2007/06/28

齋藤貴志「絶望の天使」

(以前別の場所にて掲載したCDレビューを、改訂・転載した記事です)

フランス・ボルドー音楽院にてジャン=マリー・ロンデックス Jean Marie Londeixに学んだ齋藤貴志氏が、同時代の邦人作曲家たちのサクソフォン作品に真っ向から取り組んで見せた強烈なアルバム。収録内容は以下のとおり。

・鈴木治行 - 句読点III for Sax Solo
・大村久美子 - イマージュの錯綜 for Sax & Computer
・後藤英 - タン・トレッセIII for Sax & Computer
・伊藤弘之 - 絶望の天使II for Sax Solo
・田中吉史 - Eco Iontanissima III for Sax Solo

収録されている作品は、サクソフォンの機能を(ほとんど限界まで)引き出す超絶技巧の嵐を要求されるような曲ばかりで、ともするとそういった側面ばかりに気を取られがち。しかし例えば、「イマージュの錯綜」で繰り返される微分音を切り抜けた先に、突如として邦楽音階が聴こえるなど、どこか日本人ならではの美意識が根付いているようで、不思議と共感を覚える。

3曲収められた無伴奏の作品では、まるで尺八を繰っているかのような飄々とした雰囲気が印象に残る。また、無音の空間を埋めるセンスに、齋藤氏の、技術だけではない、曲に対する親しみを感じ取ることができる。「日本人が日本人の曲を演奏して日本人が聴く」って、考えてみれば昔からあったごく自然な音楽の在り方の一つだよなあ。ま、楽器はヨーロッパ産だが。

収録タイトルの中には"computer"とのアンサンブル作品も含まれているが、サクソフォンと共演するコンピューターは、自在な音色のパレットを生かして曲の持つ表情を効果的に引き出していると感じる。特にIRCAM(イルカム)で研鑽を積んだ大村久美子氏の、MAX/MSPシステムが生み出す音世界は、一聴の価値あり。

かなり聴き手を限定するが、全体を通して作品の底抜けた面白さ、また演奏内容は驚異的なレベルだ。現代のサクソフォンを知りたい方にぜひ一度は聴いてほしいアルバム。

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