2009/07/25

オーティス・マーフィ マスタークラス&コンサート2009

【Otis Murphy 公開マスタークラス&コンサート】
出演:Otis Murphy、佐藤渉(以上sax.)、晴子Murphy(pf.)
日時:2009年7月25日(土)16:00開演
会場:アーティストサロンDolce東京
マスタークラス:
A.Glazounov - 協奏曲(国立音大付属高3年:中島諒sax、国立音楽大:岩谷明希音pf.)
ミニコンサート:
G.Gershwin - Gershwin Fantasy
P.Goldstein - Fault Lines
A.Waignein - Two Movements
A.Berbiguier - Etude #1, #10
P.Hindemith - Konsertstuck
A.Piazzolla - Adios Nonino, Oblivion, Libertango
A.Khachaturian - Sabre Dance

実はオーティス・マーフィ氏の演奏を聴くこと&マスタークラス聴講するのは初めて。演奏やクリニックを聴いたことのある知人から、「あれは聴いとかなきゃ!」と常々薦められていたので、ワクワクしながらドルチェ楽器へ向かった。チケットを手配していただいたI様には、深く感謝申し上げる次第だ。

開場の10分くらい前に着いて、サックスブースでぼんやりとチラシを眺めていると、ジョナサン・ウィントリンガム Jonathan Wintringham氏の演奏会チラシが目に入った。手にとって見ていると「これ私だよ」と指をさされ、振り返るとご本人が!あー、びっくりした。アリゾナ音楽大学にて、ティモシー・マカリスター Timothy McAllister氏の下で学んでおり、雲井雅人氏に師事するために来日しているのだそうだ。面白そうな演奏会なので、後日ブログでもご紹介したい。

また、サックスブースで小川卓朗さんにお会いし、タイで行われたサクソフォン・コングレスの様子についていろいろとお伺いした。つい先日行われたコングレスであるが、若手から巨匠まで幅広い参加があったそうだ。特にケネス・チェ氏はマリー=ベルナデット・シャリエ氏らの活躍が目立ち、その他にもドゥラングル教授がフィリップ・ルルーの新作協奏曲を吹いたとか、ダニエル・ケンジーが来れなかったとか、いろいろな話を伺った。

開場して中に入り、開演時間になると100席のホール内は大入り。まずはマスタークラス。中島諒さんと岩谷明希音さんにより、グラズノフの協奏曲が通しで披露された。中島さんの演奏を聴いたのは、たしか何年か前の原博巳氏のクリニック@下倉楽器の頃が初めてであるが、その時から高校生らしからぬ見事な技術と歌い回しに驚いていた。本日のグラズノフも、もう音楽を専門に何年も勉強されているだけあり、高校生らしからぬフレージングに印象を受けた。また、真摯な練習が演奏中の自信につながっているであるかのようにも思えた。ピアノを弾いた岩谷さんは、国立音大附属校のOGで、現在国立音大で学ばれている学生だとのことだが、これまたすごいピアノ弾きであると思った。作曲科に在籍しているとのことで、そういったことが和声感やフレーズの歌い方につながっているのだろうか。

そして通しのあとはマスタークラス。マーフィ氏の教え方、驚き!というかまさに未知の体験の連続である。まずは音色の指摘から始まり、マウスピース+ネック or マウスピースだけを使用した丸い音の練習。周囲の音に溶け込んでいくようなピアニシモの音を出すために、舌の位置を意識するようにすること。アソビの部分を残した、柔軟な音程コントロール。音と音の間の繋がりについて、ひとつひとつの音を真珠の球のように考え、それらの中心に一本の糸を通して繋げていくような捉え方。跳躍における舌の位置と音色の捉え方。さらに、姿勢について…。ここには思い出せる限りのことを書きならべただけだが、実際のマスタークラスではこれらの指摘要素が実に論理的に話されていて、まるで大学の講義でも聴いているかのようだった。

また、これらは主に、音色とダイナミクスについての指摘である。中島さんの音色を単独で取り出してみると素晴らしいと思えるものの、確かにお二人の音色を比べてしまうとその差は歴然(だからこその、マスタークラスなのだろうが…)。マーフィ氏の、どこまでもニュートラルな音色に対しては、観客一同舌を巻いたものと思われる。私もそうでした。

休憩を挟んで、ミニコンサート。ガーシュウィンのフレーズをメドレー風に、技巧的に再構築したR.Martino編曲の「A Gershwin Fantasy(Dale Underwoodがレパートリーとしていることで有名)」から始まり、会場の雰囲気は一気に最高潮へ!フラジオ音域を含む奏法において技術的に完成されているのはもちろん、音色の表現の幅は筆舌に尽くしがたい。グラズノフでみせたあのお手本の音色は、マーフィ氏の表現力のほんの一端だったのだなあ。本日のピアニスト、晴子・マーフィさんのダイナミックな演奏も、サクソフォンともども大変楽しめるものであった。ご夫婦ということで、室内楽的なアンサンブルの妙がありますな。続いて演奏されたゴールドスタインの作品は、いかにもゴールドスタインの和声感!というところに加えて、スリリングな断片的リズムも、サクソフォン四重奏のための「Blow!」を思い起こさせ、興味深く聴いた。

コンサート中盤では、佐藤渉さんとデュエットでベルビギエの「エチュード」とヒンデミット「コンチェルトシュトゥック」を演奏。お互いの音色はそれほど似ないにも関わらず、和声を決めたときやユニゾンでは、大変に素敵な響きがする。ヒンデミットは、とてもダイナミックな演奏で、まるで4本くらいの楽器が鳴っているような錯覚にも陥った。ピアソラの3曲を経て、最後はボーンカンプ編の「剣の舞」。爆笑の超絶技巧の嵐であり、大喝采!クラシック音楽家としての品格高い演奏だけでなく、"サックス吹き"としてのエンターテイメント性をも持ち合わせており、そんなところからマーフィ氏の人格すら想像できてしまうほどだ。最後に、讃美歌の「Jesus Loves me」にて幕。

というわけで、私自身にとっては初のマーフィ氏の演奏会、素晴らしい体験であった。今までCDでしか聴いてこなかったが、やはり実際の演奏に触れるのとはわけが違う。本当にマーフィ氏の人格に直接触れるというか、そんな思いがした。今秋には雲井雅人サックス四重奏団とのジョイント・リサイタルも予定されているようで、そちらも伺えれば良いなあ。それとも、浜松聴きに行ってしまおうか(笑)。

2 件のコメント:

京青 さんのコメント...

浜松いらっしゃいますか?
といっても、私は8/2しか行けません。。

 話は変わりますが、8/18からの
武生国際音楽祭に行きません?
私は土曜日しか行けそうにないのですが、
kuriさんなら、きっと興味あると思います。!

kuri さんのコメント...

> 京青さん

そういえば週末は浜松でしたね!知り合いが何人か参加されているようで、ミクシやブログから楽しそうな様子が伝わってきます。あいにく、この土日は練習で忙しく、聴きに行くことができません(T_T)

武生国際音楽祭、めちゃくちゃ面白そうですね!!まさかのドゥラングル夫妻来日!!奥様と一緒の来日は、かなり久し振りではないでしょうか?どこから情報仕入れてきたのですか?笑。ブログでも紹介しようと思います。ドゥラングル教授のデニゾフ、聴きたいですねえ。「3つの愛の歌」は、CDにもなっていますね。

…ああ、でも東京に戻ってお盆明けで仕事が忙しく、ちょっと行くのはキビシイかなあと思っています。細川氏新作の 「Layerd Song from Long Ago」が気になります!きっといつかCD化されることを願っています。