2007/04/29

International Music Score Library Project

パブリック・ドメインとなった楽譜を、大量にPDFとして公開しているウェブページを発見した。その名も、「International Music Score Library」。

こういった試みは、代表的なものとしてWerner Ickingや、Sheet Music Archiveなどが今までも存在したが、古今東西の作曲家の作品を、ここまで体系的に網羅してあるウェブサイトは、初めてだ。小編成の室内楽曲、というのは検索すると意外と存在するものだが、大編成のオーケストラ作品のスコアとなると、無料で公開されていることが少ないのが普通だった。ところが、このサイトはパブリック・ドメインとなったフルオーケストラのスコアまでをも、しっかりと所蔵しているのだ。

例えば、ラヴェルの「ピアノ協奏曲」のフルスコアなんて、「インターネット上で無料で」という条件でなんて、めったにお目にかかれないではないか?ドビュッシーの「海」、シェーンベルク「月に憑かれたピエロ」、ストラヴィンスキー「春の祭典」、ビゼー「アルルの女」…等々、なかなか興味深いものがたくさん並んでいる。

このサイト、いろんな曲を聴いているときに「ちょっと楽譜を見てみたいなー」と思ったときに、とっても役立つと思う。たとえば"のだめ"を観ながら、ラフマニノフの「ピアノ協奏曲第2番」のフルスコアを、ちょっと眺めてみるとか(笑)。ガーシュウィンの「ラプソディ・イン・ブルー」のピアノスコアや、ベートーヴェンの「交響曲第7番」のスコアを眺めてみるとか。

著作権に関しては、有難いことに、作曲者死亡年より50年経過・出版年より50年経過の両条件を満たしたものばかりなので、日本にいる限りは、ほとんどのスコアのダウンロードが全く問題なし。なかなか面白いので、ぜひ覗いてみていただきたい。

2007/04/28

出鼻

秋に予定しているサックスアンサンブルコンサートのための、アルスホール予約失敗。うーん、出鼻をおもいっきりくじかれた感じだ。まあ、しょうがないと言えばしょうがないのだが:ノバホールではないが、市の行事であらかじめ押さえられているなんて事、あるんだな。勉強にはなった。

しかし想定外の出来事に、軽いショックを受けた。どのくらいかと言うと、東京行きの高速バスに乗っている最中にその連絡を受けて、JRの都区内フリー切符を持っているにも関わらず、うっかり地下鉄につい乗ってしまうくらい(ホントに今日やってしまった)。

コンサートのほうは、別の期日でアルス、またはカピオホールでの開催も視野に入れて、ここで仕切り直し。カピオホールの場合は、期日の問題に加えて、予算のやりくり+宣伝の問題も発生してくるので、ここは一つ慎重に(かつ、大胆に)。

メンバーへの打診は、まだまだ不完全だが、プログラムのほう(8重奏 or ラージ)は、いくつか候補を見つけ、ぼんやりと構想がまとまりつつある。今日東京へ出たときに、スコアを入手してきた。連休中の暇な時間を使って、編曲の大まかなスケッチを完成させよう。

何かをやるときは、とりあえず動いてみなければ、何にもはじまらないのだ。自分のフットワークの重さもあって、なかなか慣れないことなのだが、頑張ろうっと。

深石宗太郎先生のウェブサイト

(2015/3/28に記事を加筆・修正)

在籍していた大学の吹奏楽団で、ユーフォニアム奏者の深石宗太郎先生には、ひょんなことから何度かお世話になった。私はサックスパートだったし、ユーフォニアムの人たちに比べれば直接お話しする機会は少なかったのだが、いつぞやの合宿@新潟で先生を囲むユーフォコンパにお邪魔して話し込んだことが、ずいぶんと印象に残っている。パートの人そっちのけで1時間近く話し込んでしまい(悪い癖…)、コンパ後に後輩に呆れられたのも、もう昔の話だ。

以前、サクソフォン四重奏のレッスンをしていただいた時のことを思い出す。ひと通りデザンクロの四重奏曲を聴いていただいたあと、「サックスが専門でないけれど、」との枕詞の後に続いて、とても興味深いコメントをいただいた。また、ユーフォニアムの後輩から聞いた話では、ユーフォとテナーサックスがユニゾンで演奏する課題曲「リベラメンテ」のソリを解釈を教えてください、と頼んだ時は「子供が描く象のように吹きなさい」というアドバイスを頂いたのだとか…これは喩え話のひとつである。(後日深石先生から直接伺うことができたのだが)、象の鼻を幼稚園生が作るとまだ皆で協力することが出来ないので、一つの胴体にたくさん鼻が生えた象の粘土細工が出来上がる、そこに引っ掛けて、皆さんの演奏がとても協力的、協調性がありすぎる、つまり「一人一人の対比や対立、アピール」という要素がもっと欲しい、ということを伝えるための言葉だったそうだ。

表面上は謙虚ながらも、音楽に対する深い洞察力を持ち、喩え話も面白く、一筋縄ではいかない思考の回転の速さを持つ方だ、と感じる(深石先生に限らず音楽を専門とする方々って、物凄く明晰な思考を持っている方が多いのだが)。2015年、ひょんなことから久々にお話することができたのだが、短い時間ながら、またお話出来てとても感動してしまったのだった。

さて、深石先生、お話するのも面白いが、書く文章も実に含蓄があって面白い。しかも、幸いなことにウェブサイトを公開しておられる。
http://sound.jp/sotaeuph/index.html

大長編「ユーフォニアムについて」は、ユーフォニアムという楽器に関する一大資料だ。ウェブ上に、ここまでこの楽器についてしっかりまとまった資料って他になさそう。ぜひ一読いただくことをおすすめする。

2007/04/26

イギリスのサックスについての雑記

(昨日4/25の映像記事に関連して)

ジョン・ハール John Harle氏の演奏を初めて聴いたとき、今まで耳にしたことのない、特徴あるパフォーマンスに、ハンマーで殴られたような衝撃を受けた。「楽器そのものの音」とも形容すべき生々しくエモーショナルな音色、後ろを膨らませるような特徴的な長音、良く良く聴けば意外と適当な音程、どこまで続くんだと思わせるような息の長いフレーズ…それまで、フランスのや日本のサックスにしか触れたことのなかった私にとって、ジョン・ハールの演奏の第一印象は、一種カルチャーショックのような体験だったことは、今でも鮮明に思い出せるほど。

ハールはジャズ・サクソフォニストとしてキャリアを開始したということで、その辺りの経歴と、演奏のタイプが密に絡んでいることは、おそらく間違いがない。しかし、海外のサクソフォンの標準形に目もくれず、こういった「イギリス風サウンド」を「クラシックのサクソフォン」として、1980年から始まって10年足らずで国内に定着させてしまったことは、驚くべきことだ。事実、彼以降のイギリスのサックス吹きは、ほぼ全員が同じ傾向のサウンドを持っている。

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このイギリスの独自のスタイルは、さすがに世界標準とまでは成り得なかった。1980年当時、とっくに世界を席巻していたフランス・アカデミズムの潮流のうねりは強く、結果イギリスのサクソフォンは大変内向的な流行り方をすることになる。演奏者と作曲者の密なコラボレーション…イギリス国内の作曲家への積極的な新作の委嘱、ミュール学派からは考えられない独特のレパートリー形成は、イギリスのサクソフォン流行の特徴を、如実に表しているものだ。ハールの一手によって一気にスタイルが確立された後も、外部からの干渉を受けず、イギリスの地でじっくりと醸成されてきたのだ。

「本場」フランスへの留学など行わず、ベルギーやフランスで行われる国際コンクールにも見向きもせず…そんなことを繰り返しながら、イギリスのサクソフォンが花開いてから、既に30年が経過しようとしている。ジョン・ハールから始まったイギリスのサクソフォーン界は、根底にハールのスピリットを残しつつ、今や百花繚乱の様相を呈している。

2007/04/25

John Harle on Google Video

明日は晴れるらしい。やっほい。

さて、今回のネタ元は、Google Video。ジョン・ハール John Harle氏とブロドスキー・カルテット Brodsky Quartetのコンサート風景を収めた動画があったので、ブログに貼り付け。

特に、チック・コリア「チルドレンズ・ソング」のアレンジ&演奏が大変かっこよく、個人的には一押し。第4曲での(おそらくかなりの即興を含むであろう)ハールの暴れっぷりは、一見の価値あり。フランセの「四重奏曲」は、イングリッシュホルン+弦楽トリオからの改作とのことだが、この珍しい作品を映像つきで見られるのは嬉しいなあ。

マイケル・ナイマン「Act without words」


チック・コリア「チルドレンズ・ソングより抜粋」


フランセ「サクソフォンと弦楽トリオのための四重奏曲」


ドビュッシー「シランクス」

移行完了

以前HTML直書きで公開していた日記を、ブログに移し変える作業を全て終えた。日記の初公開をたどってみると、2005年1月21日だそうで…もう2年以上も経つのか。

確か、デファイエ四重奏団のあの2枚のLP(リュエフ、ティスネ、パスカル&小品集)を聴かせてもらって、テンションが上がった勢いで、サイト構築&公開したんだっけ。この直後に、アンコンで東関東代表に選ばれたというのも、今となっては昔の話だ(笑)。たまに昔の日記を読み返すと面白い。

2007/04/24

eBayにミュール四重奏団のLPが…

eBayに、マルセル・ミュール四重奏団のLPが出品中(→こちら)。ピエルネ、デザンクロ、アブシル、リヴィエ入曲。1964年に発売され、今となっては大変貴重なLPの一つ。

このレコード、以前入手したものの、なんとErato原盤だ。私がそのとき入手したのは、Musical Heritage Societyから出版されたアメリカ国内版。また、日本ではコロムビアが扱っていたらしい。これら2枚は今までに何回か見かけたこともあったが、Erato盤は、正直なところ初めて見た。

あーあ、Eratoが復刻してくれればいいのに。母数自体が小さいとはいえ、明らかに需要と供給のバランスが成り立っていないぞ。

2007/04/23

ELP「Tarkus」

Emerson, Lake & Palmerが1971年に発表したアルバム「Tarkus」のA面に収録された組曲「Tarkus」は、1970年代のロック史上に燦然と輝く、大傑作のひとつである。いわゆるプログレッシブ・ロックというジャンルの楽曲の中でも、私が最も頻繁に聴く曲だ。

架空の生物兵器"タルカス(写真参照)"が、噴火する火山から現れ、地上において破壊の限りを尽くし、"マンティコア"に目を突かれてすごすごと海に向かって退散するまでを描写した、20分を超える壮大な組曲。楽曲の3/4を占めるインストゥルメンタル・パート、モーグ・シンセサイザーの音色を駆使した極彩色の音色世界、次から次へと変わる拍子、グレッグ・レイクの歌など、実に多くの要素が詰め込まれており、これ一曲でプログレッシブ・ロックの全ての要素を堪能できると言っても過言ではない。

曲は、以下の7つのパートからなり、続けて演奏される。

1. 噴火 Eruption
2. ストーンズ・オブ・イヤーズ Stones of Years
3. アイコノクラスト Iconoclast
4. ミサ聖祭 Mass
5. マンティコア Manticore
6. 戦場 Battlefield
7. アクアタルカス Aquatarkus

遠鳴りするシンセサイザーの和音が徐々に重なり、次の瞬間、5/4拍子の「Eruption」に突入。まるで火砕流のように疾走するビート、シンセサイザーの音色。この導入部で一気に引き込むような曲の作りがニクい。火山繋がりで「チェンバー・シンフォニー」の第4楽章プレストを思い出させる。続く「Stones of Years」では、打って変わってレイクの歌声によりクールダウン。…こんな感じで曲は進み、冒頭を越える激しさが見られるところから、ちょっとイッてしまっているようなファミコンサウンドのような部分まで、目まぐるしく展開していく。

そういえば、某友達が、この曲を聴いて「(RPGゲームでの)ボス戦のBGMみたい」と言っていたが、…確かに冒頭の「Eruption」はそう聴こえなくもない(^^; 実際、今聴いても古臭さは全く感じられず、むしろ音作りの発想の素晴らしさに驚いてしまうほど。このころ、シンセサイザーを使用した音楽は既に究極の域に到達していたのだなあ。

この起伏、そして多様な音世界は、いくぶんクラシックに通じるところもあり、何度聴いても飽きないのだよなあ。クラシック好きで、「ロックなんて…」と思っている方には、ぜひ初めに触れていただきたい作品だ。実際、私のプログレ入門も、この曲からだったし…。

スタジオ録音されたオリジナルバージョンが、リマスタリング盤としてCD発売され、現在ではamazonなどで比較的安く買えるようだ。また、「Welcome Back My Friends To The Show That Never Ends」と長ったらしく題されたライヴ・アルバムの演奏も、スタジオ録音よりさらに引き延ばされたインプロヴィゼーションと演奏の完成度の両立が魅力的。映像作品も多く、特に1997年モントリオール・ジャズフェスティバルでのライヴ映像は、「Tarkus~展覧会の絵」がメドレーとなっている、ファンには涙モノの構成。

変わったところでは、Sax 4th Avenueという団体によるサクソフォーン四重奏版や、黒田亜樹さんによるピアノ・トリオ版(未聴)なんてのも存在する。ちなみにサクソフォーン四重奏版は、楽譜を入手すべく、某所にコンタクトを取っている最中だったりする。

2007/04/22

初合わせ

発表の機会を狙っている、とあるテナーサックスのソロ曲の、「伴奏」との初合わせをした。これがまた随分と楽しくて、ついついテンションが上がって4時間もぶっ続けで吹いてしまった。

実はここ2ヶ月くらい、かなり本気でさらっていたのだが、メトロノームでゆっくりから地道に練習し続けたのが効いたのか。今日は結構苦労するかなー、と思っていたのだが、初めてにしては実にスムーズに合わせることができた。課題は「下向きの跳躍での、音の荒れ」をなんとかすること(指がきちんと分離して動いていないんじゃないか)…って、これは合わせの時にやることではありませんね。

えーと、何の曲かと言いますと、○○○○ ○○!です。分かる人はすぐ分かるでしょう(笑)。

初めて聴いたときは、絶対無理かも…とも思ったものだが、これは意外といけるかもな。演奏効果もなかなか高いし。発表の機会がないかなー、と。とりあえず、今週末はホール押さえにアルスホールへ直行だ。

2007/04/21

フェリペ氏のバーチャル・コンサート

アントニオ・フェリペ=ベリジャル Antonio Felipe Belijar氏といえば、スペイン・サクソフォーン界の若き名手。実に安定したテクニックと美音を持つプレイヤーで、昨年のアドルフ・サックス国際コンクールでも第2位に入賞するなど、国際的に活躍の場を拡げ続けている。おそらく、今後の世界のサックス界を背負う一人となることは、間違いがないであろうサクソフォニストだ。

さて、毎度おなじみAdolphesax.comにて、フェリペ氏のコンサートの様子を収録したライヴ音源がアップされていたので、ご紹介。どこかのコンクールの最終予選での演奏と、フェリペ氏の自主公演?のライヴ音源を、カット無しで!たっぷり聴くことができた。プログラムも、サクソフォーンの重要なレパートリーばかり。

実際のウェブページはこちら(→http://www.adolphesax.com/Html/audios.htm)。フェリペ氏の録音意外にも、いろいろなプレイヤーの抜粋録音が聴ける。以下は、フェリペ氏の録音への直リンク。

グラズノフ - 協奏曲 作品109
デザンクロ - 前奏曲、カデンツと終曲
フェルドハウス - Grab It!

イベール - 室内小協奏曲 第1楽章
イベール - 室内小協奏曲 第2楽章
ベリオ - セクエンツァVIIb
トマジ - 協奏曲 第1楽章
トマジ - 協奏曲 第2楽章
パガニーニ - 常動曲(アンコール?)

グラズノフは、オーケストラをバックに従えた演奏。独奏者、オーケストラともに、かなり状態が良く、今まで聴いたことのあるグラズノフの「協奏曲」のなかでも、かなり上位に位置するものだと感じた。またピアノとのデュオのリサイタルも興味津々。イベールのピアノバック版とか、「Grab It!」のフル・レコーディングとか、なかなか聴けませんぞ。最終部に向けて快速に飛ばしまくるトマジも素晴らしい。アンコールと思われる「常動曲」のスーパーテクニックには、唖然。

携帯用録音機器でのレコーディングなのだろうか、録音状態はイマイチだが、それを補って、大変聴き応えある演奏だと思う。

2007/04/20

CDの整頓

はっきり言って、急務だ。さすがに150枚は超えていないとは思うが、いったいどこにどのCDがあるのか…あ、いや、散らかっているわけではなく、CDは全て2つの大きなケースに整然と放り込んであるのだが、さすがにそろそろトラックを覚えきれなくなってきた、という話だ。××があると思ったら無かったり、△△が無いと思ったらあったり、という状況はザラ。

このうち95%は、クラシックサックスのCD。時間があれば、1週間くらい家に引き篭もって、全CDを作曲者・演奏者のインデックス付で、データベース化したい。

しかし150枚…一枚3000円としたら、45万円ですかい。(あまりこういうことは考えないことにしているのだが)サックス一本買えるじゃん。まあ、お金じゃ買えない貴重なCDもあるということで、ここはひとつ自分をだまして…。

2007/04/19

ラクール「四重奏曲」

ギィ・ラクール Guy Lacour氏は1932年生まれのサクソフォン奏者・作曲家。10歳からサクソフォンを始め、ヴェルサイユ音楽院でマルセル・ジョセに師事、続いてパリ国立高等音楽院でマルセル・ミュールに師事し、1952年に一等賞を得て卒業する。卒業後の活動としては、マルセル・ミュール四重奏団のテナー奏者としての参加が特に有名。その外、独奏者としてカラヤン指揮ベルリン・フィル、バレンボイム指揮パリ管弦楽団、ロストロポーヴィチ指揮フランス国立放送管弦楽団、等の演奏会・レコーディング等に参加。また、教育者として、国内のいくつかの音楽院のサクソフォーン科で教鞭をとっていた。

(あれれ、書き始めたは良いものの、Thunderさんところの記事と、けっこう記事内容がかぶるなあ(^^;

「ラクール」と聞けば、大抵のサックス吹きの方はBillaudotから出版されている「50のエチュード」を思い浮かべるだろう。ラクールがヴェルサイユ音楽院で師事したマルセル・ジョセ Marcel Josseに献呈されたこの曲は、いまや世界中のプロサックス奏者の卵が、各々の師匠から必ずと言って良いほど一番初めに与えられる課題…というほど有名になっている。

そういえば、今まで「50のエチュード」を開くたびに、なんでジョセに献呈されたのかなー、なんて考えていたが、そうか、キャリアの最初の頃に入学したヴェルサイユ音楽院でラクールが師事していた師匠こそが、マルセル・ジョセだったのですね。なるほど、それで分かった。ラクール自身がコンセルヴァトワール時代に師事した、ジョセ先生の教育活動を支援するために、サクソフォン初学者にぴったりな独奏エチュードを書いたということか。もしかしたら、ジョセがラクールに依頼したのかもしれないけれど、ジョセ-ラクールの師弟関係は、この曲の成立を紐解くヒントになるのは間違いなさそうだ。

と、話が逸れた。「四重奏曲(Quatuor)」の話でしたね。1969年に書かれたこの曲、12音技法を踏襲しつつ、ラクール独自の書法(特にその特徴的なリズム!)も織り込みながら、実に魅力的な作品に仕上がっている。ラクール自身は、作曲は独学との事だが、そんじょそこらのサックス四重奏曲を、軽~く鼻の先で吹き飛ばしてしまうくらいの強烈な印象がある。個人的には、シュミットやデザンクロあたりと同列に並べても、遜色ない曲だと思っているほどだ。

曲は、「エレジー」「スケルツォ」「ロンド・フィナーレ」の三つの楽章からなる。「エレジー」は、テナーサクソフォンの独奏から開始され(この主題が、12音を満遍なく使用したもので、おもしろい)、ソプラノ、アルト、バリトンの順番に動機が受け継がれてゆく。一種の激遅フーガともとれる進行で、実に密度の高い音空間が形成されてゆく。4本が濃密に絡まり、盛り上がった後は一瞬クールダウン。続いて各楽器のカデンツァが奏でられ、直後に和音のデクレシェンドでスッと曲が閉じる。

第2楽章「スケルツォ」は3/8拍子。短く鋭角的なフレーズがあちこちに顔を出し、第1楽章と打って変わって快活な表情を見せる。一瞬曲想が変わるトリオは、2分音符の7thディミニッシュコードの伸ばし。すぐに3/8に戻り、前半と同じ調子で進行していく。

第3楽章「ロンド・フィナーレ」は曲全体の雰囲気に割って入るような、ユニゾンの短い序奏から始まり、ジェットコースターのように音符が飛び跳ね回る。第1楽章のメロディも顔を出すが、常に最初のユニゾンの勢いを保ったまま疾走する。そしてトドメの練習番号[X] Brillant!ここから先は、奏者にとってのまさに地獄だ。

良い曲なのに、演奏会やレコーディングで聴く機会がほとんどないのはどうしたことか。やはり難しいからか?一度くらい、生でも聴いてみたいものだが…。どなたかお願いしますm(_ _)mあー、楽譜もあることだし、自分たちで吹いてしまう、という手もあるなあ(ぜったい無理です)。いつかは吹けるようになりたいと思っている曲の一つなのだ。

愛聴盤はダニエル・ゴーティエ Daniel Gauthier率いる、アレクサンドル四重奏団 Quatuor Alexandreのアルバム「Reminiscence(Societe Nouvelle d'Enregistrement SNE-566-CD)」。実はラクールの演奏はこれしか持っていない…のだが、このCDは凄い!演奏曲目はデザンクロ、グラズノフ、ラクール、パイロン。そのどれもが超一級品の演奏なのだ。たまたま、ラクールが入っているCDが、こんなにも素晴らしい演奏を繰り広げているのは、ラッキーだったかも。

ちなみにこのCD、現在では入手至難。万が一ネットなどで見つけた際には、速攻ゲットをオススメします。

2007/04/17

前後を聴いてみる

バーバー「弦楽四重奏曲」、グラズノフ「四重奏曲」、ショスタコーヴィチ「弦楽四重奏曲第七番」が入った、ディアステマ・サクソフォーン四重奏団 Quatuor DiastemaのCD「d'Ouest en Est(AMES AM 3004)」が到着。選曲・演奏ともに大変素晴らしいが、とりあえずCD全体の紹介は後日に回すとして、バーバー「弦楽四重奏曲」を題材に与太話。

バーバー「弦楽四重奏曲作品11」は急-緩-急の3つの楽章からなる作品だが、この作品の第2楽章こそ、あの有名な「弦楽のためのアダージョ」のオリジナルなのだ。「弦楽のためのアダージョ」といえば、20世紀に命を吹き込まれた音楽作品の中で、もっとも美しく、繊細な音楽作品の一つであるとも言われている。そのメロディの美しさから、映画「プラトーン」、ドラマ版「のだめカンタービレ」等の、もっとも感動的な場面に使われるなどしており、きっと今までに耳にされたことのある方も多いのではないだろうか。

ところが。「弦楽のためのアダージョ」は前述のように、サウンドトラックとして大変な人気を得ているにもかかわらず、本家作品のそのほかの楽章はまるでマイナー作品の中のマイナー作品とも言われてしまうような扱いだ。

さて、今回の入手にあたり、サクソフォーン四重奏のバージョンではあるが、初めて「アダージョ」を含む「弦楽四重奏曲」全楽章を通して耳にすることとなった。

第1楽章は約7分。冒頭のモチーフが繰り返し引用されながら、変容を繰り返していく。モチーフの展開はなかなか技巧的で、しかし響きは彼の中~後期作品に見られるほどのアイデンティティを確立していない気がするなあ、などと思いながら、ダラダラと聴く。「アダージョ」で聴いたことのある和音なども聴こえてきて、「やっぱり同じ曲なのねー」と、妙に納得。

…そして、第2楽章に突入。冒頭のソプラノサクソフォンの伸ばし、そして下三声の和音が響いた瞬間、それまで「ながら聴き」をしていた私の手が、ふと止まった。

聴こえてきたのは、今まで聴いたことのない音だった。

「アダージョ」は、弦楽合奏版・サックス四重奏版、どちらにも頻繁に触れており、かといって特に好きな曲、というわけでもない。「美しいなー」と思うことはあっても、心の底から震えることはなかった、のだが…。

テーマの長音、そして3つの上昇音の繰り返しが、脳を掴んで離さない。旋律が、和音が、耳のずっと奥深くに染み入るような感じだ。今まで「アダージョ」単体で聴いたときには、決して聴こえなかったオーラが、そこには感じられた。ついつい、第2楽章が終わるまで放心状態で聴き入り、第3楽章のあっけらかんとした舞曲が始まって、ようやく我に返った。

今のは一体なんだったのだろうと、慌てて第2楽章を始めから再生。しかし、さっきの感覚を感じることはできなかった。ためしに、第1楽章から続けて再生してみると…そう、体全体にメロディが浸透してゆく感じが蘇ったのだ。

詳しく分析したわけではないが、どうやらこの「弦楽四重奏曲」、楽章間に大変有機的な繋がりがあるようだ。それは、音形の借用であったり、和声であったり、第1楽章の終わらせ方(第2楽章の始まり方)であったり…。「アダージョ」聴いたことのある人は、ぜひ全楽章を通して聴いて見ることをオススメいたします。

というわけで、取り出して聴く機会の多い曲を、最初からきちんと連続で聴いてみると、こうまで曲の印象が変わるものなのか、という我が身に起こった体験のお話でした。例えば、ある気に入った曲があったときに、偏って特定の楽章ばかり聴いてちゃダメなのですね。何か曲をさらうときも、きちんと全楽章をさらいきらないと、曲の本質というのは見えてこないのですね。と、オチはずいぶんありきたりなところについてしまったが、身をもって実感できたのは幸いだった。

2007/04/16

雲井Q定演、近し

いつの間にか第六回の詳細が出ていた。知らなかった…。

・雲井雅人サックス四重奏団第6回定期演奏会~マズランカとの邂逅~
出演:雲井雅人、佐藤渉、林田和之、西尾貴浩
2007/5/7(月)19:00開演 東京文化会館小ホール
入場料:4000円
曲目:
フローリオ「アレグロ・ドゥ・コンセール」
グラズノフ「四重奏曲」
バッハ/北方寛丈編「シャコンヌ第三番(委嘱編曲)」
マズランカ「レシテーション・ブック(委嘱新作・日本初演)」

グラズノフ!私も最近コンクールで吹いたばかりだが、あの音色でグラズノフをやると、いったいどんなサウンドがするのだろうか。そしてマズランカの新作も!まだ見ぬ響きに思いを馳せて…うん、これは楽しみにしていよう。現在、雲井雅人サックス四重奏団はアメリカツアーの真っ最中だそうだ。海外にも活躍の場を徐々に拡げている同四重奏団、果たして東京文化会館でどのような演奏の昇華が見られるのだろう。

関係ないけれど、雲井Qの委嘱作品と言えば、アンドリュー・スティラーの「Two Fixed Forms Unfixed」は、どうなったんだろう?出版されて、既に楽譜もここで買えるようだし…。もう雲井Qによって演奏される機会はないのだろうか…。

2007/04/14

プログラム原稿執筆完了

大学で所属していた吹奏楽団の、次回定期演奏会のプログラムノート(曲目解説?)の執筆を仰せ付かっていたのだが、ようやく第一稿が完成した。執筆依頼を受けていた曲目のリストは、以下。

・アダム・ゴーブ「アウェイデー」
・ジョナサン・ニューマン「チャンク」
・ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」
・エリック・ウィッテカー「ゴースト・トレイン」

で、とりあえずのプログラムノート完成品はこちら:
http://www.geocities.jp/kuri_saxo/notes/57.pdf

そもそも人の注目を引く文章を書くことがニガテなので、情報を集めて構成して…で終わってしまったが、それにしてもずいぶん時間がかかってしまった…。たまにこういうことをやると、プロの物書きさんの凄さ、というのがよく分かるなあ。

2007/04/11

他のところで

吹奏楽関係の書き物が忙しいので、しばらく投稿が滞ります。もしかしたら来週の月曜あたりまで。

完成したら公開します。

2007/04/09

入学式

本日は大学院の入学式。朝は晴れていたのだが、式の直後に通り雨が降って、ずぶ濡れになってしまった。

入学式や卒業式は、開始15分前にリヒャルト・ワーグナーの「マイスタージンガー第1幕への前奏曲」がアトラクション?として演奏されるのが通例となっている。また、式の途中に、学生歌「常陸野の」、バッハ「カンタータ第147番」も。演奏は筑波大学管弦楽団と筑波大学混声合唱団。毎年のことだが、あれ、筑波大学吹奏楽団の出番は?うーん、こういう場で吹奏楽はさすがに似合わないと判断されるのかねぇ。

ちなみに演奏は、どうやらメンバーに若い人が多かったらしく、時々調子っ外れな音が出てきたのが可笑しかった。会場の大学会館講堂は、音響も悪い(響かない)ことだし。上手い人は本当に上手いんだけど。たまに、短いソロでよく通る綺麗な音を出している人がいると、「おおっ」と思う。

2007/04/08

筒井裕朗氏のリサイタル録音

石川県で活躍するサクソフォーン奏者、筒井裕朗氏が過去に金沢市で開催したリサイタルの録音を、ご本人から頂戴した。

・ゴトコフスキー「ブリランス」
・ロザンタール「サクソフォーン・マーマレード」
・ブートリー「ディヴェルティメント」
・ウッズ「ソナタ」
・オルブライト「ソナタ」
・シュルホフ「ホットソナタ」
・ロベール「カデンツァ」
・フェルド「ソナタ」
・デニゾフ「ソナタ」
・ロイター「演奏会用小品」
・ハイデン「ソナタ」
・ロヴランド「ユー・レイズ・ミー・アップ」
・ガーシュウィン「ラプソディ・イン・ブルー」

"Live a la carte"ということで、いくつかのリサイタルから抜粋したハイライト盤みたいな感じにして構成していただいたのだが、ずいぶんハードな曲ばかりになってしまった(^^;それにしても、たとえ関東圏でも、なかなか耳にすることのできない貴重なプログラミングだ、というのは、一目瞭然。例えばオルブライト「ソナタ」、ジョン・サンペン John Sampen氏の録音はじめ、アメリカではそこそこ有名な曲かもしれないが、日本ですでに演奏されているとは、知らなかった…。

プログラムも凄いが、演奏も良い。ライヴならではのキズは散見されるが、楽譜をしっかりと音にしながら、要所要所できちんと抑制されたノリを出すあたりはさすが。楽譜に沿って演奏すればつまらなくなってしまうだけの、ゴトコフスキー「ブリランス」やシュルホフ「ホットソナタ」など、かなり聴きもの。シュルホフのコロコロ変わる曲想から、きちんと数々の表情を音として引き出している様子がなんともコミカル。

頂いた録音の中で、特に驚いたのがデニゾフ。既に巷にたくさんのCDが存在する有名曲だが、筒井氏の演奏、ライヴならではのドライヴ感と緊張感が上手く作用した佳演となっている。筒井氏が持つキレのあるパリッとした音色は、特に急速楽章において効果的に響いている気がする。

話は変わるが、一緒に封入されていた曲解説もなかなか気合の入った代物で、びっくりさせられたなあ。「ほー、」とか、「へー、」とか思いながら読んだ。ドイツの知られざる作曲家、そして作品の解説は、特に貴重な資料だ。

今年(2007年)のサクソフォーンフェスティバルは、筒井氏は出演予定との事なので、どんな曲、そして演奏が聴けるのか、今から楽しみ。

2007/04/07

ボレロ on YouTube

カラヤン指揮ベルリンフィルのラヴェル「ボレロ」を発見したので、ブログに貼り付け。音と映像が少しズレているのが残念だが。

いや、何でこんなところに貼り付けたかって、ソプラノサックスがダニエル・デファイエ Daniel Deffayet、テナーサックスがジャック・テリー Jacques Terryなんだもの。前半の最後あたりで聴ける。両者ともさすがの美音とフレーズ感(当たり前)。

映像が新しいだけに、さすがに版権が心配だ…問題あったら消します。

前半


後半

2007/04/06

Frederick Hemke「Music for Tenor Saxophone」

このLP、見つけて注文した直後に復刻されることを知った…間が悪い。ま、良くある事だ。

フレデリック・ヘムケ Frederick HEMKE氏の演奏によるテナーサックス・アルバム「Music for Tenor Saxophone(Brewster Records BR 1204)」が本日到着。今回も売り手が発送を忘れており、到着まで5週間もかかったが、無事で良かった。

ヘムケ氏は独奏者、教育者として名高いアメリカのサクソフォーン奏者。教育者としては、ノースウェスタン大学の教授として数々の名手を輩出しており、日本からも大室勇一氏や雲井雅人氏、佐藤渉氏などが師事している。教育者としての名声に比べて、プレイヤーとしての知名度は意外に低いのだが、それもこれも、残された録音が極端に少ないことに起因していると思われる。

このLPは、「The American Saxophone」とともに、ヘムケ氏のプレイヤーとしての全盛期を捉えた貴重な盤だ。録音は1971年。収録曲は全てテナーサクソフォンのための作品である。新井さんの「Fantasia」に先駆けること30年、こんなテナーサックスアルバムが出ていたとは…。

・James DiPasquale - Sonata
・William Duckworth - A Ballade in Time and Space
・Walter Hartley - Poem for Tenor Saxophone
・M. William Karlins - Music for Tenor Saxophone

それにしても、名前すら聞いたことのない曲ばかりだ…。ハートレーは、サクソフォンのために多く作品を書いていることで知っていたが、その他の作曲者は初耳。どんな音が飛び出してくるものか、ドキドキしながら早速図書館に持ち込んで聴いてみた。

端的に感想を言ってしまえば、面白い曲、そして素晴らしい演奏、ということに尽きる。DiPasqualeはジャズ・ミュージシャンだとのことだが、スリリングな和声を多用したクールな雰囲気が◎、Duckworthの「Ballade」は、キーノイズや重音、フラッター、グロウを多用した密度の高い音空間に惹かれた。「Poem」はいまいち魅力を感じなかったが、Karlinsの「Music...」は、モノローグカデンツァやフラジオのキメが面白い。

そしてヘムケ氏の演奏!高音から低音まで濃密なテナーサクソフォンの音色は、あの輝かしいアルトサックスの音色を思い起こさせる。その音で畳み掛けるような高難易度のフレーズの応酬をこなしていく様子には、ため息すらついてしまうほど。長い間にわたって、廃盤になっていたのがもったいないほどだ。

ちなみに、この不思議なジャケットは「The Leap(跳躍)」なるタイトルの抽象画だということだが、なんとヘムケ氏自身の手により描かれたものだとのこと。なんとなく、収録曲の雰囲気にマッチしているようなジャケットではある。しかし、サックスの名人である上に、こんな趣味までお持ちとは…いやはや。

一つだけ文句があるとすれば、収録時間か。全収録時間が27分というのは、いくらLPと言えど短すぎないか?他のテナー作品も聴いてみたかった。

ごく最近、「The American Saxophonist」というタイトルで復刻されたので、興味がある方はどうぞ。というか、この復刻CDなんとかして手に入れたいのだが、いまだ入手できずにいるのがもどかしい。入手された方はぜひ教えてくださいませ。

JacobTV発売情報

昨日の記事を書く際に、ヤコブ=テル・フェルドハウス Jacob ter VELDHUIS氏のページに行って調べ物をいくつかしていたのだが、そこで見つけた情報。

なんと、2007年の5月にフェルドハウス氏のCD+DVD作品集「JacobTV」ボックスシリーズが出るそうだ(→こちらのページから辿れる)!しかもその規模たるや、3セット同時発売だというから驚き。「Rainbow」「Shining City」「Suites of Lux」と題されたそれぞれのボックスの中身を簡単に見てみよう。

「Rainbow」はCD2枚組+DVD。オラトリオ「Paradiso」をメインに、いままで録音が存在しなかったサクソフォーンのための協奏曲「Tallahatchie Concerto」、ほか打楽器のための「Goldrush Concerto」、チェロのための「Rainbow Concerto」など。DVDは、作曲家フェルドハウスを追ったドキュメンタリー。

「Shining City」もCD2枚組+DVD。主に管楽器とゲットブラスターのための作品集。ビッグバンドとテープのための「Heartbreakers」の再録、ロックバンド編成?での「Grab It!」、オーボエ演奏での「The Garden of Love」、サックスでの「Tatatatata」「Jesus is Coming」「Buku」「Billie」など。DVDは、これらの演奏風景だそうで。

「Suites of Lux」は、弦楽器とゲットブラスターのための作品集。CD2枚のみ、DVDはなし。アコースティックのみの作品や、エレキヴァイオリン+テープの作品など、いろいろ。

上のリンクからたっぷり試聴できるので、興味ある方はどうぞ。

サックス的興味からすれば、サクソフォーン関連の演奏にアウレリア四重奏団 Aurelia SQやアルノ・ボーンカンプ Arno BORNKAMP氏が参加していることが目玉だ。「Rainbow」ボックスに収録された「Tallahatchie Concerto」や「Paradiso」聴いてみたいし、「Shining City」ボックスは面白そうな録音ばかりだし…「Suites of Lux」はとりあえず置いておいて、この2つのボックスセット、欲しいなあ。でもユーロ高だし、日本で買ったら高そうだなあ(--;

2007/04/05

Ties Mellema「Grab It!」

mckenさんのところの記事で知り、けっこう前に買ったまま、紹介せずにいたCD。オランダのサクソフォーン奏者ティエス・メレマ Ties MELLEMA氏のセカンドアルバム「Grab It!(Amstel Records AR 005)」。PayPalアカウントさえ持っていれば、メレマ氏の公式ページから簡単に買える(送料込みで18ユーロ)。

・フィリップ・グラス GLASS - Melodies(抜粋)
・ヤコブ=テル・フェルドハウス VELDHUIS - Billie
・クリスチャン・ローバ LAUBA - Balafon
・ヤコブ=テル・フェルドハウス VELDHUIS - The Garden of Love
・フィリップ・グラス GLASS - Gradus
・マーク=アンソニー・ターネジ TURNAGE - Two Memorials
・ヤコブ=テル・フェルドハウス VELDHUIS - Grab It!

なんという異質な選曲!フェルドハウス作曲の、サクソフォンとゲットブラスターのための3曲、そのほかは全て無伴奏。アルバム全体の明確なコンセプトは掴みきれないが、どこか一貫性を保つプログラムだ、という雰囲気は感じ取れる(苦しい…)。

まず私が嬉しかったのは、フィリップ・グラスの「Melodies」の録音。Chester Musicから出版されている、「Melodies for Saxophone」という曲集をアルトサックスで抜粋して吹いたものなのだ。この曲集、例えば「サクソフォーン四重奏協奏曲」の第4楽章の旋律を始め、とても耳当たりの良い素敵なメロディが収録されている隠れた名作。勝手に気に入っていた曲集だったので、こうやって音になっているのを聴くと、嬉々としてしまう。

クリスチャン・ロバの「Balafon」も、無伴奏の作品としては最近ようやく有名になってきた曲だが、録音が増えたのは嬉しい限り。どこか民族的・宗教的な薫りを漂わせながら、徐々に高揚するサクソフォンがクール。

これら無伴奏作品が、聴き応えあるレベルで演奏されているのは驚き。技術も安定しているし、なにより音色が美しいのだ。あのボーンカンプ BORNKAMP氏の弟子として、師匠のレコーディングにも参加しているほどなのだから、オランダでも期待の若手なのだろう。

さて、無伴奏も前述のように素晴らしい出来栄えだが、なんといってもこのアルバムの重心はフェルドハウスの3作品「The Garden of Love」「Billie」「Grab It!」だ!それぞれソプラノ、アルト、テナーサックスとテープ(ゲットブラスター)のための作品で、声をサンプリングしてリミックスしたテープに、サクソフォンを重ねて演奏されるというもの。このなんとも言えない、ロックのようなジャズのようなポップスのようなグルーヴに飲み込まれていく快感。

このアルバムでは、特に「The Garden of Love」と「Billie」の演奏が素晴らしい!リズムを正確に捉えながら、音色の変化など、個性ある解釈も聴き取れて、とても楽しめる。「Grab It!」の演奏も良いのだが、この曲に関してはすでにいくつかレコーディングがあるため、どちらかと言えばボーンカンプ氏やショウラキ氏の演奏のほうに軍配があがるかな。

無伴奏サックス、そしてテープ+サックスという、異質なクラシック・サックスの世界を垣間見ることができるアルバムだが、聴いてみれば思いのほかキャッチーな音楽に驚くことだろう。

参考:
「The Garden of Love」ビデオ映像(演奏:ティエス・メレマ)
「Grab It!」冒頭抜粋(演奏:アルノ・ボーンカンプ)
「Grab It!」中間部抜粋(演奏:ファビエン・ショウラキ)

2007/04/04

オリジナル・サクソフォーンの響き

ここ2、3日は論文書きで研究室にこもっていたため、更新できなかった。草稿は一応完成したので、久々に自宅でゆっくりしている。

さて、浜松市楽器博物館に先週注文したCDが到着。楽器博物館のコレクションの中から、アドルフ・サックスご本人の手によって作成されたサクソフォーンを使用して、四重奏とソロを録音してしまったというCD。「オリジナル・サクソフォーン 浜松市楽器博物館コレクションシリーズ12(LMCD-1836)」。先日井上麻子さんのブログ記事にて存在を知り、早速注文していたのだ。

・ピエルネ「昔の歌」(四重奏)
・マリー「金婚式」(ソプラノ)
・イタリア民謡「シチリアーナ」(アルト)
・シューベルト「アヴェ・マリア」(Cメロディ)
・クープラン「子守唄、またはゆりかごの中の愛」(テナー)
・フォーレ「夢のあとで」(バリトン)
・バッハ「G線上のアリア」(ソプラノ)
・ムソルグスキー/ラヴェル編「古城」(アルト)
・ドビュッシー「亜麻色の髪の乙女」(Cメロディ)
・サン=サーンス「白鳥」(テナー)
・グノー「アヴェ・マリア」(バリトン)
・サティ「ジムノペディ第一番」(ソプラノ)
・サティ「ジュ・トゥ・ヴ」(アルト)
・フロリオ「アレグロ・ドゥ・コンセール」(四重奏)
・グラズノフ「『カンツォーナ・ヴァリエ』より主題、第一変奏、第二変奏」(四重奏)
・ドビュッシー「小さな羊飼い」(四重奏)
・サンジュレ「四重奏曲第一番 全楽章」(四重奏)
・ドビュッシー「リトル・ニグロ」(四重奏)

井上麻子(1860年製ssax)、篠原康浩(1859年製asax)、中谷龍也(1859年製tsax)、飯森伸二(1860年製bsax, 1855年製Csax)、中野聡子(1874年製pf)

各楽器のソロ、そして四重奏。Cメロディというのは、テナー(B管)より一回り小さなC管サックスのこと。そこら辺に落ちているメロディの楽譜をそのまま読んで吹けるということで、昔は積極的に生産されていたが、今ではほとんど見られなくなってしまったものだ。

ピリオド楽器による録音と言えば、オランダのアルノ・ボーンカンプ Arno BORNKAMP氏によるCD「Adolphe Sax Revesited(Ottavo C50178)」が有名だが、四重奏を含むアルバムというのは、初めてじゃないだろうか。さすがにソプラノからバリトンまでを、オリジナルのサクソフォーンで揃えられるのは、楽器博物館の独壇場と言ったところか。

聴いてみると、実に素敵な響きだ!クラリネットの細い音色に、金属製の倍音を付加したような、現代のサクソフォンの大音量・豊かな音色とは明らかに一線を画すものだ。アンティーク調の家具のように、聴いて(見て)いるだけで、現代人の心を癒すような不思議な音色。表面上は古ぼけているけれど、アドルフ自身が目をキラキラさせながら、工房で一人サックスをいじっている様子すら思い起こさせる。

ところで、アドルフ・サックス自身が構想した、「木管楽器と金管楽器の音色を融合する」というサクソフォーン発明の本来の目的は、このピリオド楽器の響きでこそ成し得られるものではないのだろうか。

これ聴いてしまうと、サクソフォンの進化方向に疑問すら感じてしまいますな。ソロ楽器として確立されてきたのは良いけど、現代の楽器って本来の目的からは到底縁のない代物じゃないかな。アドルフ・サックスが、今のソロサックスの響きを聴いたら、どう思うのだろうか?「オー、そんなに"立つ"音を出したら、軍楽隊の中で目立ってしまうじゃないデスカ。ワタシはそんなつもりでサクソフォーンを作った訳ではアリマセーン」とか言うのかな。

かといって、サックスの音色がこのオリジナルのままだったら、と仮定した時、果たして世界中でここまでのポピュラリティを得ることが出来たか、と言われれば、それも違う気がする。時代が望む方向に楽器も変化しているのだ。

…と、話が逸れてしまった。今回のこの企画、演奏に関しては、かなり難儀があったようだが:前述の井上さんブログの記事や、CDの解説を見てみても、苦労話が多く書かれている…って、あれ?井上さんの記事、ちょっと書き換わっているなあ(^^;、大曲サンジュレやフロリオもかなり聴き応えのあるレベルで演奏されている。ヴィブラートを控えめにしているのは、意図的なものなのだろう(?)。

何はともあれ、幾多の苦難を乗り越えて、リリースに尽力した演奏者&企画者の皆様には拍手を送りたいところだ。ぜひ次は、グラズノフやムラエールト、サヴァリ全曲お願いします、なんて。

4月末からは一般発売もされるようだが、浜松市楽器博物館ミュージックショップ「アンダンテ(andante@itoshin.co.jp)」ではすでに発売中。しかも、少し安く買える。送料込みで、2360円也。