2007/07/08

Music Tomorrow 2007

白石美雪教授による集中授業「文化論特講I」の一環で、NHK交響楽団の現代音楽コンサート「Music Tomorrow 2007」を聴いてきた。記録と感想を少々。

※「文化論特講I」全体の講義の内容は、こちらにまとめてあります。
http://www.geocities.jp/kuri_saxo/notes/lectures/

・Music Tomorrow 2007
出演:パスカル・ロフェ指揮NHK交響楽団
日時:7/8(日)16:00~
会場:すみだトリフォニーホール
プログラム:
・新実徳英「協奏的交響曲~エラン・ヴィタール(尾高賞受賞作品)」
・ブルーノ・マントヴァーニ「タイム・ストレッチ(ジェズアルドの作品を下敷きに)(日本初演)」
・金子仁美「Nの二乗(自然・数)(N響委嘱作品・世界初演)」
・パスカル・デュサパン「エグゼオ」

これだけまとめて「現代音楽」を聴くのは初めて。相手が相手だけに、昨日の夜はしっかり寝、朝ごはんをきっちり食べ、もちろんお昼ご飯もしっかり食べ、軽くお昼休みをして、万全の体制(テンション)でコンサートに臨んだ。「客席はどのくらい埋まるのかなあ」とか、「オーケストラのテンションはどうなのかなあ」とか、「周り全員眠るんじゃないか」とか、いろいろな心配事があったと言えばあったのだが、結果的には杞憂に終わった。総合的に考えれば、実に面白いコンサートだったのだ。

とりあえず驚いたのが、客席の埋まりっぷり。すみだトリフォニー一階の、おおよそ7割方を埋めると言う盛況。客層も、ご年配の方から若い方まで幅広い感じ。実際に会場に行くまでは、4割くらいしか埋まらないんじゃないか、という心配をしていたのだが。コンサート中も、静音部分では水を打ったように静まり返るほど。Music Tomorrowって、毎回こんな感じなのだろうか。

本日日本デビューの指揮者のパスカル・ロフェ Pascal Rophe氏は、写真で見るよりもずっと若い御方。長身で細身の、まさにフランス人と言った風貌で、カッコ良い。ステージマナーから指揮振りまでも、細かいところは気にせずに全体が一本の線でつながったかのような"ゆるいオーラ"を放つ。かと思えば、肝心なところではこれでもかと言うほどルバートをかけたり、オーケストラをドライブさせる手腕は実に見事で、飽きないものだった。指揮棒はナシ…ブーレーズと一緒に仕事をしていたこととも、関係があるのだろうか。

一曲目、新実氏の作品は、尾高賞の受賞作品なんだそうだ。そもそもN響のMusic Tomorrowシリーズは、尾高賞の受賞作品の演奏+委嘱新作の演奏+コンサート指揮者が選んだ作品の演奏、というコンセプトで行われているのだという。ピアノを中央に据え(独奏は木村かをり女史)、特殊な打楽器を多数加えた編成。三部構成に分かれた曲の流れの詳細や、さらに講義の中で予習を行っていたせいか、まあ普通に聴けた。ピアノパートはずいぶん大人しい書き方で、ピアノが顔を出す部分ははかなりの迫力だったものの、ちょっと物足りない感じ。

マントヴァーニの「タイム・ストレッチ」。ジェズアルドのマドリガル第五巻から、「S'io non miro non moro」の和声構造を抽出、組み立てなおした作品だとか。…この曲、不意に感動してしまった。曲の中間部、ヴィオラとチェロが静かな協和音を奏でる上に、ジャズ風の走句があちこちでソロorユニゾンで駆け回る。和声進行は、まるで天へと昇るような美しさ。妙な取り合わせが、余計に魅力的な響きを引き出していた気がする。個人的には、本作品が今日の白眉。

休憩を挟んで、金子仁美氏の世界初演作品。左右対称に弦楽器を配し、中央にはハープとチェレスタが。その姿は、まるでステージ上に羽を広げる巨大な鳥のよう。金子氏の「方法論的シリーズ」の最新作であるが、フィボナッチ数列だとか、黄金比だとか、そういったことはやはり聴くだけでは全く解からない。結局聴衆は響きに身を委ねるしかないのだが、わりと面白く聴けた。ところどころに出現するパルスのような音形は、何か方法論にのっとった数だけ演奏されていたのかなあ。曲の最終部は本日の最強奏。シートの上でのけぞる。

「エグゼオ」。予習段階では、かなりゲンナリしていたのだが、同じ曲とは思えない熱演だった。予習で聴いた演奏は、あまり良くなかったのですね。フレーズの始まりを少し強く弾かせることで、面白い効果を引き出していた。13分間集中して聴いていたら、いつの間にか今まで感じたことのない感覚へとトリップ。不思議な浮遊感を持つ作品だと思った。

総括して考えると、面白いコンサートだったなあ。ただ、今日聴いたような作品が、果たして本当に「明日の音楽」になりえるのか、と言うと、首をひねらざるを得ない。「現代音楽」は、所詮「現代音楽」という一分野へ踏みとどまることを余儀なくされるのではないか。そんなことを強く感じた。コンサート名は「Music Tomorrow」だが、企画する方も本気で「明日の音楽」になる、などとは考えていないのではないか。

そういえば、帰りがけに、鈴木純明氏らしき方を見かけた(笑)。作曲家界にとっては、サントリーホールの音楽祭に匹敵するような一大イベントなのだろう。

2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

 去年、集中して現代音楽関係の演奏会に
行きました。大学時代のVnの後輩が
このジャンルを得意としているからと
いうのもあります。
 昨年のタケミツメモリアルの演奏会なんて、オペラシティがかなり埋まって
ましたし、現代音楽協会の催し等も結構な
入りでしたよ。

 しかし、授業の一環でトリフォニーに
行けるなんて、羨ましいですね

kuri さんのコメント...

「現代音楽のコンサートは客席が4割」というのは、単純な私の間違った思い込みなのかもしれませんね(笑)。全てのコンサートがそんな感じかと思っていたので、Music Tomorrowの盛況ぶりは意外でした。

そういえば、オペラシティの武満作品演奏会は、大変な名演が生まれたと、講義担当の白石美雪講師がおっしゃっていました。ほとんど手放しでほめていたほどで、さぞかしよい演奏会だったのでしょうね…それを生で聴けたとは!