なくとも1992年はそうだ)ないかな?と思うのだが、使い分けでもしていたのだろうか。

ああ、シャロン氏製作の世界に一つずつしかないというアルトとテナーのマウスピース、いまどこにあるのかなあ。テリー氏は、自分で保管しているのかもしれないが…。

2009/09/08

「アルルの女」の録音

デファイエ氏がベルリンフィルにゲストで招かれているビゼー「アルルの女」の新旧録音は有名だが、そのほかのオーケストラにデファイエ氏が参加した録音も、数多い。例えばThunderさんのページでは小沢征爾指揮パリ国立管弦楽団の演奏が挙げられているし、演奏会、録音問わず、オーケストラが「アルルの女」にデファイエ氏を迎えた機会というのは、合算すれば相当な回数に上るのではないかと思う。

今回F様に送ってもらった「アルルの女」の録音は、以下の3つ。

イゴール・マルケヴィッチ指揮コンセール・ラムルー管
アンタル・ドラティ指揮コンセール・ラムルー管
ジャン・フルネ指揮コンセール・ラムルー管

音色から判断するに、マルケヴィッチ、ドラティについてはデファイエ氏が参加した演奏だと感じた。フルネ指揮の演奏は、ちょっと違う感じ。それにしても、ドラティ指揮の演奏はちょっとテンポが速すぎて、フレージングからは判断しかねるのがもどかしい。

2009/09/07

「世界の創造」の録音

ダリウス・ミヨー Darius Milhaudの「世界の創造 Le Création du monde」の録音を、島根県のF様より送っていただいた。「ダニエル・デファイエ氏が参加しているのではないか?」ということで送っていただいたのだが、冒頭の音を聴いてびっくり!これは疑いようのない、デファイエ氏の音だ!

デファイエ氏が参加した「世界の創造」というと、まっ先にバーンスタイン指揮フランス国立管弦楽団、1976年に吹き込まれたステレオ録音が挙がる。なんど聴いたか分からない、あの魅力的なサクソフォンとは思えない美しさで、息の長いフレーズをシンプルにしかし誰の耳をも一瞬で納得させてしまうフレージングで吹ききってしまうような…と、なんだか日本語が乱れた(笑)。

とにかくあの演奏がすぐに思い浮かぶが、今回送っていただいたダリウス・ミヨー指揮シャンゼリゼ劇場管弦楽団の演奏(原盤はディスコル・フランセだそうだ)は、まぎれもないあの音色とフレージングが、そのまま聴ける。両録音の間には20年ほどの差があるということなのだが、この酷似した演奏!デファイエ氏のこの曲に対する解釈は、それだけ長い年月を経ても変わらなかった、ということなのだろう。

オーケストラ全体の仕上がりとしてはバーンスタイン盤に一歩(、二歩…)譲るかもしれないが、作曲者自身が指揮棒をとった演奏ということで、大変貴重な録音だと思う。バーンスタイン盤が刷り込まれた私には、各所の解釈が非常に新鮮に聴こえる。

サックス三重奏(ATB)作品リスト

必要があって、アルト、テナー、バリトン(ATB)のサクソフォン三重奏編成の作品をリストアップした。ロンデックス本の2003年版に、編成がATBと明記されているものだけに関して抜き出したが、いや~名前すら聞いたことのない作品ばかりだ。トゥルニエとトマの作品については、デュオ・ルマリエがCDに入れている。ウォルター・ハートレーや、ジョン・ウォーレイがトリオのために曲を書いているとは、初耳だった。どんな作品なのだろうか。

それにしても、ATBの編成、ここまでレパートリーが少ないとは。いっそのこと、バッハやコレルリの作品を編曲したほうが、ずっと充実した演奏になるかもしれない。私自身がもし三重奏をやるような状況になったら、おそらくオリジナル作品を探さずに、何かしらの作品を編曲すると思う。

Alessandrini, Pierluigi - Improvisations & Sax in Jazz; Notturno
Crawley, Clifford - Trio Sonata
Cunningham, Michael - Three Quaint Cameos
D'Angelo, Nicholas - Dimensions Three
Dorn, Kenneth - Pieces
Giuffre, Jimmy - Four Brothers
Glaser, Werner Wolf - Trio
Gross, Eric - Trio
Hartley, Walter - Trio
Hovhaness, Alan - Saxophone Trio
Keyes - Trio
Kos, Hans - The Three Chairs
Maillot, Jean - Trio
Moe, Eric - Rough Winds...
Mueller, Frederick - Pieces
Murphy, Lyle - Notturno
Patrick, Lee - The Songs
Patrick, Lee - Tribute to JB
Peluger, Andreas - Der liegende Dichter
Schilling, Hans Ludwig - Trisax
Schmidt, William - Partita a tre
Smith, Edwin - Theme, Imitations, and Fugue
Taffart, Mark - A Round o' Trios
Thomas, Ambroise - Deux Chants
Tournier, Franz - Trio
Worley, John - Four Sketches

2009/09/06

【情報】モルゴーア・ライブ!

モルゴーア・クァルテットの演奏会が、9月29日にドルチェ楽器で行われる。あまり良く知らない方のためにちょっと解説すると、各パートをが日本を代表するオーケストラの首席奏者で固められた弦楽四重奏団なのだ。

荒井英治(東京フィルコンサートマスター), 1st vn.
戸澤哲夫(東京シティフィルコンサートマスター), 2nd vn.
小野富士(N響フォアシュピーラー), va.
藤森亮一(N響首席奏者), vc.

日本を代表する弦楽四重奏団のひとつとして、ショスタコーヴィチやバルトークの弦楽四重奏曲の全曲演奏、さらには未だ知られていないコアなレパートリーを定期演奏会その他で取り上げ、話題を呼んでいる。

…と、ここまでなら普通の弦楽四重奏団なのだが、モルゴーアの魅力の一つに、この団体が持つもうひとつの側面がある。なんとメンバーがブリティッシュ・プログレが好きすぎて、キング・クリムゾンやらイエス、レッド・ツェッペリンといったバンドの楽曲を弦楽四重奏でカバーして演奏しているのだ!CDも出ており、その名も「Destruction - Rock meets Strings(東芝EMI TOCE-9650)」。初めて知って、聴いた時は感動した(T_T)

そんなモルゴーアQ、定期演奏会では比較的クラシック寄りなレパートリーを取り上げるのだが(定期演奏会の演奏の質も尋常ではない)、このライブ・シリーズでは選曲が凄いんだ!

【モルゴーア・クァルテット Dolce Live Vol.2】
出演:モルゴーア・クァルテット(str4)、十亀正司(ゲストcl.)
日時:2009年9月29日(火)19:00~
会場:アーティストサロン"Dolce"
料金:一般3500円、DMC会員3000円
プログラム:
M.ディヴィス - オール・ブルース
N.カプースチン - 弦楽四重奏曲
齊藤ネコによるアレンジ作品
ザ・ビートルズ - Here There And Everywhere
D.ヘリウェルズ - 弦楽四重超!曲#1
長生淳 - "レッド・ツェッペリンに導かれて"より第1楽章
メタリカ - ONE
メタリカ - Master Of Puppets
お問い合わせ:
03-5909-1771(ドルチェ楽器 管楽器アヴェニュー東京)
tokyo@dolce.co.jp

一線を超えたプログラム。カプースチンの弦楽四重奏曲というのは、存在すら初めて聴いたがどんな曲なんだろうか。同じ弦楽四重奏曲でも、タイトルから不思議な「弦楽四重超!曲」といったあたりも、すでに普通ではない。マイルス・ディヴィスの「オール・ブルース」とか、ビートルズの「Here There and Everywhere」とか、弦楽四重奏が、というかモルゴーアQが演奏すると、いったいどうなってしまうんだろうか。

極めつけは、メタリカ Metallicaの「One」と「Master of Puppets」!メタリカと言えば、スラッシュ・メタルという音楽ジャンルを代表するバンドの一つで、私自身の音楽的嗜好からはかなりはずれたところにあるのだが、この「One」と「Master of Puppets」に関しては例外!特に「One」など、巷での高評価はもちろんのこと、冒頭のギターリフからしてかなりにプログレッシヴ・ロックの影響を感じさせるものであり、私もかなり好きな曲の一つだ。映画「ジョニーは戦場へ行った」をヒントにした歌詞、PVがたまらんですなあ…。これを弦楽四重奏でやってしまうのかー。

ということで、なかなか楽しく激しい演奏会になりそうだ。久々の生の弦楽四重奏の音、楽しんでこよう。

2009/09/05

加藤恕彦留学日記

インターネットには何とか接続できるようになった。サポートに電話して、NTTの技術者に来てもらって、やはりPCのネットワークインタフェースカードがダメなのではないかという結論に。このPCのネットワークインタフェースデバイスはオンボードなので、もしかしたらRealtekのチップのハンダがダメになっているのかなあと思い、チップを10回ほどねじ回しで小突いたところ、いちおう動くようになった。まあ、小突いたおかげで直ったかどうかということは良く分からないが、とりあえず良かった。安いNICの一つや二つ、常備しておかないと…。

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上田卓さんから送ってもらった書籍。タイトル通りなのだが、加藤恕彦氏というフルーティストが留学時に書いていた日記を書籍化したものである。加藤恕彦という名前は、あまり現代では知られていないのかもしれないが、夭折の天才フルーティストとして有名なのだそうだ。

その経歴たるや、1937年生まれで慶応義塾大学在学中にフランス政府給費留学生試験に合格して渡仏、その年にパリ・コンセルヴァトワールに入学、2年間の勉学ののちにで同フルート科を首席卒業し、その3か月後にはミュンヘン国際コンクールにて第2位入賞というもの。さらに、モンテカルロ国立歌劇場管弦楽団の首席フルート奏者に就任(日本人が欧州のオーケストラの首席奏者になったのは初)して、その後もリサイタルやオーケストラ演奏で活躍を続けていたという、とてつもないものだ。1964年、妻のマーガレットとともにモンブラン山中にて遭難し消息を絶ったとのことだ。恥ずかしながら、この時代にこれほどまでにヨーロッパで活躍した日本人演奏家がいるのだとは、不勉強で全く知らなかった。フルート界では有名なのだろうか。

この留学日記は、そんな加藤氏が21歳で渡仏したときから、およそ9か月にわたって綴られた日記をほぼ原文のまままとめ上げたものだ。いろいろな読み方があって、たとえば当時の管楽器界の先端をいっていたフランスのその最高学府がどのような様子だったのかを読み取ることができるし、あるいはパリや、加藤氏が留学中に出かけたスイスやイタリアなどの美しい風景を楽しむのもよい。あるいは、敬虔なカトリック信者であった加藤氏の信仰の深さと信仰に対する謙虚な姿勢を読み取るのもよいし(聖母文庫という、キリスト教系の出版社から出版されている。私自身は、クリスチャンでも何でもないが)、はたまたマーガレットと出会ってからの彼女に対する心の動きや彼女に対する行動を見守るのもいい。学生らしい、友人やその他周りの人との付き合いについて、描写がリアルで読んでいて楽しい。

だがとにかくひとつだけ確実に言えることは、そこかしこが金言にあふれた日記だということだ。これは、いっぺん通して読んだ後に、ぜひ時々見返したい。いくつか、非常に印象に残った部分を抜粋する。モーツァルトについて、そして演奏家が同郷、同時代の音楽をやることについて。

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(11月16日:ランスロのクラリネット・クインテットを聴いて)
 
(…中略)これは大変な音楽だった。こんなに温かく、こんなにしっとりして、こんなに平安なモーツァルトをきいたことがない。涙を浮かべてききいる。
 ランスロという人は、大変な「よい人間」だということがはっきりわかる。謙遜に、愛と忠実をもってモーツァルトと宝石の中に沈入している。音楽をやるには、特にモーツァルトをやるには、本当に心の美しく、しかもつき合いにくい人でなくて、本当にしっとりした人間にならなければいけないということを本当に思い知る。私は真のモーツァルトをやるには、まだあまりに邪心が多すぎる。もっと素朴にならなければいけない。(…中略…)モーツァルトの天才は享楽的小市民、片田舎の百姓といったものの様相のかげで常に光と不安を保っている小さな宝石である。それは、いつも表面にのさばり出て、まばゆく人の目を射ることなく、それでいて、全くあたりまえの踊りや流行歌のごときなんの変哲もない。たわいもなくかわいい音楽に、天上的な光をなげかけてやまない不思議な、不思議な一見矛盾するような二つの感状―小市民的喜怒哀楽と形而上学的な平和―が常に溶け合って、不思議なとても人間味がありながら深い深いものをたたえているのは本当に奇跡である。


(4月30日:フルートクラスでのグループレッスンの描写)
 
(…中略)フランス近代―現代といえばとりもなおさず彼らクリューネル先生と、生徒のほとんど全部のフランス人が住んでいる国、生きている時代のものなのである。何の条件もなく、じかに彼らの「持物」である。生徒も理屈なく、ただ譜面から音楽の意味が直接感じとれてしまうし、先生はもちろんであるから、吹いている生徒とその前にたって導いておられる先生の間にはすでに一つの興奮が成り立っていて、ただ聞いていても一つもあぶない個所や不自然が感じられず、ただ感激と興奮に巻き込まれて、まんじりともしない「理屈抜き」の時間である。
 先生が一人の弟子を見終わったとき、ちっとも部屋は暑くなくて、むしろうすら寒いのに、"Il fait chaud!"(J'ai chaudではない)といって窓を開けたとき、全くそれが不自然でなく、みんなの顔も熱そうだった。(…中略…)彼らが、いったん自分の番になって笛をとるとだれも何も考えることなく部屋中を「あつく」してしまうのを見た(後略…)


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と、ここまで抜粋して気づく。まさかこれが、21歳の紡ぎだす言葉とは信じられない。いや、それほどまでの人物だったのだろう。つくづく、惜しい人を亡くしたものだ。

なかなかボリュームがある本だが、知らない方はぜひ読んでみると良いと思う。amazonなどで買えるようだ。加藤恕彦留学日記―若きフルーティストのパリ・音楽・恋

インターネットに…。

(携帯から更新)

昨日からインターネットに繋がらなくなってしまった…。何が原因なんだかさっぱり(NICがイカれているのか?口座引き落としが上手くいってないのか?)。とりあえず、サポートセンターに電話しないと。

2009/09/03

Saxophone Extrême

今日はドラえもんの誕生日~♪あと103年待たなきゃいけないのか。長いなあ。

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「Saxophone Extrême(極端なサクソフォン)」と題されたチューバックス TubaxのCD。フランスのサクソフォン奏者で、XASAXのメンバーとしても有名なセルジュ・ベルトッキ Serge Bertocchi氏の演奏である。ベルトッキ氏とも親交が深い上田卓さんより送ってもらったもの。一時期に比べると、"チューバックス"という楽器の名前も非常に有名になったと思う。情報出たての頃はまだ試作段階だったものが、ドイツの管楽器メーカーであるエッペルスハイム社からの商用楽器の発売によって、一気に認知されたようだ。

Marie-Hélène Fournier - Corps noir convexe
Aurel Stroë - Clinamen
Serge Pertocchi - Vitrail
Johan Sebastian Bach - Suite No.2
Giacinto Scelsi - Maknongan
Kasper T. Toeplitz - Froz#3
Marc Monnet - Le Cirque
Serge Bertocchi - A J-C
Paul Bonneau - Caprice en forme de valse
Frédéric Couderc - Low Blues
Frédéric Couderc - Tube et axes

はっきり言うが、これは良い!低音マニアにはたまらない一品だ。まず、一曲目に置かれた「Corps noir convexe(凸状球体)」で度肝を抜かれる。チューバックス独奏のために書かれた作品なのだが、前半に聴かれるロックのようなグルーヴと、後半に聴かれる超高音による神秘世界、という対比が非常に面白い。全体を通しても、この一曲目「Corps noir convexe」の印象が突出しているように思えた。

聴きものはいくつかあって、例を挙げればバッハの無伴奏チェロ組曲第二番。超低音でゆったりと演奏されるバッハは、汗が飛び散るような暑苦しい演奏で、この曲が持つ新たな側面を引き出すことに成功していると感じた。驚いたことに、この曲でベルトッキ氏は長大なフレーズを吹ききるために、循環呼吸を使用している。通常のサックスと違って、息の量は少なくても大丈夫なのだろうか。フレーズこそ途切れないものの、吸っている場所はバレバレだが(笑)。

ボノーの「ワルツ形式によるカプリス」なんてどうだろう。通常音域の2オクターヴ下ということになるが、さすがにちょっと無理があるかな。しかし、このくらいのヴィルトゥオジックな曲にも、チューバックスが十分耐えうることを示したという点で、特筆すべきだろう。

その他のオリジナル曲の中には、「?」と思う曲もあれば「おお!」と感じる曲もあって、レパートリーという観点から見れば、まだまだ発展途上だという印象。ライヴエレクトロニクスとのデュオが既に書かれている、というのには驚かされたが…テプリッツの「フロズ#3」が、それ。そのためかどうなのか、このCDはエンハンストCD仕様になっていて、PCからアクセスできるPDFファイルにはチューバックスのための120作品ものリストが掲載されているのだ。

そういえば、チューバックスの演奏は、きちんと聴いたのは初めてなのだった。中高音域は、まるでバスクラリネットのような整った音がする。やはり普通のサクソフォン・ファミリーとは、構造的にも大きく違えば、出てくる音も違う、ということなのだろう。コントラバスサックスとは、似ても似つかない。サックスの形をしているが、サックスとは全く違う楽器なのだなあ、ということを再認識した。

2009/09/02

Ed Bogaard氏のLP

かつて独Telefunkenから出ていたEd Bogaard氏のLPをトランスファーしたものを、上田卓さんより送っていただいた。このブログでも何度か取り上げている通り、Ed Bogaard氏はオランダのサクソフォン奏者で、あのアルノ・ボーンカンプ氏の師匠にあたる。存在だけは知っていたのだが実際にLPは所有しておらず、貴重な録音を提供してくださった上田さんには感謝申し上げたい。

Jules Demersseman - Fantaisie
Alexandre Tcherepnin - Sonatine sportive
Jenö Takács - Two Fantastics
Paule Maurice - Tableaux de Provence
Darius Milhaud - Scaramouche

ピアノは、Ton Hartsuikerというオランダの奏者で、ユトレヒト音楽院、アムステルダム音楽院等で教鞭をとっていた(とっている)とのこと。

ストレートな息の入り方や、高速なフレーズを怒涛の流れで切り抜けていく演奏の様子は、弟子のボーンカンプ氏の演奏を想起させる。というか、このボーンカンプ氏の演奏スタイルは、まさに師匠から受け継いだのだな、ということが良くわかる。ドゥメルスマンの「ファンタジー」の最終部、おお、これはもしかしてDevil's Ragの演奏よりもずっと速いんじゃないのか(笑)。

ジェノー・タカクスというハンガリー生まれの作曲家の「Two Fantastics, Op.66」も興味深く聴いた。第2楽章など、ジャズやロックの影響下にあるフレーズが畳みかけられたと思えば、突然第1楽章のエコーが聴こえてきたりと、知名度の割にはかなり充実した作品に思える。最後は再びフリーキーに!

すでに聴きなれたチェレプニン、モーリス、ミヨーの作品群は、例えばミュールやデファイエのような決定的録音からするとやや分が悪いのかもしれないが、なんとなく素朴で憎めない演奏だ。全体的な録音のバランスが少し面白くて、サックスよりもむしろピアノのほうが輪郭がはっきり聴こえる。サックスは、ちょっと遠くから聴こえるようなイメージ。それがどの曲でも面白く作用していて、曲の新たな一面を引き出しているとも感じた。「プロヴァンスの風景」なんて、まるでサックスがオブリガートのような不思議な演奏だ。

2009/09/01

BBC Proms 2009から

イギリス、BBC Radio3のブロードキャストサービスで、「BBC Proms(プロムナード・コンサート)」という番組を聴いた。以下のリンクで、Proms 58としてNetherlands Wind Ensembleの演奏を放送している。

http://www.bbc.co.uk/programmes/b00m8q1k

プログラムは、以下の通り。

Steve Martland - Beat the Retreat
Louis Andriessen - De staat
Cornelis de Bondt - Doors Closed

ルイ・アンドリエセンの作品が面白そうだなー、と思って聴き始めたのだが(最初「Hout」と勘違いしていた)マートランドという作曲家の作った11人の奏者のための「ビート・ザ・リトリート」がツボにはまるカッコよさで、大変興味深く聴いた。

ソプラノ、アルト(ソプラノ持ち替え)、バリトン三本のサックスと、ピッコロトランペット、トロンボーン、マリンバ、ドラム、ベース、エレキギター、ピアノという、およそ吹奏楽とはかけ離れた編成であるのだが、このプログレッシヴかテクノかというような響きは病みつきになりそう。冒頭からしてソプラノサックスのデュエットだもんなー。やがて現れるベースは、ヘンリー・パーセルの曲のコード進行を基に書かれているのだとか。言われてみれば確かに。

サックスを吹いているうちの一人は、どうやらアウレリアSQのJohann van der Linden氏らしい。この番組を知ったのも、彼のFacebookへの投稿からなのだ。

「ドアーズ・クローズド」という作品も、"吹奏楽"という範疇からは一歩踏み込んだ作品だ。こちらは編成に関してはほぼ吹奏楽と同じなのだが、小編成のセクションのあちこちに走句が現れながら、やがて出現するコラールとミックスされていく様子が、非常に面白い。聴かなければわからない面白さだと思う。

あと3日間しか聴けないらしいので、もし興味ある方はお早めにどうぞ。