2007/07/14

原博巳&ジェローム・ララン&大石将紀ジョイントコンサート

次第に強くなりつつある雨脚のなか、渋谷のセルマー・ジャパン(アクタス)まで足を運んで聴いてきた(フランスでは雨が降ると極端に客足が遠のくらしい…ホント?)。この三者が一堂に会したときに、どのような音楽が飛び出すのかは、まさに聴いてみなければ解からない、という感じだったのだが、これが面白いの何の!

言わずと知れた、世界の最先端を走り続けるトップ・プレーヤーたちの共演。日本を拠点とした活動を展開しながら、世界的にも認知されている原氏、フランスの現代サクソフォーンに精通したララン氏、藝大卒業後、六年間もの間フランスで音楽を学んだ大石氏と、それぞれに全く違ったプロフィールを持つ奏者たち。ソロ+ピアノで一曲ずつと、デュオを二曲、トリオを一曲、そしてアンコールでは、トリオ+ピアノという編成。ピアノは原さんとの共演でもおなじみの、原田恭子さん。

・ジャン=マリー・ルクレール「デュオ・ソナタト長調」(ララン氏&大石氏)
・ピート・スウェルツ「ウズメの踊り」(原氏&原田氏)
・アルフレッド・デザンクロ「前奏曲、カデンツァと終曲」(ララン氏&原田氏)
・パウル・ヒンデミット「コンチェルトシュトゥック」(原氏&ララン氏)
・アンドレ・カプレ「伝説」(大石氏&原田氏)
・バッハ「ヴィオラ・ダ・ガンバのためのソナタ第2番」(トリオ)
・アンコール:小森俊明「我々は歩んでいる(委嘱初演)」

フランス仕込みのスタイルだからどうだとか、日本で学んできたからどうだとか、そういうことまではあまり頭をめぐらせる暇もなかった。スタイルは三者三様で、しかも例えば、日本人ではあるがパリで長く学んだ大石さん<->ラランさんの音楽的距離感に比較して、日本で活動する原さん<->ラランさんの距離感をふと汲み取ろうとしたときに、前者のほうが近い、後者のほうが遠い、というような単純な分け方はできないようだ。その点、実際聴くまで想像していたのと違って興味深い。

まあとにかく、アンナホールというごく狭い空間の中で太い音楽の流れに飲み込まれた2時間(休憩含む)。お客さんもいっぱいで、良い演奏会だった。

原さんのウズメは、際限のないテクニックの中に、ストーリー性を感じることができた。洞窟の前で舞うアマノウズメの性格や表情を驚くほどに表現している至難な作品を、スラスラとこなしていた。ラランさんのデザンクロは(ドゥラングル教授のお弟子さんとは思えないほど)濃厚な歌い上げに、超速のテンポ。今まで聴いた同曲の演奏の中でも、かなり上位に位置するものだと感じた。大石さんのカプレは、ヴィブラートを控えめにしながら、徐々に空気を変えていくさまが見事。全体が一本の糸でつながったような、こんな構成感のあるカプレは初めて聴いた。

ソロも良かったのだが、やはり本日の聴きモノはデュオ、そしてトリオだ。1+1が3にも4にもなるような、激しい個性のぶつかり合い、そして絶妙な呼吸の連動。一曲目のルクレールから、スケールの大きな音楽にノックアウトされたのだった。ヒンデミット(ラッシャーとカリーナのエピソードも興味深し)は、すでに何度もデュオをこなしている原さんとラランさんだけあって、慣れたもの。丁々発止のやりとりの最中には、本当に音が2つ以上聴こえたかのような部分も。

トリオのバッハは、ラランさんソプラノ、原さんテナー、大石さんバリトン。ソロやデュオよりも、落ち着いた響きになるのが面白い。ラランさんは循環呼吸を使いながら、あの長いフレーズを一息でこなしてしまうのですよ!美しい。さらに圧巻はアンコール!委嘱曲とのことだが、ピアノも交えた総出演での演奏で、今日一番のノリっぷり(おそらく、ラランさんと大石さんは特に。即興科の血が騒ぐのかしらん笑)。客席が大いに沸いた。

しかしまあ、3人の奏者に対して、アンナホールは小さすぎたようだ。それはもちろん音量のこともあるのだが、それ以外にも、音楽の流れの大きさ、それぞれが放つオーラ、デュオやトリオワークにおいて奏者の間に散る火花(1+1が、3にも4にも!)、など。狭い会場内に音楽が飽和して、外に向かってはちきれそうだった。もう少し大きなホールで聴いてみたかったなあ。

終演後は、原さん、ラランさん、大石さんにそれぞれ簡単にご挨拶。あるきっかけで、ネットを通じた、ちょこちょことしたやり取りがあるのです。あ、それからmckenさんと、会場で思いがけずご一緒しました。

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(こぼれネタその1)

2階のアクタスにて、Jean-Luc Falchampsの「Decalcomanie de Reich et Ligeti ライヒとリゲティの鏡絵」の楽譜が驚きの105円(!)で売っていたので、思わず購入(吹きませんよ)。この曲、なんと2006年のアドルフ・サックス国際コンクールの2次予選課題曲。コンクール開催当時、2次予選の中継を聴きながら、「カッコイイ!」と思っていたのだ。

タイトルから想像できるとおり、ライヒ的ミニマリズム・パートと、リゲティ的トーンクラスター・パートに分かれた、とっても面白い作品。たしか原さんが、去年の暮れか今年の頭にアンナホールで演奏を行っていたと記憶する。

(こぼれネタその2)

東京の某図書館?にて、「Saxophone Soloists and Their Music, 1844 - 1985」なる書籍を借りた。世界各地のサクソフォーン奏者のプロフィールと、献呈作品、レコーディングについての詳細な解説本。載っているデータがものすごく面白い…。そのうち、ブログのネタにでもしようと思う。

ちょっと読んでみると、スティーヴン・コットレルの「History of the Saxophone」は、この本の単なる焼き直しにも見えてくる(^^;1985年のデータで停止しているのが、たまに傷。改訂版出ていないのかな。

2 件のコメント:

mcken さんのコメント...

どうもお疲れ様でした。本当に楽しくエキサイティングなコンサートでしたね。
Gee氏の Saxophone Soloists and Their Music、何度か購入を試みてるのですが、なぜか手元まで届いたためしがありません。拝見したい。。

kuri さんのコメント...

「Saxophone Soloists...」は、最近はamazonに中古が売り出されているようです。

私が昨日この本を借りてきた「某図書館」については、先ほどメールしておきましたので、ご覧くださいませ(^^

内容があまりに濃いので、この際買ってしまおうかとも考えています。