2007/02/01

モルゴーア・クァルテット「Destruction」

日本を代表する弦楽器奏者たちによって結成されたモルゴーア・クァルテットのCD「Destruction(東芝EMI TOCE-9650, PCDZ-1981)」。~Rock meets Strings~という副題からも判るとおり、なんと1970年代のプログレッシヴ・ロックをそのまま弦楽四重奏の演奏に置き換えてしまったと言う、なんとも挑戦的なアルバムだ。「Destruction ディストラクション」というタイトルは、なんだかまさにドンピシャというか。

・吉松隆「アトム・ハーツ・クラブ・クァルテット」
・レッド・ツェッペリン/長生淳「レッド・ツェッペリンに導かれて」
・イエス/佐橋俊彦「イエス・ストーリー」
 ラウンド・アバウト、ロング・ディスタンス・ラン・アラウンド、シベリアン・カトゥルー
・キング・クリムゾン/荒井英治「キング・クリムゾンの肖像」
 レディース・オブ・ザ・ロード、太陽と戦慄パートI、21世紀の精神異常者

ロック大好き作曲家、吉松隆氏が世紀末音楽へのオマージュとして書き下ろした秘曲「アトム・ハーツ・クラブ」を冒頭に配置し、さらにレッド・ツェッペリン、イエス、キング・クリムゾン…ブリティッシュ・ロック好きにはたまらない名前が並ぶ。ここまで読むと、「あれでしょ、クラシック奏者がアソビでロックの旋律を弾いているだけのやつ」のように、多少ニヤニヤする方も、あるいはいるかもしれないが、アルバムを聴き始めると、その嘲笑が驚愕に変わること間違いなし。

音自体の強烈さは、確かにオリジナルに比べれば僅かに劣るかもしれない(エフェクタ&アンプを通したギターの音に、アコースティックのヴァイオリンが打ち勝て、というのはさすがに無茶な注文だろうし)。しかし、なんだこの演奏は!圧倒的なテンション、ビート、上手さ…。弦楽四重奏で、ここまでオリジナルに近づく演奏を再現できるのか(いや…もしかしたらオリジナルの強烈さを超えている部分すらあるかもしれない)という驚き。

吉松氏の「アトム・ハーツ・クラブ」冒らテンション全開。ド頭からガシガシ弾かれていく変拍子の導入部は、これはELPの「タルカス」そのまんまだな(笑)。第2楽章の叙情性なんかは弦楽器の独壇場だと思うし、第3楽章の軽めのピツィカートによるスケルツォを経た第4楽章が圧巻の弾きっぷり!トルヴェール・クヮルテットのあのサックス四重奏版の演奏が、優しく聴こえてしまうほど。

レッド・ツェッペリンは、オリジナルの曲をよく知らないのだが、これまた激しい演奏で…オリジナルを知っている人が聴いても、これならば首を縦に振るんじゃないだろうか。最終部で現れる「天国への階段」は、全楽章を回顧するような弾きこみ。冷静に弾いてちゃ、こんな演奏はできないだろう…凄すぎ。

イエスの「ラウンド・アバウト」や「シベリアン・カトゥルー」を弦楽四重奏で聴けるとはねえ。「ラウンド・アバウト」の冒頭、ヴァイオリンで演奏されるリフの美しいこと。直後に刻み始められるビートとの対比が、なんとも良い。編曲者の佐橋俊彦氏も、ブリティッシュ・プログレッシヴ・ロックが大好きなんだそうだ。

そして最後に置かれたキング・クリムゾンの3曲!編曲が第1ヴァイオリンの荒井英治氏だというのも驚きだ。いやー、やばいですよ、かっこよすぎですよ。「Yeah」もハマりまくっているし、「太陽と戦慄」の刻み、「21世紀の精神異常者」のあの長大なソロに、超絶ユニゾン、やりたい放題のコーダと、挙げていけばきりがない。ここまで聴いてくると、モルゴーア・クァルテットのメンバーの、プログレッシヴ・ロックに対する果てしない愛情が、アルバムの隅から隅まで溢れ返っていることに、気付かない者はいないだろう。

ああ、ちょっと情熱的に紹介しすぎたかしらん。いやしかし、これはクラシックファンとロックファンの全員が聴くべき超々名盤!多少の思い入れ先行型紹介文はお許し願いたい。

本CDは、廃盤となってしばらく経ち、CDショップはおろか、中古ショップやオークションで見かけることすらほとんど無いと言える。しかしなんとモルゴーアの演奏会の会場では売っている…先日の演奏会で帰りがけに見たときは、まだニ、三十枚ほど残っていた。欲しくなっちゃったあなたは、ぜひ次回のモルゴーアの演奏会を聴きに行きましょう(ちなみに、CDで聴ける弾きっぷりの凄さは、生でモルゴーアの演奏を体験すると「こういうことだったのね」と、納得できる)。

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