2007/09/30

モアレ・サクソフォン・アンサンブル第11回定期演奏会

もう1週間も前のことになってしまったが、きちんと記録しておかないと。福島県福島市を中心に、長年にわたって活躍されているアマチュアのサクソフォンアンサンブルの定期演奏会。今回は演奏を聴くだけではなく、ラージの演奏にテナーサックスで参加させていただいた。

モアレ・サクソフォンアンサンブル第11回定期演奏会
2007/9/22(土)14:00~
モアレ・サクソフォンアンサンブル(sax)
啼鵬(ゲスト・バンドネオン、指揮、ピアノ)
有村純親(ゲスト・サクソフォン)

~1st Stage~
・ウィーラン「リバーダンス」より・ピアソラ「フーガと神秘」
・NAOTO「One Love」
・マルチェロ「オーボエ協奏曲」
・NAOTO「Samba of the Sun」
・トラディショナル「アメージング・グレイス」
~2nd Stage~
・ピアソラ「ヒッピーへのオーダー」
・ピアソラ「ブエノスアイレスの四季」
・久石譲「人生のメリーゴーランド」
・葉加瀬太郎「情熱大陸」
~アンコール~
・「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」
・「森のクマさん」

前日に現地入りして練習に参加し、ホテルメッツ福島へ宿泊。当日は午前から会場へ赴いた。音出しの合間にホールを覗くと、啼鵬さんや有村さんがリハーサル中。ついついすばらしい演奏に夢中になる。ラージアンサンブルのリハーサル後はお弁当で腹ごしらえをして、14:00に開演。1stステージは、「アメージング・グレイス」以外は全て客席で聴くことができた。

前半は、ピアソラの一曲を除いて全てが、四重奏以上の編成。ピアノ+カルテットという「リバーダンス」にしばし聴き惚れる。「フーガと神秘」に続いてカルテット+啼鵬さんのアレンジメント&ピアノによる「One Love」。いやー、ステキな曲&演奏ですね!これ、自分たちでもやってみたいかも。啼鵬さんのピアノは初めて聴いたが、さり気ないタッチの変化と美しい音色、さらにモアレさんたちの情熱的な歌い方やサックスの芳醇な響きに、思わずくらくらした。

続いて有村さんが登場してマルチェロの「オーボエ協奏曲」をソプラノサクソフォンで。指揮&編曲は啼鵬さんで、バックは8重奏。この曲をサックスでやってしまう、というアイデア自体は真新しいものではないが、有村さんの演奏はいまだかつて聴いたことのない新鮮なものだった。どこまでも美しい音色(生粋のフランス仕込み、というのともちょっと違う気がする)と、3楽章の即興的なフレーズを正確無比に聴かせる強烈なテクニック。かと思えば、次の「サンバ」ではノリノリの一面も見せるのだから面白い。あのアドリブ風のカッコいいフレーズ…!「アメージング・グレイス」を聴きたい気持ちに駆られながら、直前で客席を飛び出してラージの準備へ。

ラージステージは、ピアソラの曲から(ここでもまた豪華なことに、指揮&バンドネオンに啼鵬さん、ソプラノの席に有村さんが座るのだ!)。まあ音程とかはアレなのだが(笑)総計20名以上に及ぶ大編成の中で吹くのは、なかなかの快感。情熱大陸のあとの拍手はなかなかのもので、客席でも聴いてみたかったなー。アンコールに「タイム・トゥ・セイ・グッバイ」と「森のクマさん」。ちなみに「タイム~」では突然の出来事にビビり、「森のクマさん」では盛大なオチをつけて終わる演奏会だ(笑)。

打ち上げは、カレーやさん!カレーはもちろんのこと、アールグレイリキュール、ダージリンリキュールの水割りがおいしくて、ついつい飲みすぎてしまった(ご迷惑おかけしました…)。啼鵬さんや有村さんのほか、モアレの方々、ラージステージ参加の方々ともたくさんお話できて、とっても楽しかったのでした(^^)モアレの方々のハイテンションぶりに唖然(笑)"まこと食堂"と"がんこや"と"フェスティバル"と云々…。

2007/09/29

アレクサンドル・ドワジー氏来日

アレクサンドル・ドワジー Alexandre Doisy氏が来日するそうだ。ドワジー氏は第2回アドルフ・サックス国際コンクール第1位、ミュンヘン国際コンクール最高位ほかを受賞したフランスでも新進気鋭の奏者。ぜひ一度聴いてみたいと思っていたのだ。…ちょっと調べてみたが、まだ下倉でのマスタークラスしか予定されていない様子。コンサートはやらないのだろうか?

(マスタークラス情報へのリンク)
http://www.shimokura-gakki.com/wind_instrument/event.html#doisy

マスタークラスは2007/11/6(火)…って、おいおい平日じゃないか。午後から授業だから、午前中だけでも聴きにいけないかなー(聴講は無料だそうで)。

ところで、日本語でアレクサンドル・ドワジー氏の経歴を調べると必ず出てくるこのくだり…そういう話は聞かないのだが(4枚もリリースしていれば、少しは情報が伝わってきても良いと思うのだが)…本当のところはいったいどうなんでしょうね。"オーケストラ内での独奏"とかだったら、さすがに分らないからな。

> 1993年、13歳にして、名門ドイツ・グラモフォンに、デビュー・アルバムをレコーディング。これまでに4枚のアルバムをリリースしている。

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その他、この時期から年末にかけてはクロード・ドゥラングル Claude Delangle氏、ミハ・ロギーナ Miha Rogina氏や、ジェローム・ララン Jerome Laran氏も来日されるとのことで、できるだけ足を運びたいと考えている。

2007/09/27

「現代奏法エチュード」のCD?

某所でAさんから聞いた話。パリ音楽院サクソフォーン科と作曲家がコラボレーションを行った「サクソフォーンのための現代奏法エチュード」というものが存在する。鈴木純明氏とジェローム・ララン氏の共同作業から生み出された「スラップ・スティック」他、数曲。何曲かは、2007年1月に大石将紀氏によって日本初演された。

どことなく、クリスチャン・ローバ Christian Lauba氏の「9つのエチュード」を想起させますな。

まあそんな作品があるのだが、なんとそのエチュードを録音したCDが存在するらしいのだ!これは、聴いてみたい!!しかし、残念ながら一般には流通しておらず、パリ国立高等音楽院の図書館にのみ置かれているらしい。フランス行く機会があったら聴いてみよう…って、そんな機会ないって!楽譜は比較的手に入れやすいようなのだが(計2巻)。

と、熱狂的に書いたところで、果たして何人の方が反応するのか興味あるところ(笑)反応してしまったワタクシは、やっぱりパリで生まれる最新の現代作品が好きなんだなあと、改めて再確認。

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全く別の話だが:どこかで噂だけ聞いたことがあるのは、クロード・ドゥラングル Claude Delangle教授の「mixtion」と「Grab It!」の演奏がCDか何かの録音媒体となっているという話。ええっ…と思って以前探索したことがあるのだが、いまだ有効な情報は得られていない。

(追記)
このドゥラングル教授の演奏を記録したものは、ポンピドゥーセンターのライブラリ内に存在しているそうだ。少し検索をかけてみたが、このへんの資料ではなかろうか。

http://mediatheque.ircam.fr/multimedia/search.php?id=AU01552200&partie=1
http://mediatheque.ircam.fr/multimedia/search.php?id=AU01543200&partie=1
http://mediatheque.ircam.fr/multimedia/search.php?id=AU01520100&partie=1
http://mediatheque.ircam.fr/multimedia/search.php?id=AU01522100&partie=1

す、凄い…(唖然)。なんという強烈な資料だ。やはりこれは、ぜひ実際に聴いてみたい。ポンピドゥーセンター、行きたい!

改めて、Veldhuis「The Garden of Love」

ヤコブ=テル・フェルドハウス Jacob ter Veldhuisの「The Garden of Love」を改めて聴き返す。うーん、良い曲だ…。

以前の記事の繰り返しになるが、ここで聴ける。演奏はオランダのサクソフォーン奏者、ティエス・メレマ Ties Mellema氏。


フェルドハウスの作品(「Grab It!」)を初めて聴いたときと、同じくらいのショックを受けた覚えがある。響きが恐ろしいほどに独特なのだ…設定されている音域が高く、ゲットブラスターが発する超高音と朗読音の妙な低音が「アコースティックなのにドンシャリ」という妙な現象を引き起こしている、気がする。何度もループして聴いていると、徐々に最初の朗読部分に音程を感じられるようになり、頭から離れなくなってくること請け合い。

そして題材となったウイリアム・ブレイクの詩に、これほどフィットした音楽も凄い。詩を引用してみよう:

I went to the Garden of Love,
And saw what I never had seen:
A Chapel was built in the midst,
Where I used to play on the green.

And the gates of this Chapel were shut,
And "Thou shalt not" writ over the door;
So I turned to the Garden of Love,
That so many sweet flowers bore;

And I saw it was filled with graves,
And tombstones where flowers should be;
And Priests in black gowns were walking their rounds,
And binding with briers my joys and desires.

鳥や動物の鳴き声のようなサウンドや華やかな電子音は、前半~中間部にかけての極彩色のごとき情景を想起させるだろう。ブリッジ部における、サクソフォンの豊かな上昇音形+フェルマータの美しいこと。一転、「振り返ると…」からのパンチの効いたサウンドもまた、この曲の重心を形成している。終結部に向けての、キック音とベース音を伴いながら進行する高速なフレーズの応酬は、圧巻。

(あまり公言すべきではないので詳細は伏せておくが)某所で日本初演の予定もあるとのこと。期待して待ちましょう。

2007/09/26

週末は、なめら~かさん@横浜へ

私ごときがブログに書かなくとも、知っている方のほうが多いと思う。Thunderさんが主宰する「サクソフォンアンサンブル・なめら~か」さん。今週末に定期演奏会を控えられているので、演奏会情報を載せておこう。

サクソフォンアンサンブル・なめら~か第7回定期演奏会
出演:サクソフォンアンサンブル・なめら~か、大栗司麻(sax)
日時:2007/09/30(日)19:00開演
場所:横浜みなとみらい小ホール
入場料:無料
プログラム:
アルベニス「セビリャ」「コルドバ」
バッハ「イタリア協奏曲」
ドビュッシー「ベルガマスク組曲」
グラズノフ「サクソフォーン協奏曲作品109」(独奏:大栗司麻)
メンデルスゾーン「真夏の夜の夢」より
問い合わせ:http://homepage1.nifty.com/thunder-sax/nameraka/

こりゃ凄いプログラムですなあ。実は、私自身は演奏会という場でなめら~かさんの演奏を聴くのは初めてだったりするので、大変楽しみだ!

ところで…最後まできちんと聴いたとして、つくばに戻ってこれるかどうかは、謎。終電調べておかないと(--;;;

2007/09/25

誓い

「やりたいこと」はいろいろあるのだが、「現実的に可能なこと」はそれよりも少なくて、「実際取り組み始めること」はごくわずか、そして「今まで残すことができた何かしらの成果」は片手で数えられてしまうほどだ。

実は11月4日につくば市のアルスホールで何かサックスのコンサートみたいなものを開けたらなあと考えていたのだが、結局実現には至らなかったのだ…まだ一月半はあるが、絶対に無理。本番への準備は進まないもので(それは主に自分のフットワークが軽くないこと&いろいろに手を出しすぎていることに起因するのだけど)、買ったまま放りっぱなしの楽譜が一体何冊あると言うのだ。浮かんでは消えるアイデアは、一日に2個も3個も。

今日、ふと残りの大学生活期間を思い浮かべてみたら…一年半だと!一年半、この期間が何を意味するのか…。時間なんていくらでもあると思っていたのに、ついに一年半。ここらで少し意識を転換しなければいけない。フットワークは軽く!

絶対にやることリスト:
・コンサート!(とにかくアルスへ!!)
・サクソフォーンフェスティバル参加
・サクソフォーン協会コンクール参加

とりあえず、フェスティバルは何かしらの面白そうな日本初演作品を持っていこうと考えているので、期待していて(?)ください。

2007/09/24

コンサート情報:音とテクノロジーの対話

・音とテクノロジーの対話
出演:八木美知依(筝)、エリオット・ガッテンニョ(sax)他
日時:2007/9/26(水曜)19:00開演
場所:愛知芸術文化センター小ホール
入場料:当日一般3000円、学生2500円
プログラム:
カール・ストーン「タコミエンド(世界初演)」
フィリップ・グラス「四角い形をした作品(サクソフォン版日本初演)」
高橋悠治「橋をわたって」
伊藤美由紀「見えない環(映像改訂版)」
伊藤美由紀「新作(世界初演)」
大村久美子「イマージュの錯綜」
八木美知依「新作(世界初演)」
問い合わせ:
nympheart@yahoo.co.jp(ニンフェアール)
http://www.aac.pref.aichi.jp/bunjyo/jishyu/2007/technology/

筝とサクソフォンをソリストに迎え、ライヴ・エレクトロニクス作品とのデュエットを数多く取り上げるコンサート。詳しくはリンク先をご参照されたい。こうした作品が(IRCAMではなくて)近場のコンサートホールで気軽に聴けたり、新作初演・再演が活発化することは、個人的には大変歓迎すべき状況だ。

例えば大村久美子氏の作品「イマージュの錯綜 Complication d'image」は、サクソフォンとMAX/MSPシステムによる作品の中でも、私自身もっとも重要なものの一つであると捉えている。今回、ブライアン・オライリー氏プロデュースの、ビデオ映像とのコラボレーションであるとのことで、稀有な演奏機会になることは間違いないだろう。

サクソフォンは、YouTubeでも有名?なブライアン・サカワ Brian Sacawa氏が来日予定だったとのことだが、残念ながら諸事情により来日できなくなってしまったそうだ。代わりにサックスを吹くのは、エリオット・ガッテンニョ Eliot Gatengno氏。ガッテンニョ氏の名前は初めて聞いたが、1983年生まれとのことだから…え!まだ24歳か!?

とーっても行きたい。が、残念ながら開催が愛知県であるため、これは無理だ(涙)。お近くの方は、ぜひ行かれると良いと思います。

2007/09/23

モアレのこと

福島県から帰ってきました。いやー、(演奏会も飲み会も)楽しかったなー。モアレ・サクソフォンアンサンブルの演奏会のことを書く前に、モアレの演奏会の成立についてつらつらと記述しておこう。

そもそもは、福島県で開かれていた伝説のサクソフォンのための音楽祭、"ホースピア"までさかのぼらなければならないんだそうな。10年以上前に福島県の原町という場所でゴールデンウィークに開かれていたこの音楽祭、全国各地からサックス吹きが集う、大変なお祭りだったようで。

参加されていた音楽家の方々も、今回演奏会のゲストの啼鵬さんや有村さん始め、トルヴェールの面々、当時芸大にいた松原氏、国末氏などなど、現在、日本のサクソフォン界を牽引する存在となった方々がたくさん集っていたそうな。啼鵬さんは、当時芸大の作曲科を卒業したばかり、有村さんにいたっては、なんと芸大の1年生だったそうな。へえぇ。

そのホースピア音楽祭自体は3回きりで終了してしまったものの、ホースピア音楽祭をきっかけに、福島市を拠点とするモアレ・サクソフォンアンサンブルが結成された(モアレの結成のほうが、先であったという話も…)。そして、その後のモアレの演奏会では、ホースピアで知り合った全国のサックス吹きたちが、ラージアンサンブルのために集う、というのが定例になっているのだという。

今回も、盛岡サックス、山形サックス、プレジールSQの方々ほか、福島県内の吹奏楽団やアンサンブル団体からも多数の参加者を迎え、ゲストを含めた総参加者数は26名。年によって参加者の変動もあり、ホースピアからずっと参加されている方は少なくなってしまったらしいが、多くの演奏者と、豪華なゲストの方々を迎えながらずっと続いているモアレの演奏会。今回は、fさんのお誘いで私も参加してきたのだ。

演奏会の様子は、次の記事で書きます。さて、他の団体の練習に行かなければ…。

2007/09/20

ジャック・テリー Jacques Terry

ジャック・テリー Jacques Terry氏は、言わずと知れた、デファイエ・サクソフォン四重奏団の伝説的なサクソフォン奏者だ。

1922年10月25日生まれ、15歳のときにクラリネットとサクソフォンを学び始め、パリ国立高等音楽院にサクソフォン・クラスが開設されると第一期生となり、マルセル・ミュールにサクソフォンを師事した。卒業後は、パリ音楽院の同級生であったダニエル・デファイエが設立した四重奏団に参加し、テナーを担当。その他、オーケストラ・ソリストや独奏者としての活動も目覚しい。

教育面においては、パリ市立10区音楽院の教授として後進を指導。優れた奏者を数多く輩出した。日本人でも、服部吉之先生、小串氏など、多くの奏者が学んでいる。ピアニスト服部真理子さんのページから、テリー氏に教えを受ける若き日の服部先生の写真を拝見することができる(こちら)。

今日、久しぶりにデファイエ四重奏団の録音を聴いた。…そうだ、テリー氏のこの音。私の中では、いくら憧れても絶対手に入らないものの代名詞。なんとも浮遊感のある不思議な音色…メタルの古ぼけたマウスピースで、どうやったらこんな音が出るんだ。加えて際限のないテクニックと楽器の完璧なコントロール。…はあ(ため息)。

四重奏の中でテナーを吹いている私にとって、この音楽は、驚異と表現するしかないのですよ。少しでも近づけたら…というのは、愚考かも。

2007/09/19

週末は、モアレ・サクソフォン・アンサンブル

fさんのお誘いで、モアレ・サクソフォン・アンサンブルの定期演奏会にラージで参加させていただくことになりました。週末泊りがけで、福島県へ行きます。というわけで、宣伝。

・モアレ・サクソフォン・アンサンブル第11回定期演奏会
出演:モアレSE(sax)
ゲスト:有村純親(sax)、啼鵬(cond, bandneon)
日時:2007/9/22(土)開演14:00
場所:福島県福島市テルサ
入場料:500円
プログラム:アメージング・グレース、ブエノスアイレスの四季、情熱大陸他
問い合わせ:http://moire.shinsuke.com/

お近くの方は、ぜひおいでください。

2007/09/18

今年のサクソフォーンフェスティバル

サクソフォーンフェスティバル2007の詳細が決まりつつあるようだ。

http://homepage2.nifty.com/jsajsa/festival2007/festival2007.htm

今年も22日にはB会員が参加できる催しがあるようだ。四重奏で出たい!真剣にプログラムを考えてみようかな。「Jesus is Coming」やってみたいけれど(ぼそ)、無理かなあ。

23日は、例年に増して濃ゆい。小ホールでは、平野公崇氏と坂田明氏(!)の即興演奏対談+演奏。大ホールでは、サクソフォン+ライヴ・エレクトロニクスの作品集(個人的に大注目)。そして雲井雅人氏のサクソフォーン黎明期の楽器を使った演奏、貝沼拓実氏のサクソフォーンオーケストラをバックにした協奏曲演奏等、その他盛りだくさん。

実行委員長は有村純親氏。…おお、今週末、モアレの本番で少しお話できるかもしれないな。

2007/09/17

ムラヴィンスキーのAltus盤を聴く

こんな私でも、ごくたまにオーケストラのCDを聴くことがある。サックス的興味から外れた(=オーケストラの編成としてサクソフォンが含まれていない)曲もたまに聴くのであるが、その聴く聴かない基準はと言うと、ド派手でかっこよければという、なんとも純粋なクラシックファンが聴いたら目くじら立てそうなしょうもない理由なのだが。

その中でも、ショスタコーヴィチの「交響曲第5番」は、常に携帯音楽プレーヤーに入れて持ち歩いている曲のひとつだ。言うまでもない、政治色・プロパガンダ色に染められたこの曲は、やっぱり「革命」をやらせたら世界一の、ムラヴィンスキー×レニングラード・フィルハーモニーの取り合わせでこそ聴きたい。

ムラヴィンスキー×レニングラード・フィルの「革命」は、セッション盤・ライヴ盤ともいくつか出ている。まあ、どれもがすばらしいとか…ショスタコーヴィチへの最大限のオマージュとも取れる深い解釈、徹底的なリハーサルの結果としての録音は、圧巻としか言いようがない。

「革命」をいくつか聴いた中で、今までのお気に入りは、scora盤(Scora Classics scoracd011)。1982/11/18、ロシアでのライヴ録音で、演奏の完成度、最高レベルのテンション、録音の程よい荒っぽさ、どれをとってもこの曲にふさわしく感じる。「革命」に関してはこの1枚だけあれば良いと感じてしまうほどだ。第1楽章の行進部分など何度聴いても鳥肌が立つし、第3楽章の弱音、打って変わって第4楽章の破壊的な音圧など、特徴を挙げていけばきりがない。

ところで、世間一般に評価が高いのは、Altusというレーベルから発売されている、1973/5/26のライヴ録音盤なのだそうだ。なんと来日時、東京文化会館でNHKのチームによって収録されたもの。このたび、中古CDショップにて格安の1100円でゲットしたので、早速聴いてみた。

scora盤とAltus盤を聴き比べてみると、Altus盤のほうは録音があまりに良いせいで、ずいぶんと"綺麗に"聴こえる演奏だ。金管の音圧も均整が取れて上品だし、弱奏がクリアに聴こえるぶん、第3楽章なんて本当に天にも昇る美しさ。…うーん、scora盤に慣れてしまった身としては、ちょっと物足りないかなあ。なんというかメロディアっぽいあのガリガリした音色こそが、自分のお気に入りなのだなあと再認識した。

というわけで、「革命」に関してはやっぱりscora盤に戻ってくるのでありました。ムラヴィンスキーが数ある交響曲の中で最も重要だと考えていた2曲…ショスタコーヴィチの「交響曲第5番」とチャイコフスキーの「交響曲第5番」がいっしょに収録されてなかなかおトク。これらの曲が好きな方はぜひscora盤を聴いてみてください。

神秘?凡庸?

休日だというのに研究室に引きこもって仕事をしながら、シュトックハウゼンのサクソフォン作品集を繰り返し聴く。あー、収録作品のフォーミュラを全部覚えちゃったよ(「誘拐」に使われているイヴのメロディの、スーパーフォーミュラをどこかで聴けないかなあ)。

とりあえず、シュトックハウゼンは考えうる限りの変態(最大級の褒め言葉です)だということは、良くわかった。

後にも先にもない音楽が、ここにはある。まあその音楽が、果たして神秘的なのか凡庸なのか、というのはイマイチ判りかねるところなのだが。なんというか、現代のサティだとも形容できるか。ただの落書きのようなジャケットは、一体あれ何なんだろう。深い意味でもあるのか?

(こんなジャケット。クリックすると大きい画像が見られます)


完全に、シュトックハウゼンの音楽に飲み込まれて・毒されて・魅了されている、最近のワタシでございます。麻薬のような魅力がなんとも。

2007/09/16

栃尾克樹2ndCD発売記念コンサート

ドルチェ楽器管楽器アベニュー東京でのリサイタル。昨年の浜離宮でのリサイタルを聴き逃していただけに、栃尾さんのバリトンを生で聴くことができるのは大変うれしい。印象に残るのは、2003年東京文化会館でのリサイタル、どこまでも深い音楽に惚れ惚れしたのを、つい最近のように思い出すことができる(あの「アルペジョーネ」や「詩人の恋」は、まさに一流の音楽家による演奏だった)。

会場となるのは、アーティストサロンDolceなるキャパ100のホール。初めて入ったが、小さいけれどアクタスのアンナホールほどは音楽が飽和せず、管楽器とピアノのデュエットが心地よい空間だと感じた。

栃尾克樹(b.sax)、山田武彦(pf.)
・バッハ「無伴奏チェロ組曲第1番より"プレリュード""メヌエットI,II"」
・フォーレ「エレジー」
・フランク「ヴァイオリン・ソナタ」
・クライスラー「美しきロスマリン」
・クライスラー「ウィーン狂詩幻想曲」
・アルベニス/クライスラー編「タンゴ」
・グラナドス/クライスラー編「スペイン舞曲」
・アイルランド民謡/クライスラー編「ロンドンデリーの歌」
・クライスラー「シンコペーション」
・ブラディゲロフ「シャント」
・マスネ「タイスの瞑想曲」
・ウィリアムズ「シンドラーのリスト」
・モリコーネ「ニュー・シネマ・パラダイス」
~アンコール~
・リムスキー=コルサコフ「くまんばちの飛行」
・サン=サーンス「白鳥」

てっきり、1時間程度休憩なしのミニコンサートだと思っていたのだが、プログラムを見てのとおりの驚きの2時間フル・コンサート。なんだか得した気分。

しかし、ホント栃尾さんて根っからの「音楽家」なのだなあ。歌い方やフレージングのつなげ方に迷いはなく、かといって不自然に造り上げられた感じもせず、山間から自然に湧き水が湧くように、上質の音楽が奏でられるのだ。その音楽表現の手段として、あえてバリトンサクソフォンを持ってくる辺りがまた面白いところで、このコントロールしづらい楽器を、最低音からフラジオまで見事に繰ってみせるのですよ。すごいすごい!そして、ベルから飛び出す声楽家のような音色と、センスの良いヴィブラート。これ以上何を望めと言うのだ?

ピアノの山田氏も、今さらながら只者ではない。基本的に柔和で暖かい音色を持ちながら、音の線の細さを自在に変える見事なテクニック、曲が進むごとに毎にリズム処理をたちどころに変えてくる辺りなど、唖然とするほかなし。音の細さを変えて、まるでハープのような音色を出したときは、正直震えた。ほええぇ。

フォーレでのEbに到達する激情、原曲にはないフランクの魅力など、前半から圧倒されっぱなし。しかも音色を崩さないのが凄いなあ。フランクは、ぜひいつかのリサイタルで全楽章を聴いてみたいな。

休憩を挟んだ後半がまた、面白かった!栃尾さんと山田さんの、噛み合っているような噛み合っていないようなトークに、場内大爆笑。終始和やかな雰囲気で進行していった。

クライスラーは、CD「影の庭」に収録されたもの以外にも演奏。山田さんが提案した曲目だという「ウィーン狂詩幻想曲」の人を食ったお遊び、スペインの作品のヴァイオリンの扱い方など、「愛の喜び」しか知らない人はびっくりするんじゃないか?それをまたバリトンで聴けるというのが、サックス吹きとしては贅沢な状況だ。

同じく山田さん提案のブダディゲロフ「シャント」。夜のロシア正教会をバックに、細く光る糸が宙を漂い、煌くようなイメージを想起させる←何じゃそりゃ。内容としては、ブルガリア民謡辺りを題材に取ったものなのだろうが、妙に不思議な響きのする作品だ。おもしろかった。映画音楽の「シンドラーのリスト」「ニューシネマ」も良かったなあ。ニューシネマは、あの「The SAX」の編曲だったが、バリトンでやるのもなんと美しいことか。ピアノも熱演。もう、我を忘れてゾクゾクしっぱなし。

このまま終わると思いきや、アンコールでは盛大なオチをつけて終わらせるのだから、やっぱり栃尾さんも「サックス吹き」なのですね(笑)。何というマシンガン・タンギングの「くまんばちの飛行」!そして、最後の最後はしっとりと、「白鳥」。うーん、すばらしい演奏会だった。また聴きたいな。

そういえば、サインをもらうために何か変わったものはないか、と探したのだが…この「Aqua Dream」が出てきたので、これにサインを頂戴してきました(やっほーい)。栃尾さん、このCDを見るなり、「これはまたマニアックだねー」と仰っていました(笑)。

…会場では、思いがけずなめら~かの某さんとご一緒しました。なめら~かさんの定期演奏会も近いですが、楽しみです。

意外となんとかなる、かも知れない

アントン・ヴェーベルン Anton Webern「四重奏曲作品22(Quartett op.22)」初合わせ。"四重奏曲"と言っても、サックス四重奏じゃございません。興味ある方は調べてみてください。…6分間にぎゅっと凝縮されたクリスタルのような響きが好きで、いつかやってみたいと思っていた曲なのだ。

合わせることができた時間は、ほんの40分だったが、なんとか16小節進むことができた…。もっと苦労すると思っていたけれど、さらいようによっては意外と何とかなるんじゃないか。と、思えたことだけでも収穫か?いつかお披露目すべく、がんばろっと。

2007/09/15

NSF最新号

ノナカ・サクソフォン・フレンズのVol.21がアップされていた。

http://www.nonaka.com/nsf/magazine.html


巻頭特集は、宗貞啓二氏へのインタビューだ。毎コンで一位を取る以前の波乱万丈キャリア(?)が語られており、大変面白い。その他、ドゥラングル教授の来日情報や、アンナホールで行われたコンサートやクリニックのレポートなど。

個人的に興味深く拝見したのが、ドゥラングル教授がパリ国立高等音楽院に就任して以来の卒業試験課題曲一覧(白井奈緒美さんのレポート)。所々抜け落ちている年が気になるけど…

あ、鈴木氏の「凧」って卒業試験曲だったんだ。へぇ。「Mixtion」あたりはよく知っているし「センドロス」は、井上麻子さんが卒業した年のはずだ、ふむふむ。…ん?ラスカトフ「パ・ドゥ・ドゥ」って、卒業試験曲だったのかーー!!うーん、あの曲が卒業試験曲ねぇ…。その年の試験を受けた方に、同情しちゃいます。

ついでに、ブーレーズ「二重の影の対話」の、作曲家自身によるマスタークラスのレポートもちょこっとだけアリ。

saxophone + live electronics, tape, synthesizer

サクソフォンとライヴ・エレクトロニクス or テープ or シンセサイザーのために書かれた作品のうち、特に面白いと思われるものをご紹介する。…とは言っても文だけでは曲想が伝わらないと思うので、ぜひCDを手に入れて聴いてみることをオススメ。どれも聴いて楽しい作品だ。

BECKER, Jacques ジャック・ベッカー
Western Ghats ウェスタン・ジャッツ」 for s.sax and tape
全体を覆うイメージは、"インドの密林に佇む神殿"といったところか。ジャングルの中にいるような動物の鳴き声、風、葉の擦れあう音…から始まり、西部インド音楽を想起させる旋律線、そしてソプラノサックスが導く祈りの合唱。じっと耳を傾けていると、神秘的な雰囲気に飲み込まれてしまいそうだ。
Fabien Chouraki「Paysaginaire(Virages du saxophone VDS 005)」

BOULEZ, Pierre ピエール・ブーレーズ
Dialogue de l'ombre double 二重の影の対話」 for a.sax and tape
クラリネット作品からの改作。クラリネットの録音しか聴いたことがないため何ともコメントしがたいのだが、幸いなことに2006年のコングレスで本作品が演奏されたときの映像を観ることができる(http://jp.youtube.com/watch?v=V-hwx9SiBXA)。テープ録音と演奏者が、交互に対話していく様子が分かるだろう。日本での演奏はまだなされていない。
「レコーディングなし」

BUNCE, Mark マーク・ブンス
Waterwings ウォーター・ウィングス」 for a.sax and tape
主に現代音楽方面への活躍が目覚しいアメリカのサクソフォン奏者、ジョン・サンペン氏のレコーディングから。無限に広がる深い海の底を旅するような、神秘的な情景が目の前に広がり、まるで環境音楽のような夢見心地を感じる。コードに乗りながら、徐々に盛り上がっていくさまは感動的だ。もともとはヤマハのウィンドシンセサイザー、WX7のために作曲されたそうだ。
John Sampen「The Electric Saxophone(Capstone CPS-8636)」

ENGEBRETSON, Mark マーク・エンゲブレツォン
She Sings, She Screams 彼女は歌い、彼女は叫ぶ」 for a.sax and synthesizer (tape)
タイトルどおりの二部構成。呪術的な歌の部分と、サクソフォンに何かが憑依したかのような叫びの部分。全体にわたって微分音が多用されており、西洋音楽にはない不安定な音世界が表現されている。アメリカでは再演・再録も多いそうだ。
初演時はヤマハのシンセサイザーとの演奏だったようであるが、出版楽譜は楽譜とテープのセット。
Richard Dirlam「She Sings, She Screams(Innova 543)」

Feiler Dror ドロー・フェイラー
Tio Stupor 10の絶壁」 for a.sax and tape
北欧のサックス作品を集めたPhono Sueciaのアルバムに収録されていた作品。パーカッションを模したテープとの共演で、サクソフォンパートは超難易度パッセージの連続。最低音を繰り返し吹きながら、目が回るような跳躍を繰り返す。
Jorgen Pettersson「Saxophone Con Forza(Phono Suecia PSCD81)」

GOTTSCHALK, Arthur アーサー・ゴットシャルク
Shall We Gather シャル・ウィ・ギャザー」 for a.sax and tape
ジャズサクソフォン奏者アーネット・コブの逝去に際して、彼の最後のレコーディングのアウト・テイクを音素材にテープトラックにリミックスした作品。サクソフォンは、ややテープと似会話するように音を並べていく。ベースとなるアイデアはミュージック・コンクレートだが、飛び出す音はほとんどケルン式のように聴こえる。
Omnibus「America's Millennium Tribute to Adolphe Sax, Volume IX(Arizona University Recording AUR CD 3122)」

GREGORY, Will ウィル・グレゴリー
Interference 干渉」 for s.sax and tape
グレゴリーは、イギリスの作曲家・サクソフォニスト。最近ではアポロサクソフォン四重奏団の録音にも参加している。
全体は二部構成。前半ではぼやけたサウンドにソプラノサックスの重音が細く重ねられ、AMラジオのような断片的なノイズがまるでホラー映像の効果音のようにも聴こえる。後半はエフェクト処理されたサックスの伴奏にのって、ソロがポップにリズムを刻んでゆく。最終部はソリストの技量に任された短い即興部分を伴い、重音の伸ばしで突如として曲は締められる。
Simon Haram「on fire(black box BBK1001)」

JODLOWSKI, Pierre ピエール・ジョドロフスキ
Mixtion 混合」 for t.sax and live electronics
パリ国立音楽院とセルマー社の共同委嘱により、同校サクソフォン科の2003年卒業試験曲として作曲された。伝統的なミュージック・コンクレートを発展させ、リアルタイム・エフェクトやマルチ・トラックなどのエクリチュールが幾重にも織り込まれており、豪華な響きのする作品だ。日常生活の中で耳にする音が、発散収束を繰り返しながらロック風のクライマックスへ上り詰める様子は、圧巻。
2006年、ジェローム・ララン氏により日本初演。私も臨席していたが、すばらしい熱演が繰り広げらて、大変に感銘を受けた。
Jerome Laran「Paysages lointains (CREC-audio 05/046)」

KURTAG, György ジョルジー・クルタグ
La visite du tonton de Bucarest ブカレストの叔父を訪ねて」 for sn.sax and synthesizer
ダニエル・ケンジー氏との共同作業によって生まれた作品。ソプラニーノ・サクソフォンのパートは完全即興であり、何テイクかの録音の後、ミキシング・エフェクティング等の作業を経て、最終的なレコーディングを完成させる、というプロセスをとったようだ。再演は、ケンジー氏がいないと難しいのでしょうな(笑)。
Daniel Kientzy「L'art du saxophone(Nova Musica NMCD 5101)」

OMURA, Kumiko 大村久美子
Le complication d'image イマージュの錯綜」 for t.sax and live electronics
齋藤貴志氏に献呈された作品。コンピュータから発せられる様々なイメージ(音素材)が現れては消えながら、徐々に曲の構造を創り上げていく。微分音の多用は、曲にややフラジャイルな印象を与えるが、日本的旋律のが出現した瞬間に安定するイメージを受ける。演奏は、サクソフォンとMAX/MSPシステムによって実現される。
Takashi Saito「The Angel of Despair(ALM Records ALCD-9046)」

RILEY, Terry テリー・ライリー
Assassin Reverie 暗殺者の幻想」 for saxq and tape
四重奏とテープのための作品。サックスのみによるサウンドが冒頭と最終部に出現し、テープとフリージャズ風ソロが絡む中間部を挟む形となる。中間部に配置されたテープサウンドは、印象が強すぎる…この世の悲劇をすべて音に変換して、ミキシングしたらこんな感じなのかな。
Arte Quartett「Assassin Reverie(New World Records 80558-2)」

SIEGEL, Wayne ウェイン・シーゲル
Jackdaw ジャックダウ」 for b.sax and tape
バリトンサックスのためのポップな作品。分かりやすいビート感とメロディで、日本でも演奏されればなかなか人気が出そうにも思えるのだが。
Stephen Cottrell「The Electric Saxophone(Clarinet Classics CC0033)」

STOCKHAUSEN, Karlheinz カールハインツ・シュトックハウゼン
Entfuhrung (Abduction) 誘拐」 for s.sax and tape
シュトックハウゼンの大作オペラ「Licht」月曜日の挿入曲「誘拐」は、もともとピッコロフルートとと器楽・声楽アンサンブルのための作品。シュトックハウゼンは、ジュリアン・プティとの共同作業によって、バックをテープ音楽として再構築し、ソロパートをサクソフォンへと編曲した。後にも先にも存在しないと言われるシュトックハウゼン独自の音世界が、存分に発揮された名作。
原曲と聴き比べてみると、テープでの表現に独自性を感じられて面白い。
Julien Petit「Saxophon (Stockhausen 78)」

TANAKA, Karen 田中カレン
Night Bird ナイト・バード」 for a.sax and tape
満天の星空の中、宇宙空間を飛ぶ鳥の視点を乗っ取ったような神秘的な響きがする作品。まるでホルンが奏でるかのようなゆっくりとした導入部から始まり、中間部ではふとした陰りをも見せながら。
Claude Delangle「Japanese Saxophone (BIS CD-890)」

TERAI, Naoyuki 寺井尚行
Positive Sign ポジティブ・サイン」 for s.sax and live electronics
愛知県立芸術大学にてコンピュータ音楽を研究する寺井氏だけあり、音素材の選び方に慣れたものを感じる。日本電子音楽教会の定期演奏会にて初演。
バラードのような無伴奏ソプラノサックスから曲は導かれるが、すぐに鎖が断ち切られたようにフリージャズ風即興部へと突入。コンピュータは、奏者の出した音にリアルタイムにエフェクトをかけてゆく。最後は、冒頭部のエコーを残して幕。4分少々と短い作品ではあるが、中心部における高密度さは必聴。
「The Dream Net(Cafua CACG-0022)」

UNEN, Kees van キース・ファン・ウネン
JOUNK ジョウンク」 for a.sax and tape
今最も気になっている作品。ハンツ=ドゥ・ヨング氏によって日本で初演された作品で、ロックのようなカッコイイ曲だとか。聴いてみたい!!
「レコーディングなし」

VELDHUIS, Jacob ter ヤコブ=テル・フェルドハウス
Billie」 for a.sax and tape
Grab It!」 for t.sax and tape
The Garden of Love」 for s.sax and tape
人の声を何トラックにも重ねてミキシングし、変拍子の嵐の中に組み込んでしまうというフェルドハウス独特の作曲法が存分に発揮された作品。他のどの作品にもないポップな愉悦感・躍動感こそ、彼のオリジナリティと言えるだろう。
「Billie」は、ビリー・ホリディのインタビュー音源を元にミキシング。しなやかで官能的な雰囲気が面白い。「Grab It!」は、アメリカの終身刑受刑者の叫びを下敷きに、ロックのようなビートを前面に打ち出した快作。「The Garden of Love」は、ウィリアム・ブレイクの詩の朗読を基にし、(フェルドハウスなりの愛の庭を音世界で表現したのだろうか)曲全体が総天然色に染め上げられているような錯覚を覚える。
Ties Mellema「Grab It!(Amstel Records AR 005)」他

2007/09/13

コミュニティの光と影

サクソフォン吹きは、なぜか同族で固まる傾向がある。もって生まれたこの楽器の特徴…19世紀生まれ・オーケストラに入れず・レパートリーは近現代・木管と金管の折衷楽器・その他もろもろが、そのまま奏者の精神にも乗り移り、いつの間にやらクラシック・サクソフォンという堅牢なコミュニティを形成してしまった。

このコミュニティの居心地は大変良い。同族とのアンサンブルには事欠かず、培われてきた奏法のノウハウ、魅力的なオリジナル作品の数々…。サクソフォニストは互いに助け合いながら、年月を重ねるにつれ、受け入れ者をどんどんと増やしている。

例えば、そのコミュニティの殻を破って外に飛び出した者は、さながらエデンを追われたかのように、厳しい環境の中で生き抜くほかない。木管アンサンブルにも参加できず、オーケストラにも参加できず、はてどうしたものかと考えるうちに、意識せずコミュニティに舞い戻るのが普通だ。サクソフォン界は、同じ楽器を持った者に優しい。飛び出すのは難しくても、参加することは簡単だ(BGMはプッスール「禁断の園へのまなざし)。

向こう数十年、このコミュニティの豊かさはこのまま継続し、その後もずっと安定さは続くかに見える。しかしどうだろう、フランス・アカデミズム発のレパートリーは、昨今ではとうに食い尽くされた感がある。名曲と呼ばれるレパートリーの枯渇は、そろそろひとつの問題として具現化していないだろうか?サクソフォンによる表現を追い求めすぎて、他の楽器の表現…声の繊細さ、クラリネットのヴィブラートを伴わない歌い方、トランペットの明快さ、などから目を背けてはいないだろうか?教育体系の不確定さはどう落とし前をつければ良いのか(特に日本)?

サクソフォン・コミュニティは、大きさばかり巨大で、中身が希薄な状態にある、と言える。果たしてこの後どうなっていくのか…。

2007/09/12

何て読むの?

ダニエル・ケンジー Daniel Kientzy氏とレイナ・ポーテュオンド Reina Portuondo女史により結成された"Meta Duo"のCDが到着。タイトルは…



「Dif:rq!」ですか…うーん、読めないのだが。ディフ・アールキュウとでも発音するのか。タイトルが読めないCDを買ったのは、生まれてこの方初めてだ。

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(追記)
中の解説読んでみたら、di-frequencyという単語から作り出したタイトルだそうです。…ってわかんないよっ! :-(

Karlheinz Stockhausen 「Saxophon (Saxophone)」

一昨日の徹夜時に、このシュトックハウゼンのサクソフォン作品集をループして聴いていたら、頭から「Amour」最終楽章である「Four Stars Show You the Way」の音列が抜けなくなってしまった。何をやっていても頭の中では、C C# G Gb, C C# G Gb, C C# G Gb…。おまけになぜかこの音列が、伊藤康英先生の「協奏曲」とごちゃ混ぜになり、どうしようもない状態。

言わずと知れた現代音楽界の旗手、カールハインツ・シュトックハウゼンが、サクソフォンのために作曲/編曲した作品を収録したディスク「Saxophon(Stockhausen 78)」。シュトックハウゼン自身が運営するレーベルからの出版で、収録は作曲家監修の下で行われたようだ。普通にCDショップで買うと恐ろしく高価なのだが、Sternklang-Diskなるオンラインショップにて4000円で入手することができた。収録曲は以下の通り。

・Amour for saxophone solo
・Saxophon (Saxophone) for saxophone and bongo
・In Freundschaft (In Friendship) for saxophone solo
・Knabenduett (Boy's Duet) for 2 saxophones
・Entfuhrung (Abduction) for saxophone and tape

シュトックハウゼン氏が表現する、何とも人を食ったような音響世界が、とにかく私のツボにぴたりとはまった。最初に書いたように、繰り返し聴けば聴くほどに中毒度が増していくCDだ。音や響きはまったく違うけれど、ロック方面にシュトックハウゼン氏の作品が人気だということが、なんとなく分かる気がする。演奏も凄い!サックスを吹いているのは第3回アドルフ・サックス国際コンクール(ディナン)で第2位を受賞したジュリアン・プティ Julien Petit氏だが、彼の演奏は、とにかくシュトックハウゼンと聴き手を結びつけることに徹しているよう感じる。

「Amour」はクラリネットのため書かれ、サクソフォン版はプティ氏に献呈された。サクソフォンの音域を考慮してか、高音域が出現する部分にはossiaが付されているが、プティ氏は初演の時からossiaを使わず楽譜どおり吹いてしまったとか。無伴奏作品なのだが、不思議なほどに聴き手を捉えて離さない。無伴奏作品としての演奏機会が増えても良いかな、と感じた(特に最終楽章)。

「Saxophon」「Piccolo」は、パーカッションとの共演(Geisha Bellって何?)。特に「Saxophone」などは、ライナーに特記があるわけではないが、日本的なリズム様式(ぽんっ、ぽんっぽんぽんぽんぽぽぽぽぽ…という拡大縮小)や、グリッサンドが随所に出現して、聴きながらまるで尺八を聴いているような錯覚に陥ったこと数回。

「In Freundschaft」は、録音がデッドなのがもったいないなあ。せっかくならば、「Solitary Saxophone(BIS-640)」のように教会のようなところで録音して欲しかった。同一音の繰り返しは、やっぱり響きのあるところでの、ポリフォニックな効果を聴きたい。

「Knabenduett」は、ソプラノ・サクソフォンの二重奏だが、もう一人は誰かと思えばなんとアントニオ・フェリペ=ベリジャル Antonio Felipe Belijar 氏!!凄…。第3回ディナン・コンクール第2位と第3位の共演ですか、いやはや。研ぎ澄まされたテクニックに、高いアンサンブル力(相当リハーサルしたんだろうな…ヴィブラート一つ一つすらきっちり合うほど)、音色もずいぶん似て聴こえる。この作品、原氏・ララン氏のデュオでも聴いてみたいかも…。

「Entfuhrung」は、テープとサクソフォンのための作品。あの大作オペラ「Licht(光)」の「月曜日」中の曲だそうだ、へえぇ。もともとはピッコロフルートのために書かれたそうだが、テープに収録された騒音とのデュエットは、なかなか面白い。すでに知っているテープ作品の中でも、かなり面白いものだと感じた。暮れのサクソフォン・フェスティバルでやってくれないかなー、今年は、サクソフォンとライヴ・エレクトロニクスという企画があるらしいので…テープ音楽は無理か。

さて、ざっと中身を書いたが、いやはやずいぶんとシュトックハウゼン世界に毒されているなあ。それだけ独特の作品であるし、それだけ演奏が凄い、ということなのでしょう(サックスを意識せずに聴ける録音って、久々に聴いた)。

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(追記)
ジュリアン・プティ Julien Petit氏のウェブページに、シュトックハウゼン氏とのリハーサル風景を含むプロモーションムービーがある(リハーサル風景は一瞬だが)。Entrezから入って、ページ下隅にあるVideoをクリックすると観られる。

2007/09/10

シュトックハウゼンのサクソフォン作品集が到着

カールハインツ・シュトックハウゼン Karlheinz Stockhausen氏のサクソフォン作品集、「Saxophon(Stockhausen 78)」(←スペルミスではない)が到着。サックスの演奏は、ジュアン・プティ Julien Petit氏がメインで、デュオ作品では何とアントニオ・フェリペ=ベリジャル Antonio Felipe Belijar氏が参加している!

詳しいレビューは次回以降に回すとして(最近妙に本職周辺のほうが忙しいのです…今日は徹夜かも)。シュトックハウゼン氏周辺の録音・楽譜は、氏自身のプライヴェート・レーベルからのみ入手可能であるのだが、とにかく高い。タワレコなどで見かければ1枚5000~6000円はザラで、なかなか踏ん切りがつかなかったのだが、Sternklang-Diskなるオンラインショップの存在を知り、いくらか安く手に入れられたのだ。

注文してから到着までに少し時間はかかるが、このショップはシュトックハウゼンそのほか現代音楽系のディスクを探すにはオススメかもしれない。いつか「光 Licht」を全部手に入れてみたいなあ。

2007/09/09

ドイツの作品

本ブログの「最近のコメント」機能の調子がおかしいですが(名前しか表示されない)、相変わらずコメント大歓迎ですので、どうぞツッコミ入れてやってください。

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さて、最近ドイツで生まれたサクソフォンの作品が、けっこう面白いかも…と感じている。ゲルハルト・ブラウン Gerhard Braunの「トリトン」なる無伴奏アルトのための作品を、筒井裕朗氏のmi○iページで聴いたのだが、なかなか聴いたことのない響きで面白かったのだ。

周知の通り、ドイツにおいてはクラシカル・サクソフォンは、(外部からしてみれば)異様な発展を遂げた。ラッシャーの台頭、フランス・サクソフォン界のシャットアウト、さらにドイツにおいては第2次大戦中のナチスのユダヤ人弾圧により命を落とした作曲家たちが数多くいたが、戦火と共に忘れ去られごく最近発掘された作品、というものも多数存在すると聞く。

少なからずフランスの響きを輸入した日本やアメリカ、その他ヨーロッパ諸国(ドーバーをは挟んだ、イギリスは例外)におけるクラシカル・サクソフォン界の発展に比べ、ドイツのサックスは世界的に見れば長い間開花せずにいたようだ。そんな中、ごくわずかな作曲家たちがラッシャー派を始めとする自国のサックス吹きに、何曲かの作品を献呈していたのだろう。しかし、外部との交流を絶っていたドイツ・サックス界のこと、世界的なレパートリーとしては定着しないまま、今日まで埋もれた作品が多いようだ。

クノール、ゲンツマー、そして今回のブラウンなど、どの作品も手堅い構造を持つ渋いものばかり。フランス発の、たとえばモーリスやシャイユーなどの「オシャレ」感覚とは無縁ではあるが、これはこれで個人的に興味深い。まあ、たとえば現在集中的に演奏されたとしても、将来にわたってポピュラリティを得るか、という観点で考えれば、やや怪しいとも思えるが…(やっぱ、メロディアスな作品のほうが気楽に歌えますからね)。

ちなみに筒井氏は、石川県で活躍される金澤攝氏(埋もれた作曲家・作品を発掘することに生涯をかけているという、ピアニスト・作曲家)のプロデュースにより、2005年にドイツのサクソフォン作品ばかりを集めたコンサートを開いていたそうだ。ブラウンの録音はこのときのライブ録音だそうだが、これは生で聴いてみたかった。

うーん、もうちょっと視野、広げないとな…世界は広い。せっかく「Comprehensive Guide to the Saxophone Repertoire」も購入したことだし…って、ええ!?ブラウンの作品、目録に存在しないぞ!!なんてこったい。

2007/09/08

シャイユー「アンダンテとアレグロ」

アンドレ・シャイユー Andre Chailleux は、1904年に生まれのフランスの作曲家。「Comprehensive Guide…」によると、サクソフォンの作品は「アンダンテとアレグロ Andante et Allegro」のみしか書いておらず、その他の編成へ提供した作品も少なく、現在ではトランペットのための「Morceau de concours」が時折演奏される程度である。

「アンダンテとアレグロ」は、サクソフォンを学ぶ者がレパートリーとして取り上げることが多い、初~中級難度の小品。2つの楽章はアタッカで演奏され、全体を通しても演奏時間は3~4分程度である。出版元はアルフォンス・ルデュック Alphonse Leduc。

アンダンテは、ゆったりとしたピアノの和音連打にサクソフォンの美しいメロディが重なる。ふと、ピアノの和音に不安定さを醸し出す辺りなど、心にくい。展開部では、ピアノのアルペジォに少々変形した主題が繰り返される。打って変わって6/8のアレグロでは、ピアノに導かれて現れるリズミカルな主題が印象強く、さらに最終部では上昇下降を激しく繰り返すサクソフォンの技巧的なパッセージが圧巻。最後は、あっという間の幕切れ。

録音は、ファブリス・モレティ Fabrice Moretti氏のものが国内のインディーズ・レーベルでから発売されている。「Serenade italienne(Momonga Records MRCP 1013)」。サクソフォンのための、オリジナルの易しい小品を集めたこのCD、モレティ氏の演奏は、本当にステキだ。アルバム全体が、音楽を奏でる幸福感で満ちている。

Jerome Naulais

ジェローム・ノレ(ノーレ) Jerome Naulais氏といえば、サックス吹きにとってはおなじみの作曲家だ。「フリッソン Frissons」「サックストーリ Saxtory」「サックス・ド・ヴォヤージュ Sax de voyage」「気まぐれな組曲 Toquades」など、親しみやすい曲調を持つ作品を、数多く発表している。

私も、「気まぐれな組曲」など四重奏で音を出したことがあるが、吹いても楽しいし、聴いても楽しい作品。「フリッソン」などは、ソロ作品として取り上げられることも多いし、「サックストーリ」は、ごく最近関西のほうで演奏されたと言う話を聞いたことがある(井上麻子さん周辺の話だったと記憶する)。これら作品における、ジャズやタンゴなどの曲想を、クラシック作品の中に見事に溶け込ませる手法は、見事と言うほかない。

で、何で突然ジェローム・ノレ氏かと言うと…。

つい今しがたアンサンブル・アンテルコンタンポラン Ensemble InterContemporainのページを眺めていたのだ。最近はサックスに定席があるのかなあとか、メンバーって今誰なのかなあと、メンバー表を取り出してみていたのだが、ななななんと、トロンボーンに「Jerome Naulais」という名前が!同姓同名の人か?とも思ったのだが、どうやら同一人物のようだ。

トロンボーンとしての経歴は、パリ国立音楽院をトロンボーンとソルフェージュで一等賞を獲得して卒業、イル・ド・フランス管弦楽団、コロンヌ管弦楽団のトロンボーン奏者を歴任し、アンサンブル・アンテルコンタンポランには、1976年の設立当初から在籍しているそうな。…これ、並大抵のプロフィールではないぞ。あの親しみやすい曲を書くノレ氏が、高名なトロンボニスト、しかもモダン・ミュージック(現代音楽)もガンガンいけるぜ!という顔をも持っている事実は、私にとっては大変なサプライズであったのでした。いやはや。

…え?もしかして常識?

2007/09/06

どこでCDを買うか

クラシック・サックス関連のCDは、以下のようなところで入手している。他にオススメのサイトなどありましたらぜひ教えてください。

amazon
基本ですね。送料は1500円以上の注文ならば無料というのもありがたいし、ユーズド製品の存在も魅力的。時々、amazon.co.jpだけではなくamazon.comやamazon.fr、amazon.deを使うこともある。

eBay
送料にさえ目を瞑れば、日本ではなかなか手に入らないCDが売っていたりして面白い。LPを買うこともある。支払い方法としてPayPalが普及しているので、気軽に利用できる。

HMV
昔は、amazonにないCDが置いてあったりしてよく利用していたけれど、最近は使わなくなってしまったなあ。amazonの囲い込みに、まんまとハマっている証拠ですな。

Vandoren.com
あのリードメーカー、バンドレンの通販サイト。昨今のユーロ高で手を出しづらいが、他では手に入らないCDを大量に扱っている。また、送料が比較的安い。楽譜も売っており、まとめ買いすることが多い。

・プレイヤーや団体のサイト
海外のプレイヤーは、自身のウェブサイト上でCDを直販していることが多々ある。

・それでも見つけられないCD
プレイヤー・団体に直接メールを送ってみる(しょっちゅう送っているので、いい加減慣れてしまった)。運がいいと返信があり、さらに運がいいとCDを送ってくれることも…。有難いことです。

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・渋谷・新宿のタワレコ
渋谷のタワレコ6階は、サックス目当てのバイヤーにとっては聖地。常時100枚以上はクラシックサックスのCDが置いてある。東京に出ると、かならずどちらかには行くのが習慣。最近では、マイスター・ミュージックのCDも扱い始めたらしい。ポイントの制度も変わりましたね。
欠点は、「クラシック・サックス」がマイナーな分野のためか、回転率が非常に悪いこと。

・石丸電気3号館
秋葉原をうろつくのは苦手なのだが、つくばエクスプレスの終着駅周辺ということもあり、時々見に行っている。なぜかラッシャー関連のCD(BIS)の在庫を、大量に抱えている。

・ディスクユニオン御茶ノ水クラシック館
新品・中古は気にしないタチで、時々利用している。トンでもなく貴重なCDが破格で置いてあることが、稀にある。

・楽器屋さん
アクタスとか、ドルチェとか、楽器屋さんでしか買えないCDってありますよね。Amstel Saxophone QuartetのCD「Straight Lines(Erasmus)」や、つい先日紹介したミシャ氏のCDなどは、楽器屋さんで見つけたものだ。

2007/09/05

実感

何個か前の記事に書いたが、7~8月はまるまる2ヶ月間、某社へインターン生としてお世話になっていた。実際の開発フローに放り込まれ(かなり大変だった)、先輩方にお世話になりながらいろいろ勉強させていただいて、社会に出るということをリアルに体感した2ヶ月間だった。

その2ヶ月間、"9時出社・18時退社・残業アリ"なんていう生活をしていたのだが、平日はホントに楽器を吹く時間が取れないのですよ!自宅から原チャで25分の場所だったのだが、一日終わるともうクタクタ、帰ってご飯食べてお風呂入って音楽聴きながらネット見てブログ更新すると、もう24時。そんな感じの生活が5日間続き、土日はちょっと遅めに起きて研究室と楽器の練習、という感じだった。

こういう生活の中で、社会人でありながらアマチュアで楽器を続けている方は凄いなあと実感したのだ。レッスンを受けたり、アンサンブルを結成したり、演奏会を企画したり…いやはや、本当に好きでなきゃやってられないよなあ。

自分は…果たして社会人になっても、ずっと楽器を吹き続けていられるのだろうか。

Graham Fitkin「Hard Fairy」 on YouTube

グラハム・フィトキン Graham Fitkinの「ハードな妖精 Hard Fairy」は、2台ピアノとソプラノ・サクソフォンのための曲。YouTubeに演奏動画がアップされていた。イギリス発の一連のサクソフォンのための楽曲の中でも、私がもっとも気に入っている作品の一つだ。

演奏は、Timothy Sun氏(中国の方?)。確かこの方、ウィル・グレゴリーの「Interference」の演奏もYouTubeにアップしていたはず…サイモン・ハラーム Simon Haramによる一連の録音から影響を受けていると見た!ハラーム氏の演奏と比べてしまうとさすがに技術的に苦しいが(ハラーム氏が巧すぎという話も…)、曲が持つ躍動感はしっかりと感じ取れる。

・前半


・後半

2007/09/04

Jean-Denis MichatのCD

ジャン=ドニ・ミシャ Jean-Denis Michat氏は、フランスのサクソフォン奏者。フランス国立リヨン音楽院でセルジュ・ビション氏に師事し、その後1990年より1999年にかけてパリ国立高等音楽院に籍を置き、サクソフォン、作曲、音楽史、アナリーゼを学び、それぞれ一等賞を得た。サクソフォン科卒業後よりドゥラングル教授のアシスタントとして活動し、現在は母校であるリヨン音楽院のサクソフォン科教授職にある。

私自身は実演に触れたことはなく、わずかに手に入れられるのみの自主制作CDを楽しむしかないのだが、それら録音からミシャ氏の演奏の凄さをしっかりと感じ取ることができる。

氏の演奏を一言で表すならば、"精緻"。類まれな才能を持つサクソフォニストというだけではなく、作曲家として、また理論家としてのバックボーンがあるミシャ氏のこと、楽曲の分析能力に関しては、他の奏者と一線を画しているのだろう。高速なフレーズをセンスに任せて快速に吹き飛ばしてしまうという、フランスの伝統的な流儀とは正反対。どんな小さなフレーズ一つとっても、テンポ・ダイナミクス・非和声音の吹き方等々を解析した上で、サクソフォンでじっくりと奏でていく…という印象を受ける。

音色も実に美しく、ドゥラングル教授門下の奏者の中でも特に細身で澄み切ったサウンドは、まるで精巧なガラス細工を目前にするかのようだ。使用楽器はなんとヤナギサワのA9930とのことで、その辺も関係しているのだろうか。

入手可能なミシャ氏のCDは2つ。日本では(K氏に聞いたところによると)確かそれぞれ200枚ほど流通している(いた)はず…。

タイトルは「Mendelssohn-Grieg(JDM001)」。ピアノのシルヴェヌ・ネリー=マリオン女史との共演盤で、メンデルスゾーンの「無言歌集」と、グリーグ「叙情小曲集」を、アルト/ソプラノサクソフォンで吹いてしまったというアルバム。

ヴィブラートも控えめで、派手さはまったく感じられないが、聴けば聴くほどにじわじわと歌心が伝わってきて感動的。私も買った当初は余り聴いていなかったのだが、ある日突然に魅了されてしまうディスク。ふとした瞬間のクレシェンドごときが、いちいち心に響くのだ。

Bach, Mozart, Schubert(JDM002)」。上記アルバムと同じく、ネリー=マリオン女史のピアノとの共演。こちらのCDには、なんとあのシューベルト「アルペジョーネ・ソナタ」が入曲。録音が2002年4月とのことだから、雲井氏の「Saxophone meets Schubert(Alquimista Records)」よりも早いことになる(アルペジョーネをサックスで吹く、というアイデアそのもの的にはどちらが早かったのだろうか…それとも、もしかしてもっと昔から一般的だったのか?)。

全体のプログラムは、バッハ「無伴奏フルートのためのパルティータBMV1013」、C.P.E.バッハ「ソナタト短調BMV1020」、モーツァルト「弦楽四重奏曲ヘ長調K.421」、シューベルト「アルペジョーネ・ソナタ」。弦楽四重奏の作品をサックス+ピアノでやってしまうというアイデアには、まことに恐れ入るばかり。また、冒頭に置かれた無伴奏作品の、なんと説得力のあることか!これはやはり、アナリーゼの深さによるところが大きいのだろう。

「アルペジョーネ・ソナタ」は、雲井氏や栃尾氏の録音と聴き比べてみると、ずいぶんと違いが感じられて面白い。音色の変化が小さいぶん、全体を通してみるとやはり派手さは控えめかな。だが、突然出現する第3楽章中間部の超速っぷりには、あまりの巧さに唖然とする他なし。

また、公式ページの情報によると「Cantos de Espana(JDM003)」というCDが、現在レコーディングが終了してリリースに向けて準備中とのこと。アルベニス、グラナドス、デ=ファリャ等の筆による作品が収録されているそうで、発売を楽しみに待ちたい(発売されても、入手する手段が無いなんて事にならなければ良いが…)。ミシャ氏の公式サイトでは、さっそく一部試聴も可能だ。

C.P.E.バッハ「無伴奏フルート・ソナタ」移調完了

依頼を受けていた、カール=フィリップ=エマニュエル・バッハ Carl Philipp Emanuel Bach「無伴奏フルート・ソナタ イ短調 Sonata a-moll Wq132」の、Bbサクソフォーンへの移調が完了した。疲れた…。依頼者からフラウト・トラヴェルソ譜を借りたほか、解釈の違いを恐れたため、IMSLP上の楽譜も参照しつつ作業を進めた。

パブリック・ドメインの楽譜であるため、kuri_saxoにて全楽章のPDFファイルを公開中。トップページからたどれます。音ミスなどありましたら、ご指摘ください。演奏に使っていただいても良いです(笑)。

楽譜を書きながら、無伴奏の作品の中でも小さくまとまったかわいらしい作品だと感じた。大バッハの無伴奏作品ような、「一本の楽器から立ち上がる宇宙」という取っ付きづらさはなく、まるで人の手による精巧な工芸品のような…まさに、磨き抜かれた小品。エマニュエルの、他の作品にも興味がわいてきた。

ソプラノ・サクソフォンで演奏すると、跳躍やタンギング等の困難が伴い、一気に難易度が上がる。しかし、良い響きのあるところで演奏したら、きっとフルートでの演奏にはない魅力が発現するだろうなー。

実際のサクソフォンによる演奏例は…と、手持ちのCDを漁ってみたが、平野公崇氏のアルバム「Sinfonia(Cryston OVCC-00034)」しか見つからなかった。大バッハのBMV1020やBMV1013は、松雪先生、ミシャ氏などの演奏があったのだが。

2007/09/03

Sax 4th Avenue on ウェブラジオ

本日より2学期が始まり、ただいまお昼休み中。実は7~8月の2ヶ月間は、某社にインターンに行っており、社会人よろしく9:00出勤・18:00退社・残業アリ、なんてことをやっていたのだ。そのためか、大学生のルーズな時間感覚に違和感を覚える。まあ、また2ヶ月も経てば再び完全に感化されてしまうのだろうが。

Sax 4th Avenueの演奏を聴くことができるサイトを発見した。オハイオ州のFM91のアーカイブのようだ。プログラムは、バッハの小品と、サンジュレ、ジャンジャン、リヴィエ、グラス(いずれも抜粋)。少々音質が悪いのがアレだが、聴くに堪えないほどではない。

http://www.wgte.org/fmlive/sax4thave.asp

収録は2003年9月とのことだが、この時期まで活動していたとは知らなかったなあ。さすがにCDで聴くことができる演奏よりも、若干アンサンブル力は劣っているような気がするけれど、ジャンジャンの軽妙な演奏に、思わず顔がほころんでしまった。リヴィエの「グラーヴェとプレスト」なんて、CDとほとんど解釈が変わっていませんなあ(まさか同一テイクか!?)。

ふと気付いたのだが、Jean-Baptiste Singeleeに、Faustin JeanJeanに、Jean Rivierなのですな。どうでも良いけど。

「しゃべり」の部分も入っており、結成のきっかけや、キング・クリムゾンやELPのアレンジメントについて、アルトのシャノン・フォード女史が言及しているのを聞き取ることができる。

2007/09/02

Adolphesax.comの記事

Adolphesax.comは、スペイン語圏を中心に展開するクラシック・サクソフォンに関するポータルサイト。サックスに関する情報を、これでもかとばかりに集約しているサイトで、私も頻繁に利用している。

さて、ページ左から辿れるメニューの中には、"Articulos"という項目があるのだが、これは中身はサクソフォンに関する記事みたいなものなのだ。Adolphesax.comの運営者の手による記事が多いのだが、著名なサックス吹きによる文も含まれており、中には時々とんでもなく面白い記事がアップされることがある。クロード・ドゥラングル教授「ソプラノ~テナーのためのフラジオ運指表・微分音運指表」、マリー・ベルデナッド=シャリエ「循環呼吸の練習」…等々。

最近追加された記事の中には、アルノ・ボーンカンプ氏によるヴィラ=ロボス「ファンタジア」に関する解説なんてものまで(→こちら)。簡単なヴィラ=ロボスのバイオグラフィと、委嘱したミュールがなぜ初演しなかったかというミステリー、改訂のアイデア(出版されている楽譜には、相当量のミスや変更すべき音が存在するとの由)など。

また、合わせて最近更新された記事の中で注目すべきは、クロード・ドゥラングル教授によるクレストン「ソナタ」に関する解説(→こちら)。クレストンのバイオグラフィ、そして詳細な演奏上のポイントや、作品の分析など。

こういった、プロサクソフォン奏者が書いたサクソフォンに関するまとまった記事で、Web上で自由に閲覧できるものってなかなかないであろうから、貴重だ。ちなみに、このサイトは全文スペイン語であるので、私はGoogleのサービスを使用して、英語に直して読んでいる。

Riley x ArteQ「Assassin Reverie」

新宿タワレコの現代音楽コーナーをうろうろしていたときに、たまたま発見したCD。テリー・ライリー Terry Rileyとアルテ・クヮルテット Arte Quartettの共演盤「Assassin Reverie(New World Records 80558-2)」。掘り出し物!と喜んだところまでは良かったが、ずいぶん有名なCDであるそうで、実はamazonでも簡単に安く買うことができるようだ。

テリー・ライリーと言えば、いわゆるミニマル・ミュージックというジャンルのパイオニアの一人であり代表作「In C」を含む数多くの作品は、世界中で演奏されている。私自身がライリーを知ったきっかけは、一連の「フェイズ」シリーズ…「ピアノ・フェイズ」「ヴァイオリン・フェイズ」「リード・フェイズ」を通じてのことだった。単純な素材から、今まで聴いたことのない響きを創造する手法の見事さに、一時期ハマったものだ。

そのライリーが、アルテ・クヮルテットの委嘱により作曲した作品をいくつか集めたもの。収録曲目は以下の通り。

・アンクル・ジャード Uncle Jard
・暗殺者の幻想 Assassin Reverie
・トレッド・オン・ザ・トレイル Tread on the Trail

「アンクル・ジャード」は、サックス四重奏に加え、ライリー自身の演奏によるハープシコードやピアノ、そしてヴォーカルを交えた作品。響いてくるのは、「普通の」クラシックとは一線を画した音。使用されているモードは、インド音楽に影響を受けたものであり、さらにおそらく即興パートをかなり含むであろう進行は、ジャズとして捉えることもできよう。サクソフォンという西洋の器楽アンサンブルに、ライリーの祈祷のようなヴォーカルが上乗せされる第1楽章冒頭には、はっきりとアルバム全体のコンセプトが現れているよう。

「暗殺者の夢」は、四重奏とテープのための作品。サックスのみによるサウンドは冒頭を最後に出現し、テープとフリージャズ風ソロが絡む中間部を挟む形となる。中間部に配置されたテープサウンドは、印象が強すぎる…この世の悲劇をすべて音に変換して、ミキシングしたらこんな感じなのかな。

「トレッド・オン・ザ・トレイル」は、すでにサクソフォンのためのレパートリーとしてはスタンダード化している作品であるとも言えるだろう。多重録音による、12トラック・バージョンで、平野公崇氏の「Millennium」や、デルタ四重奏団の「Minimal Tendencies」に収録された4本バージョンに比べ、実に豪勢なサウンドとなっている。

演奏を行うアルテ・クヮルテットは、1993年の結成以来、同時代の作曲家に対して作品の委嘱・初演を積極的に行っている団体。この手の初演曲は得意と見えて、予定調和な部分に落ち着かずに自己主張を伴う音も感じられて、大変楽しめた。

また、このCDを聴きながら、サクソフォンという楽器の、クラシックから外れたところにある個性の大きさを改めて感じた。本来は木管楽器と金管楽器のサウンドを融合するために作成された楽器が、進化の過程で獲得してきた能力(すなわち大音量・操作性)。これは、楽器自身が知らず知らずのうちに「民族音楽」「バロック音楽」「ジャズ」「現代音楽」という音楽ジャンルに適したメディアへと変化してきたことに他ならないのだ。

2007/09/01

ありがとうございました

同時購入者の方が何人か見つかりました。私のくだらない提案に付き合ってくれた皆様方に、感謝いたします。

無事に届けば、御の字(そこが一番重要)。