2008/12/30

Atom Hearts Club

言わずと知れた作曲家、吉松隆氏の室内楽作品集である「吉松隆:アトム・ハーツ・クラブ/河村泰子(Camerata CMCD-28162)」。この作品集の完成までには、いろいろと紆余曲折があったそうなのだが、2008年中に無事に録音・出版の運びとなったとのこと。アトム・ハーツのファンとしては、まずはリリースを喜ぶべきだろう。演奏者は、河村泰子(pf.)、中務晴之(fl.)、友永健二(vn.)、黒田育世(vc.)という、まあ私はピアニストや弦楽器奏者には疎いのだが、どうやら関西方面の優秀な音楽家たちによって、キャストが固められているようだ。

Atom Hearts Club Trio No.1 Op.70d
Atom Hearts Club Trio No.2 Op.79b
Regulus Circuit Op.7
Digital Bird Suite Op.15
Piano Quartet "Alrisha" Op.30
Piano Folio... To a disappeared Pleiad
(作曲はすべて吉松隆氏)

「アトム・ハーツ・クラブ」は、1970年代のプログレッシヴ・ロックをお手本にして作曲されたもので、吉松氏の作品の中でも、特に人気が高いコンサート・ピース。小難しい現代音楽が蔓延するクラシック音楽界への殴りこみ!というようなコンセプトで制作された、なかなかパンチの効いた作品だ。弦楽四重奏版「アトム・ハーツ・クラブ・カルテット」としてモルゴーア弦楽四重奏団によって録音初演され、以来サクソフォン四重奏版、弦楽合奏版が相次いで登場。そして今回、満を持して、ピアノ・トリオ版がCDに吹き込まれた。

たとえば私なんかは、最初にサクソフォン四重奏版に触れて、次に弦楽四重奏版、ギター・デュ版、そして弦楽合奏版(いまいちヌルい)と裾野を広めていったのだが、作品が本来持つアイロニーとしての要素は、弦楽四重奏版から最も感じることができる。弦楽四重奏というのは(サックスをやっているとよくわからないのだが)、実は最もクラシックぽくありながら、クラシック音楽界全体から見れば実にマイナーな分野であるそうで、そんな現実が作品の性質をより強く引き出したのだろうか、とも思える。

前置きが長くなったが、そんなわけで、本ピアノトリオ版の演奏もけっこう楽しみにしていた。ピアノトリオでプログレ!なんて、黒田亜樹さんのアルバムに入っているELP「タルカス」「展覧会の絵」くらいしか思いつかないぞ。ああ、また話が違う方向に…。

で、聴いてみたのだが、なかなか良いです。特に、第1番の第2楽章なんて、ああ、本来こういったピアノのドローンのバックグラウンドを想定して書いたのねー。なんてニヤニヤしてみたりとか。第3楽章のオスティナートも、上のピツィカート・メロディと対比が出てて面白い。第1楽章は…弦楽四重奏版の、大声でわめきながら疾走する感じと比べると、やや物足りないだろうか。実演で聴いたらそんなこともないのか。第4楽章は、ピアノと弦楽器の温度差が少し気になるけど、狙ったのか?

ちなみに第2番は、これは弦楽合奏版に比べたら断然イイ!第6楽章の即興も、なかなかキレています。そーらーをこーえてー。しかし、まさかこの曲のフォーマットがパルティータを模しているのだとは、知らなんだ。現代っ子ならば、この曲をバックにして楽しく踊れそうではある。

「アトム・ハーツ・クラブ・トリオ」ばっかり集中して聴いているが、他のも楽しいです。特に、今回が初録音となる「ピアノ四重奏曲"アルリシャ"」は、吉松氏が持つ音楽的要素を15分程度で一気に俯瞰できる、粒ぞろいの作品。なぜかダニエル・カペレッティの「Ge(r)ms」を思い出した。

8 件のコメント:

image/air_ さんのコメント...

俺もプログレ好きなので、黒田亜紀のタルカスはよく聴いたなぁ。
でもあれも本家に比べるとぬるいというか、ちょっとノレない。

アルリシャは、曲はとてもいいんだけど演奏がね…。
イマジネーションがないというかなんというか。
CD化を心待ちにしていただけに、がっかり。

kuri さんのコメント...

> image/air_さん

リンク/コメントありがとうございます。

あの「タルカス」やっぱぬるいんですか。実はまだ聴いてなくて、どんなもんだろうと思っていたのですが、本家のセッション・レコーディング版やライヴ版が好きなだけに、ちょっと残念です。SAX4版の楽譜を持っているんですが、演奏次第ではなかなか良い音がしそうですよ。

本題ですが、ピアニストはなかなか良く弾いていると思ったんですが、弦楽器のプレイヤーたちにやや違和感が…。記事中に、弦の演奏について触れている部分がほとんどないのは、そのためだったりします(^^;

匿名 さんのコメント...

え?リンク?
と思ったら一平が自分のブログをリンクしてんのね。

タルカスのサックス版ってこと?
あんなん吹けんのか・・・。

佐藤

kuri さんのコメント...

> さとうさん

アカウントとブログタイトル名が一緒なんですか(笑)。すると、一個目のコメントも佐藤さんてことですか?なんか間違えました(苦笑)。

そうです、P.Fordという方が編曲された「タルカス」のSAX4版の楽譜が手元にあります。一般にはまず出回らないものだと思いますが…。

2008年のサックスフェスで演奏したかったんですが、TsukubaSQで出場しなかったので、できなかったんですよねー…。

image/air_ さんのコメント...

今までのコメントは全部俺だよ。
紛らわしくてすまん。笑

クワイアは乗りませんが、本番を楽しみにしています。

佐藤

kuri さんのコメント...

> 佐藤さん

いつになるかわかりませんが、こんど一緒に演奏できる機会を楽しみにしています。

image/air_ さんのコメント...

筑波のアンコンの、一平バンドと23期バンドには乗るよ。
一平バンドには栗林も乗るんじゃなかったっけ?違ったかな。

それと、吉松『忘れっぽい天使』(磯田編)の楽譜って持ってるかい?

kuri さんのコメント...

> 佐藤さん

おお、そうなんですか。一平さんバンドは、私も参加しています。楽しみですね。

「忘れっぽい天使」の楽譜ですか…さすがに持っていないです(^^;